という地点から自分が生きることを考えた本『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』が出た。
著者は、路上生活の達人の生活を記録した『TOKYO 0円ハウス 0円生活』の著者、坂口恭平だ(「Spectator」で「立体読書のすすめ」という新しくて楽しい書評も連載している)。
本書を読むと、無職・無一文でも、どうにかなることがわかってくる。
たとえば衣服。
路上生活者にいろいろ話を聞いた著者は、みんなたくさんの衣服を持っていることに驚く。
“ほとんどが拾った衣類だという。まだまだ着られる服が、大量に捨ててあるのだ”
燃えるゴミの日に歩き回れば、いくらでも見つけることができる。
他にも方法は、ある。
“都内では、「週に二、三回、お祈りをする」といった条件付きではあるが、いくつかの教会で衣服をタダで手に入れることができる”
“代々木公園でも、定期的に服が手に入る。南千住の玉姫公園では、週に二回、午前一一時頃から洋服をタダで配布している”
都会では、“衣服は日々実る”のだ。
食べ物はどうか?
“東京都にかぎれば、みんな口を揃えて言うのが、「とりあえず台東区へ向かえ」というセリフだ”
台東区だけは毎日炊き出しがあるそうなのだ。
炊き出しスケジュールや、炊き出し以外の「おいしい食事のありか」などが紹介される。
住むところは?
ダンボールハウスのつくり方が図解される。
上野の「ザ・ベスト・オブ・ダンボールハウス」を紹介し、著者はこう記す。
“ダンボールハウスの機能性に比べると、必死に壁をつくり、間に断熱材を入れて、さらに暖房器具を使って暖をとる現代の住宅が、あまりにも鈍重なものに思えてくる”。
さらには稼ぎ方。
アルミ缶拾い、ガラもの(アルミ缶以外の金属)拾い、小物拾い、電化製品拾い、情報屋、賄い夫、ドロボウ市など、さまざまな方法がつぎつぎと登場する。
さらには電気。
自動車用の12ボルトバッテリーを使った電気システム。
家に、電気・ガス・水道が完備されているのは、たしかに便利だ。だが「小型テレビが自動車用バッテリーで何十時間もつか」そういった知識があることで、電気も必要なぶんだけ手に入れる生活でOKになる。
代々木公園の禅僧と呼ばれる男性が登場する。家はいらないのか、という質問に
「いらないよ。だって今日は晴れているじゃないか。空気に触れていたほうが気持ちいいよ」と答える。
「この完全無職0円生活には束縛がない。
本当にこういった決意ができるのなら、無一文・無職で「都市型狩猟採集生活」をやっていけるのかもしれない。
でも、ちょっと気になるのは、このライフスタイルを絶賛し「きみが起こすことのできる、唯一の革命なのだ」と断言する著者が、ここに紹介するような「都市型狩猟採集生活」で生活していないようなのだ。
少なくとも、著者は「ぼくの生活を見よ」とは書かない。
“それでもよくわからないというのなら、ぼくがきみを彼らの家に連れていく。そこで実際にやり方を見てみればいい。だいたい今、本質的な生活を教えてくれる場所がどこにある?”
彼らの家じゃなくて、著者に家に連れてってほしい。ぼくは、著者の坂口恭平さんの生活が見たい。(米光一成)