第1回
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東京から北三陸にやってきて海女になった16歳の少女アキ(能年玲奈)。彼女の甘酸っぱい成長を描く連続テレビ小説「あまちゃん」(宮藤官九郎脚本)は話題のまと。


アキのかわいさをはじめ登場人物の強い個性、脚本の面白さ、海女さん、まめぶ、ウニという北三陸の魅惑的な風物詩など「あまちゃん」ネタは日常のコミュニケーションを円滑にするキーワードになりつつあって、久慈へまめぶ汁を食べに行ってレポートする人が現れるほどの盛り上がりっぷりです。

こちらも、負けるなとばかり、NHKスタジオパークに行ってきました(スケールがぜん小さっ)。
この様子は最後にお伝えすることにして、今週も「あまちゃん」の先週分を振り返るレビュー、「それでは出発進行!」(19回でのユイちゃんの台詞)です!

第4週(4月22日から27日)「おら、ウニが獲りてぇ」は、東北新幹線よりも早く物語が進み、こんなに展開早くて、このあとどうなるの? と気になります。
「鈍感で幼稚」とナレーションで解説されてしまうヒロイン・アキですが、この1週間で「もう甘ちゃんじゃなく海女さんだ」と夏ばっぱに言われるほど(ナレーションと夏は同じ宮本信子)めざましい成長を遂げます。

アキが敬愛する親友ユイ(橋本愛)の映像が観光協会のサイトに載ったことで大反響を呼び、日本各地から観光客が北三陸に押し寄せてくると、その相乗効果でアキまでプチブレイク、袖が浜にも観光客が詰めかけます。
しかしアキはまだウニがとれません。

とうとう海女の活動期間の終わりである9月の末日が近づいてきました。
ラストチャンスは潜り納めのイベント「本気獲り」。
皆が固唾を飲んで見守る中、アキは海に深く潜り・・・。
というのが、第4週の大まかなあらまし。

一人前の海女を目指すアキは、ウニを獲るという最大の課題を抱えながら、ヒロシ(小池徹平)に告白されたり、ユイや先輩海女のプロ根性に学びを得たり、漫画家・河井克夫などが演じる観光客たちに熱い視線を投げかけられたり、母・春子(小泉今日子)に「ブス!」と罵られたり、春子が灯台の下に書いた「海死ね ウニ死ね」がまたもや韻を踏んでいたり、春子の部屋でYMOの曲に「キュン」としたり、先輩海女の安部ちゃん(片桐はいり)が引退したり、リアスに貼られた名士・足立功(平泉成)の講演会ポスターも週半ばにはさりげなく違うデザインに変わっていたり、荒波のごとく激しく緩急のついた毎日を過ごします。

殊にアキが成長していることを感じさせたエピソードはこれ。

地元でブラブラしてる青年・ヒロシの父・功が息子をなじったことを、アキは「親として本気でストーブさん(ヒロシのこと)のことを心配してるんじゃないかな」「子供がかわいくない親なんていねえと思います」と解釈します。
これは、第3週で夏ばっぱがアキを本気で心配するからこそきつく叱ったことから学びを得たということでしょう。

大人の階段を上り始めたアキにならって、今回は「あまちゃん」から得た人生の学びを9つ、噛み締めます。

1.アキの親友・足立ユイからの学び「どんなに騒がれてもちやほやされても自分を見失なわない」

ミス★北鉄に選ばれ、サイトに映像が載ったことから人気がブレイクするユイですが、これは自分の実力による人気ではないとちゃんと認識していました。
彼女は、休日にはダンスのレッスンをして力を蓄えています。
アキは、ユイのその冷静な視点の影響を受けて、自分がプチブレイクしても「この人気は一過性」と平静でいられるのです。



2.アキの祖母・夏と先輩海女たちからの学び「海女はサービス業」

アキ目当てで観光客がいっぱい来ているにも関わらずウニのとれないものだから、
安部ちゃんが代わりに獲ってアキの手柄にしてくれます。
やらせに気がとがめてならないアキに夏ばっぱが説きました。
「観光海女はサービス業
自分で獲りたいとか安部ちゃんに悪いとかそんなん知ったこっちゃない
サービスする 喜んでもらう また来てもらう
ウニは銭 海女はサービス業」
これはユイが語った「望まれている自分を演じる」ことと同じ。
海女やアイドルに限らず、仕事とは自分の満足ではなくて、欲してくれる人の満足を作り出すことなんですね。
うーん、海より深い命題です。

3.アキの母・春子(小泉今日子)からの学び「考えるな」

春子が「長く深く潜るために必要なもの」をアキに伝授。

「人間のカラダの中で一番酸素を使うのは脳みそなんだって
脳みそを使えば使うほど考えれば考えるほど酸素を使うんだってよ」
と教わったアキは「何も考えないこと」「頭をからっぽにすること」を意識しますが、
それは案外難しいのでありました。

そのとばっちりでヒロシは意を決して告白したのに、アキから思考をシャットアウトされてしまいます。残念!(あ、これは、ギター侍)

4.ユイの兄ヒロシからの学び 「なにやっても続かない男は恋愛も難しい」

アキのことを好きになったヒロシが、母・春子に根回しに行きますが、
「ヒロシ君じゃアキを幸せにできないからよ
だって何やっても続かないでしょう
地に足がついてない」と手厳しく返されます。
「真っ当過ぎて泣けてきた〜〜」と大吉にも同情されてしまうのでした。

その後、ヒロシも仕事に目覚めて、アキの海女としての成長を撮るためにサイト用のムービーを回し続けるところはなかなか凛々しかったです。

ちなみに、春子の80年代アイテム満載の部屋で「館ひろし」の写真をアキがみつけますが、これも「ヒロシです」ネタに呼応していると解釈していいのか迷うところです。


5.アイドルオタク・ヒビキ一郎に学ぶ「対抗馬をつくることでさらに火がつく」

早々にユイに目をつけ、アキのことは「ブス」呼ばわりしていたアイドルオタク・ヒビキ一郎(村杉蝉之介)は、押し寄せるユイファンを仕切りはじめます。
一郎は、アキのプチブレイクを「ユイとは対称的な親しみやすさととんでもない訛りが受けた」と指摘。
さらに、今回の北三陸ブームのポイントは、「(ユイが)揺るぎないかわいさゆえ近づきがたい印象をあたえてしまうのも事実。そこへ海女のアキちゃんが現れた」「ユイひとりじゃここまで盛り上がってない」と分析します。

「天竜が現れたジャンボ鶴田の人気が出るみたいな感じですね」という北三陸副駅長・吉田正義(荒川良々)の喩えがシブい。
第4週では吉田が、ヒロシがアキに告白するとき、そっと脇を通るとか、一郎がファンを仕切るのを「やらせておきましょう」と肯定したり、いろんな局面で愛嬌を振りまきます。


6.ヒビキ一郎から学ぶ その2「オタクは蔑称と心得よ」

「オタクさん」と「さん」付けすれば丁寧と思ったら大間違いです。
そもそも「お宅」は相手を敬う言葉だったはずですが、それをアニメや漫画ファンなどがよく使って会話していたことから、彼ら自身を「オタク」と総称するようになったという説もあります。
北三陸のひとたちの素朴な呼びかけは「オタク」の語源を考えさせられました。

7.出演者の顔ぶれに学ぶ「東北出身者の説得力」

21話で、アキのファンになった娘をつれて横浜から来た母親を演じていた笠木泉は福島県出身の俳優。
ほかに、レギュラーでは海女の弥生・渡辺えりは山形県出身。かつ枝・木野花は青森県出身。弥生の旦那、あつし・菅原大吉は宮城県出身。観光協会会長で春子と高校時代3日間だけ交換日記をしていたことが判明した菅原・吹越満は青森県出身と、
「あまちゃん」には東北出身者が多いのです。宮藤官九郎は宮城県出身です。

安部ちゃんが海女を引退し、まめぶを全国に広める任務を担うことになりますが、まず北関東・宇都宮から関東を攻めるという作戦も勉強になりますなあ〜。

8.字幕に学ぶ「無言の効果」

最近の連続ドラマは、役名と役の簡単な解説をテロップで出すものが増えています。
「あまちゃん」も第4週から、登場人物が最初に登場するところで名前がテロップで出るようになりましたが、テロップをまじめな説明だけではなく、おもしろい方向へも生かしています。
例えば、「まめぶ」。なんだかシュールでした。
それから、「愛羅武勇 あいらぶゆう」と「舞蹴蛇苦尊 まいけるじゃくそん」。
ギャグを誰もに強くアピールしたことに拍手をおくりたいです。

そうかと思えば、24話「本気獲り」の水中シーンでのテロップに注目。
安部ちゃん「危ない」
アキ「大丈夫離して」
一度溺れたことがトラウマになってウニを獲れなかったアキのラストチャンス。
ぐぐっとウニに手を伸ばします。
海中では、このテロップが入った以外はいっさいナレーションは入らず無音。
息を飲み食い入るようにテレビ画面を見てしまいました。

台詞の情報量が過剰に多い「あまちゃん」ですが、こんなふうにたまに無音のときがあり、それが効いています。
多弁な登場人物の中で唯一寡黙な琥珀掘りの勉さん(塩見三省)がリアスで表情だけで状況を鮮やかに表していることがあって、それも独特のムードを出しています。

さらに秀逸だったのは、アキが安部ちゃんのことを「まるで落ち武者だべ」と言ったあとの放置。
「落ち武者」? なんのことだ?とテレビの向こうでは誰もが「?」と思ったでしょう。ところが何事もなく話が続いていきます。
ずいぶんあとになって漁協の組合長・六郎(でんでん)が「影武者じゃねえか 落ち武者じゃなくて」と唐突にツッコミます。
こういうのも朝ドラ初だと思います。クドカン先生の攻めの姿勢を感じました。

9.海女・弥生に学ぶ「彼氏の重要性」

「海女って彼氏ができると潜りが上達するんだあ」と弥生が言うと、すかさず春子が「やめてシモネタ」とたしなめましたが、第5週ではアキの初恋が描かれるようです。
アキの潜りが上達しちゃうのか? 
ますます展開早っの「あまちゃん」今週も見るじぇー!

おまけ「おら、NHKスタジオパークに行きてえ」

5月19日まで、NHKの見学施設・スタジオパークで「あまちゃん」じぇじぇじぇ〜展をやっています。
一歩足を踏み入れると、そこは北三陸駅の中。時刻表やお土産コーナーなどディテールがわかります。琥珀の玉作りセットやご当地演歌のCDなんてあるんですね。
喫茶&軽食リアスの入り口があり「準備中」の札がかかっていたので、見学に来たおじさんが「準備中だって」と本気にして中に入ることを躊躇していました。
気にせず入り口を抜けると北鉄と海の書き割りが。そこで車掌さんの帽子をかぶったり海女の衣裳を着たりして写真が撮れるようになっています。アキとユイみたいになって写真が撮れるということですね。
美術デザイン画や雑誌のインタビュー記事なども貼ってあります。
ドラマライブラリーのフロアに進むと、メーキング映像が流れるモニターや出演者たちのサイン色紙展示などもあります。運が良いと番組収録も見ることができるようです。
そして、スタジオカフェには「あまちゃんセット」900円が。
まめぶ汁とウニとわかめが乗った磯の香り漂う江戸が浜丼をいただきました。
ふむ。まめぶのおやつなのかおかずなのかわからない感じは、タピオカにとうもろこし、酢豚にパイナップルと似ているかも。
クルミと黒糖がやさしく甘いまめぶ初体験で、本場・久慈にも行ってみたくなりました。

ゴールデンウイークは、NHKスタジオパークをのぞいて「あまちゃん」気分を大いに高めてみてはいかがでしょうか。
(木俣冬)

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