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連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)、13週(6月24日〜29日、73〜78回)からいよいよ「東京編」に突入!
ヒロイン・アキ(能年玲奈)は東京から母の故郷・北三陸に移住、海女として活動していましたが、東京のスカウトマン水口(松田龍平)に見いだされ、アイドルを目指して再び東京へとやってきます。

北三陸の海の美しさに彩られた素朴な「故郷編」が終わり、建物いっぱいでせま苦しい東京、しかもアイドル予備軍の生活する奈落と呼ばれるアンダーグラウンドが主舞台になると、なんだか世界観が俗っぽく、矮小になって盛り上がりに欠けるのではないか? という懸念はいきなり吹っ飛ばされました。


とてもわかりやすく丁寧に描写されたアイドルのバックステージは興味深く、カリスマ・プロデューサー太巻(古田新太)、野心に燃えるマネージャー水口、トップアイドルとその予備軍たち、アキの憧れの女優(薬師丸ひろ子)などが生き生きと魅力的で、ドラマはますますの冴えを見せます。

もともとクドカン先生が芸能、音楽ネタが得意なので、ノって描いているように思います。それをさらに力強く押し上げるのが、大友良英による楽曲の力です。

故郷編では「潮騒のメモリー」が象徴的な歌となりましたが、東京編では「暦の上ではディセンバー」という強烈な歌が登場、架空のアイドルグループ・アメ横女学園の歌という設定のこれがまた、耳に残る、残る。
これ、6月29日からNHK SOUND、レコチョクなどで配信リリースもはじまっているという周到さ。「潮騒〜」も「〜ディセンバー」も、「マル・マル・モリ・モリ!」(「マルモのおきて」の主題歌)以来のテレビドラマから生まれたヒット曲になりそうです。


「潮騒〜」同様、作曲は大友良英、作詞は宮藤官九郎。「東京編」はアキのアイドルとしての活躍を描くものになるようなので、今後も新曲が続々登場してくるのではと期待がふくらみます。
おそらく、今年の紅白歌合戦は「あまちゃん」メドレーで大盛り上がりすることは間違いないでしょう。いや、いっそ、架空の歌手ばっかり集めた「あまちゃん紅白歌合戦」を独立してやってほしい気もします。

架空とホントが入り交じっているところが「あまちゃん」のおもしろさで、水曜日の75回、アキのママ・春子(小泉今日子)の回想シーンは、小泉今日子が松田聖子の「風立ちぬ」を歌うという、80年代アイドルファンには夢のようなコラボでした(姿形は有村架純で、声だけ小泉今日子)。

また、ヤング春子(有村架純)がバイトする純喫茶アイドルのマスター役・松尾スズキがおニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」を、妙にいい声で歌うシーン、おニャン子を軽く批評するシーン(新田恵利がそれに反応して、ブログを書き、話題になりました)などもくすぐります。


クドカン先生はSMAPのヒットソング「BANG! BANG! バカンス!」(05年)の作詞を手がけた経験もあります。何度もここで書いていますが、「あまちゃん」は歴史に残る音楽ドラマとしての可能性を秘めているのです。

そもそも、あの最高にノリのいいオープニングテーマがオッフェンバックのオペレッタ「天国と地獄」の序曲「カンカン」を思わせるところがあるんですね。
劇場を経営してオペレッタを上演していたオッフェンバックと東京EDO シアターを経営する荒巻と重なるところもあります。「天国と地獄」って冥府巡りの話ですし、華やかなステージと奈落にもぴったしカン・カンじゃないですか。
それにしても、岩手、鉄道、琥珀、花巻、アキとユイ(橋本愛)・ふたりの親友などが「銀河鉄道の夜」を思わせる部分もあって、それもまたそこはかとなく冥府巡り感が漂うところにドキドキします。


さて、「あまちゃん」振り返りますと、初回は母親が倒れた(嘘だった)と連絡を受けて、春子がアキを連れて故郷に帰ってきたところからはじまりました。
「故郷編」のはじまりは、ユイの父が倒れ(こっちは本当)、旅立ちに暗い影が落ちたところからです。
呼応する出来事を盛り込んで、折り返し地点感を出しています。実験的な作風を追求するだけでなく、こんなふうに「故郷編」と「東京編」をリンクさせて、朝ドラらしい情感を出すところが、巧みです。

なんといっても、前線で活躍するアイドルを陰で支える奈落のシャドウ(代役)たちと、アキ(能年玲奈)がウニをなかなかとれないで悩んでいたとき、アキの代わりにウニをとってアキに花をもたせていた落ち武者ならぬ影武者・あんべちゃん(片桐はいり)をピタッと重ね合わせたところは、あまりに鮮やかでした(木曜日76回)。


落ち武者じゃなくて影武者ネタは第4週24話です。

その、あんべちゃん。まめぶ大使として信念をもって地道に活動を続けているところも涙を誘います。

涙を誘うといえば、金曜日の77回、太巻が差し入れた寿司の残りに三陸のウニがあって、アキがそれを食べるシーン。それを、奈落チームの自分たちは食べてはいけないものとメンバーにとがめられ、500円を払おうとするところは、アキが故郷・北三陸を背負って来ていることを感じさせます。アキは北三陸のウニを愛しているし、ウニは銭だとその身にしみ込ませているのです。

その前の木曜日76回で、太巻(古田新太)はいきなりアメ横女学園のセンターの有馬めぐ(足立梨花)のシャドウ(代役)にアキを抜擢しています。

天狗になっている子を奮起させるために、時折、人気も実力もないメンバーを抜擢してメンバーに危機感をもたせるのだという裏話が明かされました。
これって、若者を育てることで定評のある、かの蜷川幸雄先生(「Wの悲劇」に演出家役で出演)も「マグナカルタ」Vol3「日本人の身体」 で語っていらっしゃいますし、とても信憑性がありますな。

その、太巻が「(今、センターにいる有馬めぐが)奈落にいたころがいちばんおもしろかったよ」という台詞が非常にリアルに響いてくるのは、演じている古田新太が、ある種のアンダーグラウンドである小劇場から活動をはじめ、人気劇団の看板俳優としてメジャーになっていったというバックグラウンドをもっているからでしょう。クドカン先生自身も小劇場からはじめていますしね。

アメ女のステージを奈落で支えるGMT47(まだアキを入れて6人しかいない)たちの動きをしっかり追った描写は、ステージをやってきた人だからリアルに描けるのです。クドカン先生は、歌舞伎の脚本も手がけていますから(「大江戸りびんぐでっど」)、優秀な黒子による転換の美などもよくわかっているでしょう。


また、佐賀方言指導でクレジットされている樋渡真司は、劇団・自転車キンクリートの俳優だと思われます。俳優なのに顔出ししないで支えている人の存在にもなんだか勝手にほっこりするのです(いつか登場するのでしょうか)。
そして、アキがついに出会った名女優・鈴鹿ひろ美役の薬師丸ひろ子が、84年公開の主演映画「Wの悲劇」で、売れない劇団員が、名女優のスキャンダルの身代わりになることでいい役に抜擢されるという役を演じていたことも思い出されます。
そう思うと、海に潜る仕事にもアンダーグラウンド感があります。
GMT47、アメ女などという単語から、アイドルものという印象が強くなりがちですが、「あまちゃん」は、世界の奈落、そこに生きているたくさんの地道な「影武者」たちへの応援歌でもあるのです。

庶民の味方感いっぱいの「あまちゃん」。今週14週「おら、大女優の付き人になる」では、アキは女優の道を歩みだすのでしょうか。鈴鹿ひろ美の付き人になって、何かの身代わりになったりしないかな? (木俣冬)

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