第1回はコチラ
「毎週月曜更新中、木俣冬のおさらいあまちゃん」バックナンバー集はこちら


ナポリタンってあばずれの食べ物なんですねえ。

連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK/宮藤官九郎脚本)14週 (7月1日〜6日、79〜84回)は、アキのママ春子(小泉今日子)の「ナポリタンは〜」発言(金曜83回)をはじめ、ビックリの連続でした。
「あばずれ」って言葉もなかなか聞く機会ないですよね。

サブタイトルは「おら、大女優の付き人になる」ということで、アキ(能年玲奈)は憧れの女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の付き人になります。
アキは名女優の意外な素顔にビックリしますが、14週は、実にたくさんの登場人物が変化していて、じぇじぇ! も じょじょ! になってしまうほど(水曜81回の「じぇじぇ」とつぶやいたアキに鈴鹿が「ジョジョは奇妙な冒険よねえ」と言う)。

アキが8月の終わりに東京に来てから季節は移り変わり、ドラマ上では、暦の上ではディセンバーの1ヶ月前のノーベンバーになっています。
では、変わってビックリな人たちに注目してみましょう!

変わってビックリ その1 ユイ、やさぐれる


アキの親友・ユイ(橋本愛)の変貌は大ショックでした。
倒れた父(平泉成)も次第に復調してきて、ようやくアキの待つ東京へ行けると思った矢先、母(八木亜希子)が看病疲れで失踪。ユイは再び東京に行けなくなってしまいます。

絶望したユイはやさぐれて、前髪をあげて、髪にメッシュを入れ、ジャージを着て、改造車を乗りまわし、小太りの愛犬家と腕を組んで歩き回るようになってしまうのです。
橋本愛の変化の芝居が実に鮮やか。本当に別人のようでした。
ギラギラした野生的な瞳は、触る者をみな傷つけるようで、チェッカーズの歌が思い出されました。


変わってビックリ その2 春子、地元に溶け込む


アキのママ・春子がだんだん北三陸の女・化していきます。
まずは、言葉がなまってきたことを、電話で話したアキが指摘します。
それから、服装。

弥生(渡辺えり)が経営するブティック紺野の、派手な柄の服を着るようになるのです。
ぐれたユイを叱咤激励するとき、ブティック紺野の商品の中でもハードルの高いブラウスを着て、髪もアップにし、イヤリングをして赤い口紅をした姿は艶やかで迫力がありました。
ここぞ! というとき気合い入れて変身する、やっぱり春子はアキの母。女優の素質がありそうですね。

ユイ、変化さらに変化


春子の「ナポリタンはあばずれの食い物」発言が飛び出した金曜日85回の、春子VSユイ@リアス はスリリングでした。

過去にヤンキーでアイドルを目指していた春子が、似たような境遇のユイ(彼女はアイドル目指していてヤンキー化したと、順番は反対)のことを最も理解してあげられるという関係性が良いのはもちろん、腫れ物の触り方を北三陸のひとたち(特に男たち)が学んでいく様子が良いのです。

ユイに対して、どうしていいのかわからず、へんな発言をしてしまっていた大吉(杉本哲太)たちが、リアスにやってきたユイに何も言わずに自然にゲームの仲間に入れて一緒に遊ぶ。
そしてユイはいつの間にか、笑顔に。

非常に微笑ましい場面ですが、最も注目すべきは、ユイがたけしのコマネチポーズをすること。
アキも46回でたけしの物真似をやって「コマネチか!」と磯野先生(皆川猿時)に言われてましたが、ユイまでとは!
春子たちがリアスでやっていたのは、せんだみつおナハナハゲームの変形で、ナハナハのところを、コマネチポーズみたいにしていたのですが、あのユイちゃんが、股関節に沿って手を上下させるなんて! 
東京の水口(松田龍平)が「この逆境を乗り越えたらユイちゃん強いぞ、無敵のアイドルだよ」と言いますが、まさになんでも受け入れられるようになったと言えましょう(感涙)。あ、この逆境はコマネチのことではなく、家族問題のことです、念のため。

変わってビックリ その3 種市先輩が寿司屋に


アキは初恋の相手・種市(福士蒼汰)と再会しますが、先輩は、仕事を辞めてしまっていました。
潜るのは得意ですが高いところが苦手だった種市。にも関わらず、東京スカイツリーの工事現場に回されてしまったのです。

陸にあがった魚状態ですっかり元気のなくなった種市を、アキは激しく叱咤(やっぱり春子の娘・・・)。
それによって種市は奮起して、寿司屋に就職することになります。アキや鈴鹿がよく行く寿司屋(ピエ−ル瀧が小林薫を気取ったりジョジョポーズしたりしている無頼寿司)です。
それにしても、いくら夏(宮本信子)の適当な(?)助言もあったとはいえ、未成年のアキや種市が回らない寿司屋でご飯食べているのってぜいたくですよねえ。
やっぱり彼らにとって、海の幸は日常と地続きってことなのかな。

変わってビックリ その4 鈴鹿ひろ美 


アキの憧れの女優・鈴鹿ひろ美の意外(というかやっぱりというか)な、ふつうのおばちゃんの素顔がアキを驚かせます。
芝居以外はおポンチな鈴鹿ひろ美。
でも芝居をすれば迫真。芝居の話には熱くなる。芝居ひと筋の鈴鹿ひろ美なのです。
忙しくて「潮騒のメモリー」のことを全然覚えていない、という鈴鹿ひろ美。
なんとなくここが気になるんですよねえ。
彼女の元マネージャーだったという太巻(古田新太)が、アキの母が春子だったと知って異常なまでに動揺するところ(土曜84回)も気になりますね。
何かひと波乱ありそうです。
もうひとつ気になったのは、火曜80回の鈴鹿の台詞で出てきた「ヒミコがタイムスリップするやつ」ってどんな作品だよ? 


変わらないもの、アキとユイの友情 


木曜83回で、「親友でも緊張感が大切だ。ユイちゃんには常におらの先を走っててほしいんだ」というアキ。
なんだかこの友情は男同士のものに近くはないでしょうか。女の友情ってこんなに清々しくない気が・・・。でも、そこが「あまちゃん」のいいところです。

太巻も水口も誰も彼もが、アキのことは「なまってるほう」という認識で、ユイのことを「かわいい」「センターにふさわしい」と言っていて、そのことに若干傷つきながらもアキは、そこでユイに嫉妬することはなくて、ずっと尊敬し大切な相棒と考えているところが気持ちいい。

こんなふうに、クドカン先生の描く女性は、凛々しいというか雄々しい。さすが、自身の演劇公演のレーベル名を「ウーマンリブ」としているだけはあります。といって別に演劇の内容がウーマンリブ的なわけではないですが、クドカンの描く女性にはファンタジー性が少なめ。いや、ほぼ皆無といってもいいんじゃないでしょうか。
春子や海女軍団(まさにアマゾネス)たちの言動に顕著ですが、アキの毒舌や種市への叱咤などやユイのヤンキー化、鈴鹿ひろ美のおばちゃんぽさなど、女性にかぶせたフィルターに甘さがいっさいありません。あるのは笑いも含めたたくましさ。15週は「おらの仁義なき戦い」。このサブタイトルも男らしい。

本来、アイドルやスターは甘いファンタジー性が強いもので、それは男性の内面の乙女ぽさの反映ともいえると思うのですが、クドカンはそこをみごとなまでに剥いでしまったところを描いています。アイドルや芸能界のバックステージを描くにはピッタリの作家ですね。
木曜83回、アメ横の屋上でパンダに乗って種市と話しているところは、街のネオンや屋上の照明などで、かろうじて可愛さが強調されていますが、これはおそらく演出の範疇だと思います。

15週では、アメ横女学園の中で国民投票という名の人気投票が行われますが、40位以下は解雇されてしまうという熾烈な闘いの中、GMTの仲間たちの美しき友情ははたして? そして、スナックで再生中のユイはいつ東京に来るのでしょうか?(木俣 冬)

15週目へ