知り合いのおじさんいたら紹介して「岡野陽一のオジスタグラム」24回。塩顔イケメンおじさんとしっぽり

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知り合いのおじさんいたら紹介して「岡野陽一のオジスタグラム」24回。塩顔イケメンおじさんとしっぽり
風呂風呂風呂風呂風呂風呂風呂風呂!達磨達磨達磨達磨!
風呂達磨!風呂達磨!

長かった。

やっとだ。


お湯の出ない生活をして6ヶ月。
やっと今日給湯器の業者さんが修理しに来てくれる。
この「オジスタグラム」が皆様の元に届いてる頃には、僕はお湯の中だろう。

お湯が出なくなったのは、今年のゴールデンウィークだった。
風呂に入ろうとして、お湯の蛇口を捻るが一向に熱くならない。

「はいはい。
そうでございますか」

公共料金は止まってから払う方針の僕からしたら、全く驚く事ではない。
然るべき罰だ。
速やかにコンビニでガス代を払い、ガス会社に開栓の連絡をする。

引き落としにすればこんな面倒な事にはならないのだが、奴等にはデリカシーがない。
こっちの財政なんてお構い無しに引き落としてくるから嫌なのだ。

汚れ達磨のために申し訳ない


しかし、今回はいつもと違う。
ガスを開栓しても、お湯が出ないのだ。


あれ、令和はお湯が禁止になったのか?
ガス会社に連絡すると、すぐに駆けつけてくれた。
僕みたいな、いくら体を洗っても関係ない汚れ達磨が風呂に入るために本当に申し訳ない気持ちだ。

「あの、ガスの方は問題ないので、これ恐らく給湯器が壊れてますね」
「あ、そうなんですね」
「管理会社さんとか連絡して直して貰って下さい」
「すみません、わざわざありがとうございました!」
「いえいえ、失礼しますー」

お兄さんを見送る、汚れ達磨。
あれから半年。
自分の不精な性格に反吐が出る。

結局、この糞達磨は生命の危機を感じるまで何もしないのだ。

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死を意識する冷たさの前で


夏場は余裕だった水風呂生活も、10月くらいから気合いが必要になり、11月に入ってからは毎回死を意識するようになった。

人間、不思議なもので、死を意識する冷たさの前では自分の意思とは関係なく声を出してしまうのだ。

「しゃー!おっしゃ!しゃ!しゃ!うぉー!ぐわー!」

そこそこのボリュームである。
この時間に外を通った人はさぞ怖かっただろう。
恐らく声を出して、自分を保たないと心臓がとまるのだろう。

しかし、そんな奇声風呂とも今日でお別れだ。
恐らくこれから先もここまでお湯と無縁の生活を長く送る事はもうないだろう。

子供が産まれたら絶対言ってやるんだ。

「父ちゃん半年お湯を使わずに生活したんだぜ!」

って。
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しゃー!おっしゃ!しゃ!しゃ!うぉー!ぐわー!オジスタグラム!ひょー!

本日のおじさんは渡辺さん。
「オジスタグラム」初の友人の紹介で出会った47歳の若手のおじさんだ。

いつもより緊張する


最近、会う人会う人に、知り合いのおじさんいたら紹介してと言っていたのが実を結んだ初めてのパターンである。
平日の夜7時に居酒屋で待ち合わせをする。
珍しく早めに着いた僕はそわそわしていた。

何故かいつもより緊張するのだ。

友人には、オジスタグラムの事を伝えると、相手のおじさんも構えるから伝えないで欲しいと伝えてある。

何て伝えたのだろうか?
今日友だちと飲むけど一緒にどう?
くらいで伝えてくれてればいいが大丈夫だろうか。

気をきかせて、普通のおじさんの歯や髪を全部抜いて連れて来たりしないだろうか。
それは犯罪だ。心配だ。


「ごめん、お待たせ~」

7時をちょっと回ったところで、仕事帰りの友人がスーツで現れる。
僕の心配などよそに隣には、髪も歯もびっちりの塩顔のおじさんが立っている。

「こちら職場の上司の渡辺さん。」
「あ、渡辺です!」
「岡野です! すみません、今日は御一緒させて貰って」
「いやいや、こちらこそ!」
「さぁさぁ、飲みましょう!」

良かった~。

渡辺さんはめちゃくちゃ好青年、いや、好おじさんだ。
楽しい飲み会になりそうである。
友人よ、ありがとう。
乾杯して、コールセンターの仕事の話や、歳の話をあてにビールを美味しく頂く。
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3人で飲めばいいんだ


しかし、一杯目を飲んだ友人が奇行にはしる。

「あっ、ごめん。ちょっとやらなきゃいけない仕事忘れてた!」
「え?」
「帰るわ。渡辺さんすみません!大丈夫ですか?」
「あ、そう。うん、気にしないで!」
「すみません!またお願いします!」

帰り際に、友人が僕にウインクをして去っていく。
え? 何これ?
後は若い二人に任せて。みたいなやつのおじさんバージョン?
後はうまくホテルまで持ち込めよ!みたいな?

違う!違う!
別に3人で飲めばいいんだバカ友人が!
オジスタグラムを何だと思ってるんだ?
ふと目の前の渡辺さんに目をやると、頬を赤らめている。

おいおい、渡辺!「覚悟は出来てるよ、岡野君」
みたいな感じやめろ!
お前何て聞かされて来たんだ?

ん? 逆に塩顔のお前が抱くのか?どっちだ?
いや、どっちもねーよ!

「俺、顔もう赤いでしょ? いやー、酒弱くてね、すぐ顔に出ちゃうんだよ」
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その言葉で僕は数秒のパニックから立ち直る。
ごめん!渡辺! 酒に弱いだけだったのに!
僕が勝手に一人相撲を!

「い、いや、なんかすみません」
「何が?」
「いや、こんなどこの馬の骨ともわからないやつと、二人で飲む事になってしまいまして」
「ガハハハ!お互い様よ。俺も47で独身でろくなもんじゃないよ。まぁ飲もうよ」

二人で珍しく鏡月のボトルを飲む。
万年ビール党の僕にもこんな日があってもいいだろう。

しかし、意外だ。

渡辺さんは、今は多少くたびれてはいるが、清潔感もあり、昔はさぞモテたであろう、星野源さん系統の塩顔のおじさんだ。

「え、渡辺さんバツ8とかですか?」
「ガハハハ! なんでだよ!一回も結婚してないよ」
「えー! 何でですか!?」
「相手がいないんだよ! 紹介してくれよー!」
「いや、僕おじさんしか紹介出来ないですよ!」
「え? そっちの人?」
「それは渡辺さんでしょ!」
「違うよ!ガハハハ!」

今日はどうしてもそうゆう流れになるらしい。

努力もせずにちょっとモテたから


一本目の鏡月のボトルも空になった時、渡辺さんが語り出す。

「いや、ほんと渡辺さんいい人で良かったですよ」
「いや、俺なんて空っぽなんだよ」
「何をおっしゃる。顔もいーし。見てくださいよ、この逆さ絵みたいな顔を。全くモテねーですよ」
「俺だってモテねーよ」
「でも昔はモテたでしょ?」
「そこなんだよ!」
「え?」
「今思えばそれが良くなかったんだよ」
「どうゆう事ですか?」
「若い頃なんの努力もせずにちょっとモテたから、今何にもねーんだよ。モテない奴は格好つけたり、ウケようとしたり努力するだろ?俺何にもしてこなかったんだ。30代後半まで。そりゃ差つくよな」

深い。
逆さ絵がこれを言っても負け惜しみになる。
元塩顔イケメンの渡辺さんにしか扱えない言葉だ。

情けない事でも何でもいい。やはり、その人にしか言えない言葉を言える人は魅力的だ。

オジスターだ。

「見た目なんてくだらないんだよ」
「すげぇです」
「いやいや、しょうもないおじさんの戯言よ」
「いや、ほんと誰か丁度いい人いたら紹介しますね!」
「ありがとう」
「どんな人いいとかあります?」
「えっとな、目がぱっちりしてて」

ダメだこりゃ!

説得力がありそうで、説得力がないのもおじさんの魅力である。
渡辺さんの幸せを祈る。
知り合いのおじさんいたら紹介して「岡野陽一のオジスタグラム」24回。塩顔イケメンおじさんとしっぽり

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)