
(→前回までの「オジスタグラム」)

その日、僕は後輩を連れて居酒屋でご飯を食べていた。
借金がある癖にいっちょまえに後輩を連れて行った事が神様の逆鱗に触れたのだろう。
ピンチは突然やって来た。
斜め前の席に座った女性二人組の一人に見覚えがある。
間違いない。4年前に付き合っていたキャバ嬢の彼女なのだ。
あ! やばい!
向こうは気付いてないが、気付かれたら終わりだ。
運が悪い事に彼女もこっち向きだ。
僕は咄嗟に日食の位置に移動する。
太陽と月と地球が一直線になるあれだ。
昔、勉強した事なんて大概役に立たないが、この時ばかりは日食の位置関係を教えてくれた理科の山下先生に感謝する。
やばい、どうしよう。
店を出るにも、まだもつ煮込みもさつま揚げも、梅水晶すらも来ていない。
一旦日食の配置を崩し、後輩と場所を入れ替わり、僕が彼女に背を向け月になる作戦も考えたが、それも後輩への説明がややこしい。
すまん後輩、実は俺
別に金を借りた訳でもなく、酷い別れ方をした訳でもない。
むしろその逆だ。
僕に気付いたら、彼女は必ず喋りかけてくるだろう。
「にゃんにゃん!!!久しぶり!」
と。
そう。僕は後輩にバレたくなかったのだ。
僕が「にゃんにゃん」と呼ばれていた事を。
すまん、後輩。
実は俺、にゃんにゃんなんだ。
さっきまでお笑いの話などをしていた先輩は実は先輩の皮を被ったにゃんにゃんだったんだ。
今まで楽しそうにしていた後輩も、僕がにゃんにゃんだと知ったら一変するだろう。