『おかえりモネ』第18週「伝えたい守りたい」

第90回〈9月17日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏、原英輔〉

『おかえりモネ』現場を離れていた朝岡と高村が情報を発信「顔が見える相手」による「安心感」ある仕事とは
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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ドラマでは台風12号、現実では台風14号が来ていてややこしい。ドラマでは関東から台風が抜けたが、降った雨によって河川の氾濫の危険が近づいていた。朝岡(西島秀俊)はネット配信を行い、Jテレでは高村(高岡早紀)がカメラの前に立つ。
それぞれが今、できることをやった後、穏やかな朝が訪れて……と思ったら、百音の地元・亀島に危険が近づいていた……。一難去ってまた一難、続きが気になる展開に。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第90回掲載中)

テレビに出なくなったらフォロワーが減った朝岡

人手を借りたいと言われ、朝岡の元に百音が向かうと、彼はネット配信の準備をしていた。朝岡覚、はじめてのネット配信。テレビに出なくなってからフォロワーが減ったので「全国放送で顔を売るっていうのは大事なことかもしれません」という朝岡の発言がリアル。

でもここで重要なのは「顔が見える相手ってだけで人は安心する」というところであろう。これが後々、百音の考えに影響を及ぼすこととなる。
「顔が見える相手」による「安心感」のある仕事とは……。

その頃、百音がJテレにいないことで、思いがけないことが起きていた。台風が過ぎたとはいえ河川の氾濫が起こり、それを報道しないとならなくなった。ところが、莉子(今田美桜)内田(清水尋也)もいったんラフな服に着替えてしまって再度仕度するには時間を要する。そこで沢渡(玉置玲央)が「まんまバッチリですよ」と太鼓判を押して高村がやることになった。

この状況で高村だけは気象班のデスクということもあって気を抜かず、スーツとパンプスのままだった。
常に隙なくいる武士のような心構えが立派だし、もしかしたら、いつだって復帰できるという気持ちも若干あったのかもしれない。

実際、カメラの前に立ち、報道する高村には十分過ぎるほどの現役感があった。もっとも高村が着替えないでいるにもかかわらず、雇われている出入り業者の気象予報士が寝るような格好に戻っているのはいかがなものか(朝ドラ国防婦人会的視点)。本来そこで百音が登板……となりそうなところ、百音はいないというのもでき過ぎている。でも高村のカッコいい見せ場のためなら問題ない。

『おかえりモネ』現場を離れていた朝岡と高村が情報を発信「顔が見える相手」による「安心感」ある仕事とは
写真提供/NHK

「人の顔が見える距離感で仕事することがより求められると思いますよ」

ベテラン実力派キャスターのような貫禄を見せる高村と安定の朝岡のネット放送の様子が交互に映る。若者もがんばっているが、中高年だってまだまだやれることがあるという励ましのようであった。
朝岡の配信はどんどん視聴者数が増えていき、百音は目を瞠(みは)る。

こうして事前に洪水の危険を伝えたものの、洪水は起こり被害は広がった。果たして自分たちのしたことは役に立ったのだろうか。自分たちの仕事について改めて考える莉子、内田、野坂(森田望智)。それを見ながら「若者たちが真摯に仕事に向き合う姿を見て胸を熱くしてたのよ。年長者の醍醐味ね」と沢渡に言う高村。


莉子ちゃん好きだった沢渡がなぜか突如高村派になっているのは単に美人好きなんだろうなあと思うしかないが、彼もまた打算的なふりをしながら、これから気象予報がますます重要になってくることを噛み締める。

刻一刻と変わり、それもこれまで以上に住人にとって脅威となっている天災に関して危機感を募らせ、いかに伝えるか腐心することは重要である。それをドラマの題材にすることも現代的である。ただ、テレビ局の報道と並行して朝岡が独自にネット配信で重要な情報を伝えていることにいささか疑問を感じた。朝岡はこれまでの実績があるとはいえ、こんな重大なことを勝手に配信していいものなのだろうか。これはウェザー・エキスパーツの仕事の一貫でやってることなのか、芸能人が最近やっているような個人の発信なのか、いまひとつわからなかったのである。




日本国憲法第21条に則れば、表現の自由や報道の自由は保障されている。だからこそ市民ニュースというスタイルもあるくらいで、知り得たことを伝えることをやっちゃいけないわけではないだろう。ただし朝岡のような実績ある人からない人まで誰でもやろうと思えば命に関わる重大事をいきなりネット配信を始めることができることにもなる。それこそフェイクニュースも混じって混乱を極める恐れありだ。実際、気象に限らずあやしいニュースは現実のネットに飛び交っている。

だからこそ朝岡の言う「信用」が大事になってくる。
この人なら信用できるという安心感を積み重ねていくことで情報の価値が上がる。そのひとつが「顔出し」であると朝岡が言う。『モネ』ではあくまでも問題提議をしたに過ぎない。テレビで顔を売ればいいかも定かではなく、信頼とは何か、それ自体もっと考えなければいけないことである。つまり、何を根拠に情報を信頼するか、受け手の問題でもあるわけだ。

『おかえりモネ』現場を離れていた朝岡と高村が情報を発信「顔が見える相手」による「安心感」ある仕事とは
写真提供/NHK

そこで朝岡は「人の顔が見える距離感で仕事することがより求められると思いますよ」と百音に言う。つまり、信頼の根拠として、遠い人より近い人を選択するということである。顔だけは有名だが、向こうはこっちを知らない人の漠然とした一般論よりもよりも傍にいる人の実感を大事にすること。

「私は目の前にいる人たちが良かったって笑顔になるのが見たい。自分が役に立ったと思いたい。けっきょく『あなたのおかげで助かりました』と言われたいだけなのかもしれません」とつぶやく百音の想いのように、まずは身近な人と情報を共有し助け合うことからはじめること。それが大切なのかもしれない。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami