ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第471回)
自動車各社の年度決算が5月に発表されました。アメリカの関税政策が影を落とし、各社軒並み減益、そうした中で電動化戦略の見直し、高収益モデルへのシフトが鮮明になりました。
オンラインで行われたトヨタ自動車決算会見
■トヨタ、売上高初の50兆円にも厳しい表情
さて、国内最大手のトヨタ自動車です。2026年3月期の連結決算では売上高が初めて50兆円に達しました。レクサスを含む世界販売は1047万台あまりと1000万台の大台超え。そのうち、電動車はHV(ハイブリッド車)を中心に、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)含め、初めて500万台を超えました。
本業の儲けを示す営業利益は3兆7662億円、最終利益は3兆8480億円とともに減益であるものの、アメリカ関税の影響は1兆3800億円で、これがなければ5兆円を超える勢いでした。売り上げに対する利益率は8%弱。決して悪い数字ではありませんが、当のトヨタにとっては物足りないようです。
「中長期目線で進めるべき事業構造の変革や、将来の種まきのスピードが遅いことが要因」と宮﨑洋一副社長は語ります。また、社長として初めて決算会見に臨んだ近健太社長は約3兆8000兆円の利益について「長い期間の積み重ね。先人やステークホルダーに感謝」としながら、「損益分岐台数の上昇傾向に歯止めがかかっていない」と危機感を示しました。来期2027年3月期の業績見通しは売上高51兆円、営業利益、最終利益ともに3兆円で、中東情勢による原材料費高騰などの影響で、前年に比較して減益を見込みます。巨額の売り上げや利益の中でも、決して手綱を緩めないのがトヨタです。
とは言え、HVを中心に供給が追い付かないほどの高い需要に支えられています。「目の前の課題を解決しなければクルマを届けることはできない」「全員にいいクルマを届けたいという理想を追い続けなければいけない。トヨタの使命」(近社長)、「お待ちいただいている状態が続いている。お届けできる体制をつくるのがポイント」(宮崎副社長)……決算会見でこんな発言を聞くと、他社とは次元の違いを感じざるをえません。
■2兆1000億円……、新車販売台数だけでは見えない、注目の数字
そして、新車販売台数だけではないところに、トヨタの恐ろしいほどの頑強さがあります。もはや「一強極まれり」とすら感じます。
バリューチェーン(以下VC)、トヨタのここ最近の決算発表で耳にするフレーズです。新車販売後の車両ライフサイクル全体を収益源として捉えるもので、アフターサービスや中古車販売、金融・保険、コネクテッドサービスなどを通じて顧客との関係を強化する事業戦略とされています。
トヨタはここ数年、VCで利益を挙げる取り組みを国内だけでなく、海外でも展開してきました。その結果、2026年3月期連結決算で全体の3兆8000億円の営業利益のうち、VC分野でたたき出した収益は2兆1000億円。何と新車販売のそれを超える額となっています。恐るべき数値です。
トヨタの決算資料にあるVC利益の項を見ると、EW、PPM、SAWA、PHYD、KINTOという見慣れない略称がみられます。
つまり、新車販売だけでなく、保険、保証、メンテナンス、リース……、こうした事業で着実に利益を挙げようというわけです。以前、小欄でもお伝えした「残クレ」=残価設定ローンもVCの一種に数えられるでしょう。
残クレを使えば高級ミニバンなどの上級車種であっても期間限定で手ごろな値段で乗ることができる、人気のある新車は中古車になってからも欲しがる人がたくさんいるため、中古車の値段が下がらない、リセールも高いので新車としても安心して買える、そうなると「あのクルマ最高」と評価も高まる、こうしてメーカーや系列のディーラーなど「同一の陣営」でサイクルを回すことができます。
まさに中古車市場をグリップする戦略と言えます。初回で新車を売る時に儲けられる、2回目、3回目、4回目も次のオーナーたちが満足しながら買っていく、もちろん、この過程でメンテナンスの費用も吸収する……、こうして利益率はどんどん上がっていくわけです。中古車市場の専門家は「長く乗りたい、長く売れるいいクルマをつくるというのは自動車業界においては盤石で、一番みんなが目指すべきこと、それが実現できているのが、トヨタの圧倒的に強いポイントだ」と話していました。
トヨタ・近健太社長
■「いいクルマ」は必要条件だが、十分条件ではない?
トヨタのVCについては昨年の決算会見でこんな発言がありました(いずれも肩書は当時)。
「収益構造の変化が形となって表れた決算だった。新車の収益効果は高いが、バリューチェーンで稼げるようになってきている。その形がはっきりと出るようになった」(佐藤恒治社長)
「バリューチェーンで年間約2兆円の収益が上がるようになってきた。1.5億台の保有があることが大きい。
保険、保証、メンテナンス、リースだけでなく、VC戦略は整備性に優れた部品の開発にも及びます。整備性の良さで修理にかかる時間が短くなれば、壊れにくいクルマ、壊れてもすぐ直るクルマとして、ブランド力の向上につながります。逆にどんなに性能が高く、高級なクルマでも、故障しやすい、修理に時間がかかる、修理代が高くついた……、そんな経験はないでしょうか。整備性が悪ければ、ユーザーがクルマを使用できる時間が奪われるだけでなく、維持に辟易する、つまりはブランドが毀損していくというわけです。
VC戦略の背景からは次のような現実が見えてきます。
「“いいクルマ”はブランド価値を維持する最低条件である。しかし“いいクルマ”を出せば成功するとは限らない」
逆に言うと、壁を乗り越えれば、国内外で市場環境の変化によりクルマの販売に多少ブレーキがかかったとしても利益の出る体制となるわけです。むろん、その体制を維持するには常に“いいクルマ”を供給し、ブランド力を向上させる底力が必要で、それが最大の壁です。
しかるに、他社の関係者から異口同音に聞こえてくるのは「そのような戦略が重要と認識はしているが、具体化するには至っていない」というものです。決算会見や経営方針説明会でも資料にVCについての項はあっても、具体的な数値目標は乏しく、新車販売にしか目がいっていないメーカーがほとんどです。
■メーカー主導のVC戦略、懸念はあるか?
今後、VC戦略は様々な分野に広がっていき、メーカーの基盤もより盤石になっていくでしょう。ただ、指摘しておきたいのは、それが自動車市場の限られたパイの食い合いにならないかということです。日本自動車工業会によれば、自動車業界で働く人々は550万人いると言われますが、その中には、メーカーとは独立した「街のクルマ屋さん」「街の中古車屋さん」も少なくありません。
業界団体の集計では国内の新車販売は1990年の約780万台をピークに減少を続け、最近は450万台前後で推移しています。一方、自動車保有台数は年々増加を続け、乗用車は620万台あまり、二輪車などを含めると820万台あまりに上ります。クルマの需要は依然あるわけで、保有台数はメーカーにとっては「宝の山」。資本主義、競争社会の宿命の中、「自分たちがつくったクルマ、売ったクルマから利益を得て何が悪い」……、確かにその通りです。ただ、その利益が市井のそれを吸い上げて得られるものであるとすれば、看過できないでしょう。
例年1月に開催される東京オートサロン。日本最大級のカスタムカー・チューニングカーの祭典で、メーカーから独立した「サード・パーティ」と呼ばれる業者が奇抜なアイデアで盛り上げ、最近は完成車メーカーも参入して活性化しています。ただ、以前の破天荒な雰囲気に比べると、やや「お行儀よく」なっている印象も受けます。
(了)

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