「着ただけで疲れが取れる」といううたい文句でおなじみの「リカバリーウエア」がバカ売れしている。

■「BAKUNE」「リライブ」……人気商品が続々
櫻井翔さんのCMでブームのけん引役ともなったTENTIAL(テンシャル)のリカバリーウエア「BAKUNE」(バクネ)シリーズは、2025年8月時点で累計150万セット(トップス‧ボトムス2点で1セット換算)を超えて、同社は上場も果たした。


お笑い芸人・出川哲郎さんの「やばいよ、リライブ」というCMで注目を集めた株式会社りらいぶの「リライブシャツシリーズ」も、公式Webサイトによれば累計販売枚数500万枚だという。

さらに俳優・大泉洋さんやモデルをCMに起用して2025年7月に販売した株式会社MTGの「Red」も2026年2月に100万枚を突破。2010年に日本で最初に「リカバリーウエア」というカテゴリの商品を開発・販売したパイオニア、株式会社ベネクスもモデルの冨永愛さんをCMに起用し、2025年時点で累計250万枚を売っている。

そんなリカバリーウエアブームは、既存のアパレルも恩恵を受けている。作業服大手ワークマンのリカバリーウエア「メディヒール」も2025年9~10月だけで160万着も売れ、11月の中間決算で上方修正するほど業績に貢献。一時期はどこの店に行っても品切れというほどの人気を博した。

■2030年には通信販売の市場規模に並ぶ予測も
このブームはしばらく続くものと見られており、一般社団法人リカバリー協会が推計した2025年のリカバリー(休養・抗疲労)市場は7.6兆円でここまで成長率が続くと、2030年は約14.3兆円となる。これは現在の通信販売の市場規模とほぼ同じである。

さて、そんな大活況のリカバリーウエアブームを見ていると、おそらくこんな素朴な疑問が浮かぶのではないか。「確かに日本人は働き過ぎで疲れている人が多いってのは分かるけれど、なんでこんな大人気なの?」と。

先ほども少し触れたように「リカバリーウエア」という市場を最初に開拓したのはベネクスだが、2010年にローンチされた時は「アスリートの練習後の休養時に着る服」を目的とした製品だった。

では、現在のように「リカバリーウエア=着るだけで疲れが取れる服」として社会に認知されるようになったのはいつかというと、2024年からだ。
この年は、2月に出川哲郎さん(リライブ)、11月には櫻井翔さん(BAKUNE)という知名度の高いタレントを起用したリカバリーウエアのテレビCMがオンエアされて大きな話題になったのである。

■人気の背景に「サウナ」と「大谷翔平」?
ただ、有名人を広告に起用するだけで「ブーム」が起きる、といった簡単なものではない。確かに2つのテレビCMによって「リカバリーウエア」の知名度が劇的にアップしたのは間違いないが、今のようにバカ売れしているのは、日本の消費者が「リカバリーウエア」を渇望するような土壌がしっかりと出来上がっていたからだ。

では、その土壌とは何か。あまり語られていないが、実はこの背景には「サウナ」と「大谷翔平」がある。

近年の2大ブームによって、「体の血流を改善すると、睡眠の質が向上して疲労が回復する」という「新たな健康の考え方」が日本人の頭に刷り込まれた。だから、それができる服、つまり「リカバリーウエア」が広く受け入れられたのではないか。

■サウナブームで広がった「ととのう」概念
一体どういうことか、まずは「サウナブーム」というものを振り返ってみよう。

サウナ愛好家によれば、今のサウナブームは「第3次」だそう。2016年に漫画家タナカカツキさんの『サ道 心と体が「ととのう」サウナの心得』(講談社文庫)が注目を集め、2019年にテレビドラマ化されたこのあたりに、有名人やインフルエンサーがこぞって「サウナー」を名乗り始め、世の中に「ととのう」という概念が広まっていった。

「ととのう」とは一般的に、「サウナ、水風呂、外気浴」の「温冷交代浴」を1セットとして数回繰り返すことで得られる、言葉では説明できない「多幸感」を得られる体験のことを指す。血管の拡張・収縮により自律神経が刺激され、副交感神経が優位になるとともにエンドルフィンなどの脳内物質が分泌されることで、この体験が生じるのだという。
体への負荷も高いため、十分な注意を促す声もあるが、体調にあわせて適切に利用することで、睡眠の質が向上したり、体や脳の疲労回復に役立ったりするという報告もある。

つまり、2016年から2019年ごろにかけて盛り上がったサウナブームで「ととのう」という概念が普及したことによって、「血流を良くすると疲労が回復する」というイメージも社会に広まったのである。これが「リカバリーウエア」の疲労回復というマーケティングに大きな追い風となることは言うまでもない。

■リライブが捉えた「商機」とは
それがよく分かるのが2018年4月に発売された「リライブ」だ。同社が2018年2月に発表したプレスリリースには「着るだけで身体能力が上がるシャツを開発(特許出願済)『リライブ・シャツ』 4月より発売へ」とある。この宣伝文句からも分かる通り、実は当初はパフォーマンスを上げる「パワースーツ」的な訴求で、介護現場で働く人たちの作業負担軽減を主な目的としていた。

しかし、2023年6月に発表したプレスリリースでは「着るだけで効果のある『機能性シャツ』で身体の不調を軽減し、地域を元気に!」と、現在のリカバリーウエア的な打ち出し方へとシフトチェンジしていく。

この当時、テレビやYouTubeではサウナーたちが「ととのう」ことの魅力、疲労回復効果を訴えていた。先ほど述べたように「血流を良くすると疲労が回復する」考え方が広く世に広まっていた時だ。つまり、このトレンドを「商機」と捉えて、「体機能を強化する服」から「疲労回復する服」へと進化させていったというのは容易に想像できよう。

■最後の一押しとなったのは大谷現象
そうして2019年からスポーツ・健康市場全体でリカバリーウエア熱が徐々に高まっていくなかで、最後のひと押しとなったのが「大谷現象」である。

大谷選手が体調管理・パフォーマンス向上の秘訣(ひけつ)として実践しているのが「10時間睡眠」である。
2017年からは寝具メーカー「西川」が大谷選手と睡眠コンディショニングサポート契約を締結、同社のマットレス「エアー」は2025年までに売上が2倍になった。

そんな「睡眠リカバリー」のトレンドと「疲労を回復する機能ウエア」というトレンドが互いに影響を与えるようにして現在のリカバリーウエア人気はつくられた。「ブーム」というのはいくつかの異なる動きが重なって起こるものなのだ。

この記事の執筆者: 窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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