昨今、MARCHの系列校新設が大きなトレンドとなっています。法政大学の系列となる「法政大学千代田三番町中学・高等学校」や、明治大学の42年ぶりの新系列校「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」の誕生は、その象徴的な動きです。


かつて、男女別学の共学化を伴うリニューアルといえば、「広尾学園」や「三田国際学園」のような進学校化が主流でしたが、ここに来て、MARCHの系列校になるパターンが目立ってきました。

少子化で一般選抜が難しくなる中、優秀な学生を確保し続けるために大学側が用意した切り札が系列校の拡充でした。

■総合型選抜を拡大できない「コスト」の壁
一時期、教育業界では「これからは探究学習や活動実績を武器にした総合型選抜が主流になる」というセールストークが繰り広げられました。

しかし、難関大学において総合型選抜の枠が大きく増えることはなく、実際に拡大したのは指定校推薦でした。

その最大の理由は、大学側の「選抜コスト」です。

日本型の従来の総合型選抜は、書類選考や面接を通じて志願者を丁寧に評価する入試です。

例えば面接官が2人がかりで受験生1人を15分面接する場合、入れ替えの時間も考えると、1時間でわずか3人ほどしか評価できません。1日5時間稼働しても約15人。土日を使っても30人。3つのチームに分かれても週末で100人弱しか面接試験を行えません。

大学院入試ならば1つの専攻の定員は5人程度。受験者は多くても30人程度。
この場合、丁寧に書類選考と面接で選抜ができますが、大学の学部の定員は100人単位になってくるので、そうは手間のかかる入試方法は拡大できません。総合型選抜で多くの学生を選抜するのは物理的に無理なのです。

そこで関東の大学は2026年度入試から、学力試験重視で面接がない総合型選抜を拡大しましたが、文部科学省から「2027年度以降は面接をするように」と通達がありました。大学がどう対応するのか注目されています。

■指定校推薦さえも「増やせない」事情
一方で、指定校推薦や内部推薦であれば、高校側が事前に学生を選抜してくれるため、大学側の負担は極めて少なくなります。

それなら指定校推薦を増やせばいい、と思うかもしれませんが、そこにも増やせない事情があります。

まず、指定校推薦の枠を出しても、その高校の生徒が出願してくれるとは限りません。

早慶やMARCHなどの難関校の指定校推薦への出願要件では、評定平均「4.0以上」を求められることがほとんどです。しかし、それだけの成績を持つ生徒は国立大や理系を志望してしまい、枠が余るという「非常事態」が起きている名門私立校も多いです。

また、最近では「指定校推薦の入学者が、必ずしも学力が高く真面目であるとは限らない」というケースも増えてきました。

事実、中堅大学では指定校推薦者の退学が増えている実態もあり、定員が充足している難関大ほど、むしろ指定校推薦を減らすトレンドさえあります。「指定校推薦なら安心」という神話が、少子化の中で揺らぎつつあるのです。


■「系列校」こそが、大学側の持つ最強の切り札
では、なぜ大学が系列校を増やすのか。それは「信頼関係」を築きやすいからです。

系列校ならば大学と高校で密なコミュニケーションが取れるため、「この評定ならこの学力」という把握がしやすくなります。

また、大学入試が一般選抜から推薦入試や総合型選抜に移行するということは、ペーパーテストのみの得点ではなく、まじめさや勤勉さを含めた「評定平均値」が重要になるということです。

アメリカの大学入試は全て総合型選抜ですが、実際には高校の成績で進学先が決まるシステムです。灘や開成の生徒がアメリカの最難関大に進学しやすいのは、「この高校でこの成績なら間違いない」という信頼が蓄積されているからです。

日本の大学も、評定が正確に測れる系列校の生徒であれば、入学後に「望んでいた学力と違う」と頭を抱えるリスクを減らせます。

なにより、現在の付属校・系列校は、大学に優秀な学生を送り出すために非常に努力しています。基本的には「一般選抜でも合格できる学力」をつけさせた上で、さらに大学での学問の基礎となる準備をさせています。

あるMARCH系列校は、あえて探究ではなく「調べ学習をさせる」とコメントしていました。文献を読み込む「調べ学習」こそがアカデミックな学びの土台であることを、名門校の本質として理解しているのです。

新しく系列校になった学校も、大学と連携し、より良質な教育を実践していくことでしょう。


この記事の執筆者: 杉浦 由美子
キャリア20年の記者。『女子校力』(PHP新書)、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)など単著は14冊。『ダイヤモンド教育ラボ』、『ハナソネ』(毎日新聞社)『マネーポストWEB』(小学館)などで取材記事を寄稿している。趣味は取材。

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