■母の苦労は分かっているが
ハルカさん(48歳)の母は、彼女が8歳のときに離婚している。2歳違いの弟、5歳違いの妹がいた。
「母が苦労して私たちを育ててくれたのは分かっています。養育費ももらえないまま、仕事をかけもちして頑張っているのを見ていたから。ただ、今さら言うのは酷ですが、もうちょっと先を考えて仕事をすべきでしたね、母は。パートを掛け持ちしても年金ももらえない、定収入もない。そんな状況だったんだと思います。その日暮らしがずっと続いていた」
年の離れた母の兄が多少、援助してくれたようで、「極貧」だったとは思わないとハルカさんは言う。なまじその伯父の援助があったから、母は正社員として働く気になれなかったのかもしれないと指摘する。
「その伯父の関係で家も破格の家賃で住まわせてもらっていた。私がそれを知ったのは大学生になったとき。
おそらく伯父に借りたんだろうと思うけど、弟には『私だってそのくらいの貯金はあるから』と言っていた。そんな様子を見ていた妹は、専門学校へ行ってそのまま技術職を得て、関西で就職しました」
■10年間、母の家賃を肩代わり
ハルカさんは30歳のときに結婚したが、4年で離婚、子どもはいなかった。それ以来、ずっと一人で暮らしている。奨学金を返すのに10年以上かかった。弟は大学を出ると、北海道に本社がある企業に就職。きょうだいは一気に離れていった。
「10年近く前、伯父が亡くなったんです。それを機に、母が住んでいる家をリフォームして貸家にするから返してほしいとオーナーが言ってきた。オーナーは伯父とは親しかったものの、有効活用したいと考えたようです。
そのころ母は60代半ばだったが、定職にはついていなかったから、家賃はハルカさんが肩代わりして払っていた。弟と妹にも援助を仰いだが、それぞれ結婚しているため「無理」と言われてしまった。
■どうして私だけが……
コロナ禍で残業代が目減りし、その後、ハルカさん自身、大きな病気をして一時、休職を余儀なくされた。自身の住まいも賃貸だから毎月、二世帯分の家賃を払っていたわけだ。頑張ってきたが、最近、母のマンションが更新時期となって家賃の値上げを打診された。これ以上の負担は難しい。
「お姉ちゃんだから頑張ってと昔から言われてきたけど、ふと考えたら、私ばかりどうしてこんな目にあっているんだろうと。若いころ母は『私はあなたたちに迷惑はかけない』と言っていたくせに、実際には今、自分ではどうにもならないわけですよ。
今後の生活について役所とか地域の包括センターとかに相談に行けと以前、言ったことがあるんですが、それもしていない。自分がどう生きるかについてまったく考えていない」
あげく、先日言われたのだ。「あなたについていくから」と。ハルカさんはゾクッと寒気すら覚えたという。
「あなたが離婚してくれていてよかった。一人者はあなただけだからって。そんなふうに思っていたのか、娘の幸せではなく自分のことしか考えていなかったのかと愕然としました」
■同居は避けたいのだが……
母を引き取って同居するしかない状況に、ハルカさんは追い込まれている。本来なら同居は避けたいところだが、二世帯分の家賃を払うのも限界だ。
「会社に相談して、なんとか頭金を借りて中古マンションを購入できないかと考えています。築古で駅から遠ければ何とかなるかもしれないという状況。弟と妹も少しなら出せると前向きですが、それは母を私に押しつけることができればラッキーということみたいですね。
ただ、あの母と同居していけるかどうかという問題もあって、私は悩みに悩んでいます。母は『同居したら楽しそう』なんてノーテンキなことを言っているので、よけい頭が痛い」
同居となれば、20数年ぶりに顔を突き合わせることになる。ハルカさんは平日は出社するから息抜きもできるが、週末に一人の時間をのんびり過ごすことは難しいかもしれない。
「母の精神的自立度合いが、まだはっきりと分からないのでしばらく様子を見るつもりですが、年内にはどうするか決めなければいけない。母を引き受けて、そのうち介護が必要となり、なんとか見送ったら今度は自分が動けなくなっている。
まだ元気な高齢者が一人で暮らせる、低家賃の公的住宅がもっとできないものか。ハルカさんは大きなため息をついた。









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