監督・達海猛が率いるクラブ再建の物語は、戦術を読む面白さやチームのマネジメント力を視聴者に伝えてくれる。プレイヤーの目ではなく、指揮官の思考でサッカーを楽しむ。そんな視点を得られる一作として、今こそ観返したい。
監督が主人公だからこそ感じる本物の緊張感
綱本将也の原案とマンガ家ツジトモの作画で2007年に連載をスタートしたサッカー漫画「GIANT KILLING」(ジャイアントキリング)。かつては人気チームだったプロサッカーチーム・ETUは、現在は何とか「ジャパンフットボール1部」に返り咲いたものの、毎年残留争いの渦中にある弱小クラブだった。
クラブの起死回生の策として、チームのフロントは最盛期に所属していた元日本代表のスター選手・達海猛を監督に迎えることを決める。達海はケガによって10年前に現役を退いて以来、消息を絶っていた人物だった。
ETUに戻る以前、彼はイギリスの地方都市にあるアマチュアクラブを率い、FAカップでベスト32進出という快挙を達成している。惜しくもプロのトップチームに敗れベスト16入りは逃したものの、監督として確かな実績を残した。
10年ぶりに日本へ帰国した達海だが、プレイヤー時代にイングランドへ移籍したことでETUの成績が低迷し、2部に降格した過去がある。その経緯から、サポーターの中には彼を恨む者も多く、さらに弱小クラブを守ってきた中堅選手たちからの反発もあり、監督就任直後のチームには不穏な空気が漂っていた。
だが、最初こそ連敗していたチームだったが、達海の奇抜な戦術と冷静な目による指揮でリーグ戦をかき回し始める。
本作の主人公はチームの監督である達海だ。元天才プレイヤーにして若き監督である彼が、成績も低迷し、ファンも離れていった上に選手たちの心もバラバラになっている弱小チームを率いていく。この物語の面白さは、そんな「監督」の目から見る試合中の選手たちのモチベーションがあがっていく様子や試合での“仕掛け”にある。
「なぜ前半はこの布陣にしたのか」「相手の攻め方に対して誰がどう守るのか」といった、生々しい動きを、ピッチ上のプレイヤーとしてではなく、盤上を見つめる指揮官の思考に寄り添うことができることこそがこの作品の魅力だと言える。
◆達海猛が仕掛ける、常識破りの采配
物語の序盤で達海は試合のスタメンを決めるのに異例の方法を取って、チームを驚かせる。ダッシュをさせてレギュラー候補組とそれ以外とで分けての紅白戦を行ったり、若手の椿大介をスタメンにしたり、キャンプで自習をさせるだけでもチームを困惑させるが、さらにチームの要である守備的MFの村越茂幸をキャプテンから外して攻撃的MFであるジーノをキャプテンにするなど、チームのメンバーを翻弄するのだ。
しかし試合はどんどん“面白く”なっていき、達海が見出した椿がETUの新たな攻撃の要として力を発揮していく。椿の成長する姿を、監督と同じ目線で見つめること、そしてジーノのパスが、村越の守りがハマっていく様が躍動感と共にリアリティを持って描かれていき、いつしか本当にサッカーの試合を見ているような興奮を覚えられ、チームを応援するサポーターやフロントの思いにも触れられるというのも稀有な魅力である。
地方での試合にも応援に足を運び、ゴール裏で声を出し、チームを鼓舞するサポーターが、達海の戦略への不満に対して移動のバスを囲むエピソードでは、フロントのスタッフが矢面に立ち、監督である達海を庇って彼らの不平不満を受け止める場面も、熱い気持ちから来るエピソードとして何度となく見聞きした話だと納得する。
そして監督同士の思惑なども含めて、サッカーのピッチに立つ選手たちの外側で起きている出来事に触れられることで知る「視点」は、中継でサッカーの試合を見る際にも生きるものだと感じる。
◆戦術を知るとサッカーがもっと面白くなる
このようにピッチの内外を多角的に描いた本作は、漫画だけでなくアニメーションとしても高い評価を得た。アニメが放送されたのは2010年4月から9月の半年間。全26話だった。アニメ「GIANT KILLING」が描くのはサッカーにおける不変の視点。サッカーの細かいルールや戦術が、アニメの優れた間や演出、そして丁寧な解説によって、競技に詳しくない人でも直感的に理解できるよう工夫されていることで、今、見ても「サッカーの試合の見方がわかる」のだ。そしてアニメの放送から16年を経た2026年はFIFAワールドカップ2026が開催される。
世界各国の強豪チームが集まり、熱戦を繰り広げるこのFIFAワールドカップ2026を、中継で見る際にはカメラワークの妙はありつつも試合の全体像を俯瞰で見ることとなる。そこで活用できるのが、この達海の監督としての「視点」だ。それぞれのポジションにはその動きに意味があるということを「GIANT KILLING」から知ることができた視聴者は、チームの戦略を考えながら観戦ができることだろう。「GIANT KILLING」でも達海だけではなく、東京ヴィクトリーの平泉監督や名古屋グランパレスの不破監督、大阪ガンナーズのダルファー監督といった登場する監督の戦略や戦術も物語から感じられることで、選手の応援だけでなく試合展開にも注目するポイントが多く出てくるはず。
そしてこの物語の根底にある“GIANT KILLING”を見られたなら、ますます楽しくなるかも。ぜひFIFAワールドカップ2026と共にアニメを観ることもお薦めしたい。
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