ASCII.jp読者のみなさん、こんにちは! ウェルパインモータースポーツのコ・ドライバー、梅本まどかです。前回に引き続きラリージャパンについてお伝えしていきます。
今回もヘッドセットは大活躍でした!
まさかのコースアウトから
どうやって復帰できたのか?
前回お伝えしたとおり、ラリージャパンはRC4クラス3位で完走したのですが、実は最終日にリタイアしかけた場面があり、簡単に走りきったワケではありませんでした。今回は私たちのラリージャパン一番の危機だったSS18のコースオフについてその裏側をレポートします。
ラリーウィークはテスト日からずっと晴れが続き、雨予報が心配されていたのは最終日の日曜Day4のみ。1週間前から雨予報だったので、「最終日だけウェットかな」と思って準備していました。実際にラリーウィークの天候は予報通りに進行していき、雨に降られる事はなく最終日を迎えました。
朝起きてみると、意外と晴れていて「あれ? いけそう!」と思える雰囲気。ですが、この日のアイテナリーはお昼にサービスが設定されておらず、朝サービスを出発したらそのまますべてのSSを走り切らなければならないので、念のためウェットタイヤ2本スペアに積んでスタートしました。
午前中は雨が降らずに、お天気が晴れのままキープしてくれました。午後になってちょうどリフューエル(給油)のタイミングで雨がパラパラ降りはじめたため、どこかでタイヤを交換しようとあたりを見回すと、ガソリンスタンド奥に屋根付きの広い場所を発見! 時間にも少し余裕があり、屋根付きの平らな場所でタイヤ交換できるなんて運がいい♪ とすら思っていて、ここまで不安なくホントにいい流れでした。
雨が強くなり、路面には水たまりが
ハイドロプレーニングが襲いかかる!
フロントにもウェットタイヤを履かせてSS18の恵那に向かうと、どんどん雨足が強まっていきます。それでもウェットタイヤも履いたし、落ち着いていこう! と気合いを入れ、いざスタート。スタート後1つ目のコーナーで右に90度の直角を曲がるのですが、そのコーナーの水たまりを通過するとフロントガラスに大きな水飛沫が。
「ん!? これは、思っていた以上の雨なのかも」
シート位置の関係で前方が見えない私にも、はっきりと見えるくらいの水飛沫と勢いに少し驚きましたが、でも大丈夫だと自分に言い聞かせ、心を落ち着かせながら進んでいきます。10kmを過ぎたあたりで登り坂を走り「フィニッシュまであと半分くらいあるな」と思っていた時に「あ、やべ」と隣から声が聞こえてきました。
普段からよく独り言を発しながら走る村田選手ですが、落ち着いてはいるものの、ネガティブな言葉は初めて。これはリタイア? と頭によぎりました。
しかし、「あ、やべ」の理由はハイドロプレーニングで、左コーナーで曲がれずそのまま右側の側溝に落ち、コースアウト。登り坂で私は前が見えない状況だったので、直後の詳細はわからなかったのですが、コースアウトした瞬間の衝撃は「もしかしたら出られるかも」と思う程度のものでした。
大きなアクシデントではなさそうな感じは伝わってきて、とりあえず私がやるべきことをすぐに考えて覚悟しました。コースオフした際にやるべきことは、後方車に自分たちの状況を伝え、安全に通り越してもらうことと、GPSトラッキングシステム「Rally Safe」の画面に表示される「SOS」と「OK」のボタンのいずれかを押すことです。
少しの間、村田選手がコースに復帰しようともがいてくれていたのですが、状況は少し厳しそう……。クルーの無事や状況を伝えるため、SS内で車両停止後1分以内に「Rally Safe」に表示されるボタンを押さないと、罰金ペナルティー(しかも10万円以上だとか……)があることは監督から何度も言い聞かされてました。
このままじゃ、罰金10万円以上になってしまう! 頭の中で「10万、10万……」と焦りながらも、私のシート位置からはボタンには手が届かずもがいていたのですが、村田選手に「OK」ボタンを押してもらい、次の行動に切り替えました。
松井監督のワンポイント解説
クルーが無事でさらに車両火災などがない場合は「OK」ボタン、クルーに救助が必要なレベルの怪我や車両火災が発生してしまった場合は「SOS」を押さなければいけません。このGPSトラッキングシステム「Rally Safe」のOK or SOSは、ラリー管制担当のFIAスタッフや日本側のコース担当者にも即時伝わり、コース上のオフィシャルに対処方法が通達されます。
2~3分おきにスタートし、全開走行中のラリー車両が、SS内に複数台存在することが当たり前のWRCにとって、GPSトラッキングの操作は安全性に直結する大切な要素なのです。そのため、クラッシュやコースオフしたクルーたちが「Rally Safe」の操作を的確に行なうことは義務であり、怠るとそこそこ高額なペナルティーが発生するのです。
一瞬諦めかけた完走だったが
意地と気合いと根性で脱出!
私は後方車に無事を伝えるため、まずOKボードを出す準備をします。それと同時に三角停止板も設置するのですが、ヘルメットとハンスをしたままだとこれがやりずらいんです。ちなみにSS内でヘルメットを脱ぐことは禁止されています。
さて、後方車との間隔は2分しかありません。50m後方にダッシュして三角停止版を設置し、後続車にはOKボードを提示します。雨の中のダッシュはキツく、またヘルメットやハンスもしているのでいつも以上に疲れます。昔はよく早朝に走っていたし、フルマラソンの経験もあるので大丈夫だと思っていましたが、雨の中を久しぶりに走るとかなり息が上がって辛かったです。
すこし経つと車両の村田選手から叫び声が。とりあえず「来い!」と言われた気がしたので、車両に戻ると「出られたから行くよ!」って。さすが村田選手! 周辺に落ちている木の枝などをタイヤの下に敷きつめ、側溝から脱出していたのです! まさかの朗報にテンションが上がりました。
ですが、ここで失態にも気づきます。「あ、三角停止板を出したままだ……」これはもう頑張るしかないので、再び50mダッシュ往復を走り切り、三角停止板を回収して車両に乗り込みました。コースオフしてから後方車2台をOKボードを出して見送り、次の車両もまた2分後に来てしまうので、ゆっくりとはしていられません。
もう全身びしょ濡れでしたが、ペースノートだけは濡らさないように気を付けながら、なんとかわかる場所から読み直し、残り10km走り切りました。村田選手から「あと何キロ?」って聞かれて「10km」と答えるのが心苦しかったですが、一緒に頑張ってフィニッシュにたどり着いたのはホントに今回1番の思い出です。
疲労困憊だったが
リエゾン区間でのファンの声援で復活
この恵那のSS18を走りきると、一息ついて落ち着きたい所ですが、次のTCに着くまでは気が抜けません。もちろん遅着してしまうとペナルティーになるからです。コース内で2分おきにスタートしている後方2台抜かれたということは、少なくとも4分以上は予定より遅れているはず。私の計算だと5分半くらい遅れている感覚でした。
このくらいであれば、余裕のあるタイムスケジュールで動いている今回のラリーではペナルティーなしで次のTCに到着できそうです。ただ、休憩している時間はないため、すぐに移動します。村田選手はかなりお疲れの様子でした。
慌てていてすっかり忘れていたのですが、このリエゾン区間では観客の方が集まるギャラリーゾーンがあり、そこはゆっくり走ることが義務付けられています。全力疾走後のこのゾーンでは、手を振るのがなかなか大変でしたが、でも観客の皆さんからすごくパワーをもらえた時間でした。結果、次のTCにはギリギリ間に合い、その後はリグループで時間調整だったため、1時間ほど休むことができました。
この休憩場所はほかのエントラントも一緒なので、海外の選手と交流したり、トップカテゴリーのRally1車両が動き始めるところも間近で見られて、めちゃくちゃうれしかった♪ 下位カテゴリーで走っていると、トップカテゴリーのマシンってあまり見る機会がないんですよね。
そんな良い感じで休息&リラックスした後に臨んだ最終SS19は、かなりの雨量でしたが落ち着いて走ることができ、無事にラリージャパン完走できました。最終SSを終えて、豊田スタジアムに戻りながら思うのは、やはりSS18のコースオフと復帰のことでした。
「あのコースオフはだいぶ運が良かったな」と。
ラリージャパンを完走できた4つのポイント
まず第1に、コース脇には立木や崖っぽいところが多くて狭い林道にもかかわらず、側溝に落ちただけで済みました。三角停止板を設置するために走った50m後ろは、崖っぽい雰囲気で「この場所じゃなくてよかった」とキュッと肝が冷えました。
第2に、側溝に落ちたのにラリーカーにダメージが少なかったこと。スピード域も低く登りだったため、大きな外傷もなく、R2の丈夫な足周りに感謝です。
第3に、コースオフがSS18で、その後のリグループで休憩できたこともホントに助かりました。あと2本長いSSがあったら体力的にも精神的にもキツかった。最終日だからこそ「こんな所で終わりたくない! 絶対完走する!」の気持ちが溢れていた気がします。この気持ちは村田選手からも感じられ、気持ちが通じてより良いコンビになれたような気がしました。
第4は村田選手の経験値でしょうか。コースオフから復帰できたのは村田選手の冷静な判断と行動に因るものなので、ホントに感謝です。私も以前、全日本ラリー新城でリタイアしたことがあり、その経験が今回は少し活きた気もします。冷静に後続車の来るタイミングを測って、安全に三角停止版やOKボードを設置する判断ができたと思います。
WRCレベルでする話ではないかもしれませんが、これまでドライバーに恵まれてリタイア経験が1度しかないので、こういったところも個人的には収穫でした。
そんなわけで、このラリーで1番悔しかったのはSS18のコースオフではなく、サービスで塩焼きそばが食べられなかったこと。詳細は次回に!
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