――あなたはコンビニのない世界を想像できますか?

いまや日本の日常生活に欠かせない「コンビニ」。もしそのコンビニがなくなったとしたら……。
コンビニの最新施策を分析し、小売業の未来図を説く書『コンビニが日本から消えたなら』の著者で、日本一のコンビニ流通アナリスト渡辺広明氏が問いかける。(『コンビニが日本から消えたなら』より一部抜粋し再編集)
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■たばこ売上増に伴いプライベートブランドも増加した

 「セブンプレミアム」「FamilyMart collection」「ローソンセレクト」など、いまやコンビニでも定番商品となったプライベートブランド(PB)があります。お菓子や惣菜、デザート、調味料などの食品から、ティッシュや洗剤といった日用品に至るまで、コンビニ各社で多くのPBが開発されています。 コンビニのPBが増えた理由の1つは「たばこの売上増加」です。 相次ぐ増税によって、この20年間でたばこの価格は約2倍になりました。また、 taspoが導入された2008年以降、コンビニでたばこを購入する人が増えました。このため、コンビニの売上に占めるたばこの割合は増え続けていて、いまや売上全体の25%前後をたばこが占めています。コンビニでは、商品の利益率を約30%と想定していますが、たばこの利益率は11%と低い。売上に占めるたばこの割合が増えれば増えるほど、全体の利益率は下がってしまうのです。 そんな背景のなか、日常使いのお客様を取り込みたいという思惑も重なり、コンビニはPBの強化を始めました。メーカーの商品(NB/ナショナルブランド)は 利益率30~35%ですが、PBの利益率は約50%。つまり、たばこによる利益率低下をPBで補おうとしているわけです。

 

■進化を続けるプライベートブランド 

 そのほかの理由として、2011年の東日本大震災以降、主婦層やシニア層のお客様にPBの魅力が届いたという事象も挙げられます。震災時、セブン-イレブンが被災地に商品供給を行った際、それまでコンビニを利用する機会が少なかった主婦層やシニア層が「コンビニのPBが意外と安くて品質も高い」と気がついたのです。

 かつてPBはPBを専門に製造するOEM工場でつくられていて、品質の向上が課題でした。しかし、現在のPBは一流メーカーの工場で生産されている商品が多い。購買層の拡大を担ったPBは、震災以降、よりいっそう強化の道を進むことになったのです。

■一方、プライベートブランドの功罪とは?

 PBはコンビニの利益を支える重要な商品ですが、PBが増えたことによってデメリットも生まれてしまいました。 店内の棚にPBが増えるということは、その分だけNBを置くスペースが減ってしまうことを意味します。このため、新商品のNBが置かれる期間が短くなっています。以前は新商品を仕入れたら、売れ行きが悪くても1ヵ月ほど置かれていました。しかし、現在はわずか2週間で入れ替わってしまうこともあります。ただでさえ激戦区のコンビニにおいて、新商品のNBはこれまで以上に定着しづらくなっているのです。 また、NBの割合が減ると、コンビニの魅力である豊富な品揃え感が薄れてしまいます。

有り体に言うと、品揃えが退屈になってしまうのです。 さきほどPBによって主婦層とシニア層のファンが増えたと述べましたが、実はその裏では男性のコンビニ離れが発生しています。コンビニの売上をアップさせるために大事なのは〝衝動買い〟や〝ついで買い〟です。豊富な品揃えによってお客様の購買意欲を掻き立て、目的以外の商品にも手を伸ばしていただくのです。この衝動買いを最もしていた層が実は男性で、とくに若い男性にその傾向が顕著でした。 主婦層やシニア層に比べ、男性は財布の紐が緩く、新商品に対する好奇心も強いのです。ところが、PBが増えたことで品揃えが退屈になり、若い男性が減ったと同時に衝動買いも減ってしまいました。 主力客の変化によって、コンビニが日常使いになったのは仕方がないことです。 しかし、だからといってコンビニからワクワク感が薄れてしまうのは間違っているとも思います。

■「NPB」と「トライアングルPB」とは?

 コンビニの魅力を取り戻すため、今後は各社ともに新たなPB開発に力を注ぐ必要があります。それは、私が「NPB(ナショナルプライベートブランド)」や「トライアングルPB」と呼んでいる商品です。

 NPBとは、PBのようにその店舗にしか置いていないコンビニ限定のNB(ナ ショナルブランド)です。

たとえば、2018年10月、セブン-イレブンはサントリーと共同開発して缶コーヒー「BOSS」の店舗限定商品「セブンプレミアム× サントリーBOSS『セブンズボス』」シリーズを発売しました。既存のブランドイメージにコンビニ限定という付加価値を与え、さらに価格もNBの「BOSS」より安く設定されています。 一方、トライアングルPBとは、コンビニを含めた3社によるコラボ商品です。 セブン-イレブンでは、2000年代初頭から札幌ラーメンの人気店すみれと日清食品と共同開発してカップラーメンを販売するなど、早い段階からトライアングルPBの開発を行っています。

 また、セブン-イレブンでは冷凍食品においても「蒙古タンメン中本」とコラボ商品を開発するなど、魅力的な商品づくりが目立ちます。近年は冷凍技術の進歩によって味も著しく向上しています。このため、コラボ商品では従来の商品よりも単価を高く設定しても十分な購買が見込めます。 なお、コンビニには商品開発のプロジェクトチームが存在します。1つの商品を開発するために、食品メーカーと原材料メーカー、そして工場などと協力している のです。一方、それ以外にも、もう少しライトなマーチャンダイジングのチームがあり、同じく原材料メーカーや工場と協力しています。私がローソンのバイヤーを務めていたときも、日本製粉や日本ハム、キユーピーなど5社とチームをつくり、 ベーカリーの開発を行っていました。

■コンビニの商品開発事情は、バイヤーの手腕が問われるケースも

 コンビニにおける商品開発は「メーカーが持ち込むパターン」と「コンビニが企画するパターン」の2パターンです。

 メーカーから持ち込まれる場合は「こんな技術革新ができたので売りましょう」 といった提案をされることが多いです。メーカー側からすると、コンビニで販売することができれば、それだけで大きな売上が期待できますからね。

 しかし、コンビニに新技術を持ち込む場合、メーカーはある条件を覚悟する必要があります。その条件とは〝コンビニ限定販売〟です。とくに、セブン-イレブン では限定販売が多い。たとえば、メーカーが「永遠に冷えて、ぬるくならないペットボトル」を開発したとしましょう。これをセブン-イレブンに持ち込むと「ほかの会社には卸さないでください」と言われる可能性が高い。日本トップの店舗数のコンビニで販売できる代わりに、他社には卸さないという制約が生まれる可能性もあります。 一方、2番手以降のファミリーマートやローソンでは「当社の先行販売で、一定期間が過ぎたら他社に卸してもよいですよ」といった条件になることが多い。店舗数トップだけで売る道を選ぶか、店舗数は少ないが他社にも卸せる道を選ぶか、これは、メーカーにとって非常に悩ましい選択なのです。

 ちなみに、限定にするか否かの判断は担当バイヤーに委ねられ、会社の決裁を仰ぎます。商品の品揃えは、大手チェーンの看板に紐付きつつ、同時にバイヤーの性格という属人的な面にも紐付いています。

もしも、あるコンビニのあるジャンルの商品ラインナップが退屈だとあなたが感じたとしたら、それはバイヤーの責任かもしれないのです。

 

 コンビニは日本の誰もが利用する、日本国民が作り上げた、世界最強のリアル小売業であり、そのことに異論を挟む人はいないでしょう。 

 ただし、昨今、コンビニ問題がネットでテレビのニュースで話題となっています。 

 いま必要とされている社会的課題との向き合いは、オーナー・本部ともに大変厳しい戦いとなります。そんな現状と処方箋を、日本の未来になぞらえて、この本を書きました。皆様が感じた異論反論・斬新なアイデアで、前向きな議論が活発化する機会になれば幸いです。

 

 

では、前回のクイズの答を公開!

Q.コンビニでのタバコの売上は、全売上の何%を占めている?

答えは本文中にもありましたね。

③25%​

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