例年9月上旬に、日経平均の採用銘柄の入れ替えが発表される。採用が決まった銘柄には大量買いが入るビッグイベントのため、投資家が強い関心を寄せる。

 野村証券、SMBC日興証券、大和証券、みずほ証券の各証券会社の予想が出揃った。採用候補の筆頭がZOZOで4票。エムスリー、カカクコム、任天堂が各2票、ゆうちょ銀行日本航空JAL)、ビックカメラがそれぞれ1票となった。除外候補は東京ドーム(4票)、日本化薬(3票)、スカパーJSATホールディングス(1票)となっている。

 野村証券は、「除外候補」として日本化薬、スカパーJSAT、「除外候補になり得る」として東京ドーム、「代替候補」としてエムスリー、ZOZO、カカクコムの3銘柄を挙げた。

 満票を集めたのは「ZOZO採用、東京ドームの除外」。“お騒がせ企業”のイメージがついているZOZOが、日経平均銘柄に採用されるのかに関心が集まる。一方、東京ドームは、読売巨人軍の本拠地の東京ドーム球場や遊園地、ホテルを含む東京ドームシティが営業の柱。読売新聞系である東京ドームを蹴ることができるのだろうか。

 みずほ証券は、JALの採用を予想している。JALの採用が実現すれば、上場廃止となった2010年1月に除外以来、9年間という短期間で日経平均に返り咲くことになる。

 ZOZOの株価は、日経平均採用をはやして8月20日まで3日続伸。

20日は137円高の2201円と2200円台を回復してきた。8月27日の終値は2173円である。

 8月21日には、NHKが『のぞき見ドキュメント100カメ』で「前澤社長のアパレル通販舞台裏を丸裸」という番組を放送した。前澤社長は社内で「MZ」と呼ばれていることが明らかになった。

ZOZO、異例の大抜擢となるか

 日経平均は、トヨタ自動車といった日本を代表する225社の株価を平均した値で、日本経済新聞社が作成している。産業トレンドや企業の浮沈(業績)を示す指標となっている。225社は定期的に入れ替えが行われる。

 日経平均を構成する225銘柄に採用されると、日経平均採用銘柄を自動的に組み入れるファンドが多いため、結果として株価が上がる。逆に、除外されると、株価は下落する。

 225銘柄の単純平均のため、ファーストリテイリング(ユニクロ)やソフトバンクグループ(SBG)など値がさ株の影響を強く受ける。かつては「ユニクロ指数」と呼ばれたこともあり、日経平均はいびつなものになっていた。世界の著名な投資家は、日経平均ではなく東証株価指数(TOPIX)を重視している。

 新興企業にとって、日経平均225社に採用されるということは、株価上昇への期待もさることながら、“日本の代表的企業”とのお墨付きを得たという意味合いが強い。

 ZOZOが日経平均225社に採用されれば、07年12月に東証マザーズに上場した新興企業としては異例の大抜擢となる。採用となれば、話題集中となるだろう。

 ちなみに、00年にIPO(新規上場)した楽天が採用されたのは16年。16年かかっている。1994年に上場したソフトバンク(現SBG)が採用されたのは04年。“最短コース”で10年だった。ZOZOはSBGに準ずる速度で採用されることになるのか。

倒産して除外された企業

 企業合併により、日経平均銘柄から除外になるケースが多いが、なかには倒産して除外になった企業もある。

 1975年の興人、78年の北海道炭鉱汽船、チッソがそれだ。興人の代わりには大和ハウス工業が、北炭、チッソの代替は日興証券、野村証券だった。

 84年のリッカー、85年の三光汽船のピンチヒッターは大日本製薬(現在の大日本住友製薬)、山之内製薬(現アステラス製薬)だった。

産業・企業の盛衰が日経平均採用銘柄に色濃く反映されている。

 09年には40銘柄近くが入れ替わり、日経平均株価の連続性(時系列)が損なわれる弊害が議論されたこともあった。

 01年に新潟鉄工所、02年の佐藤工業も経営破綻組。準大手ゼネコンの佐藤工業は政治銘柄だった。05年にはカネボウが除外となった。

 01年に採用されたJALは10年に経営破綻で除外となり、たった9年の命だった。JALは民主党政権下で唯一、再生された企業で再上場を果たした。もし、日経平均に採用されれば、ZOZO以上に関心を呼ぶこともあり得る。

 最近の事例では、16年のシャープ、17年の東芝、19年の千代田化工建設の3社が、業績不振で債務超過となり、東証1部から同2部に降格になり日経採用銘柄でなくなった。

ZOZOが日経平均に採用されるリスク

 ZOZOは前澤友作社長のワンマン・カンパニーだ。ベテランの証券会社社員は「強いアクセルはあるが、企業存亡の時にブレーキが利かなくなるリスクがあるのでは」と危惧する。

 11年に除外になった三洋電機は、パナソニックに身売り(吸収合併)されたが、井植一族の会社だった。

三洋電機は“関西の家電ビッグスリー”の1社として安価な家電を多く出し、「サンヨー」の商品は家電量販店で売れ筋だった時期もある。社会人スポーツでもラグビーなどで強力チームをつくり活躍したが、シャープに抜かれ、“関西家電の雄”パナソニックの軍門に下った。

 19年にアジア系ファンドに身売りして上場廃止になったパイオニアも松本一族の会社。オーディオ御三家の筆頭だったが、薄型テレビに失敗して会社が事実上消滅した。

 ZOZOも、新規事業に進出するときに大きな転機が訪れる可能性がある。日経平均銘柄に採用する際には、パイオニア的リスクを考えておかなければならないのかもしれない。

 05年に経営破綻によって日経平均銘柄から除外されたカネボウも、一世を風靡した経営者がいて、きらきら輝いていた時期があった。しかし、粉飾決算でアウトになった。ZOZOに財務上のリスクがないのか、気になるところだ。

 クラリオンは1999年に採用されたが、2010年に親会社の日立製作所が外資に身売りをして上場廃止となり、日経平均銘柄から姿を消した。クラリオンは「クラリオンガールコンテスト」など、派手なイベントで有名だった。日立グループのなかでも異色の企業だったが、カーオーディオに代わるニュービジネスが生まれず、身売りとなった。

派手なイベントを好む経営者の企業も短命というジンクスがある。

 日経平均採用銘柄になると、企業としての“品格”が求められる。ZOZOは新興市場から東証1部への昇格はスムーズだった。だが、東証1部上場企業になって前澤社長に対する風当たりは強くなった。日経平均採用銘柄になれば、さらに強くなるのは必至だ。

「ジャンク債を買い漁っている海外のファンドが、ZOZOが本当に日経平均採用銘柄になるのかどうか、熱心に情報収集していた」(兜町筋)との情報がある。中堅証券会社の営業担当取締役は「東京海上グループ系のファンドがZOZOを大量に組み入れている。“怖いもの見たさ”の買い需要はありそうだ」と分析する。

 ただ、名の通った機関投資家のトップは「投資する基準(コード)のなかで、経営者の資質の比重が高くなっている。投資して損失を出した時に説明がつかない銘柄には投資しづらい」と打ち明ける。

“米中貿易戦争”でハイテク銘柄には手を出せない状況が続いている。他方、ZOZOは内需関連(小売り)であるため、消去法で買われる場面はあるかもしれない。

とはいっても、総合的に考えて、ZOZOを日経平均銘柄に採用するには、相当な勇気がいることだけは確かだ。新興銘柄のZOZOを採用することによって、フトコロの深さを示すことはできるかもしれないが、「値がさ株ゆえに日経平均株価の振れ幅が大きくなる」という副次的な理由で任天堂の採用に二の足を踏んでいる日経新聞が、はたしてZOZOを採用するのか。
(文=編集部)

【続報】

 日経平均採用銘柄の定期入れ替えが発表された。エムスリーが新規採用。株価は9月5日、一時2503円(271円高)と急騰した。年初来高値である。東京ドームが除外された。東京ドームは一時、8.5%下げ、約1カ月ぶりに1000円を割り込んだ。

「ZOZOを採用しなかったのは、前澤友作社長のスキャンダルで株価が急落するリスクを回避したもの。そんなことになったら目も当てられない」(日経関係者)

 採用期待の高かったカカクコムの株価は9月5日、大幅安(終値は140円安。2464円)。期待先行であった。除外の有力候補だった日本化薬は除外されず、安心感が出て6.6%高の1232円まで上昇した。

 一部で採用が思惑視されていた任天堂は安い(620円安の40960円。安値は40810円)。任天堂を採用しないのは日経の保守性の表れだという声もある。4万円台の任天堂を採用すると日経平均株価の揺れ幅が大きくなる。一時期、日経平均は「ユニクロ指数」と揶揄されたが、その二の舞は避けたいということだろう。

 証券専門紙の「日本証券新聞」(9月9日付)はコラム「風林火山」は、次のように報じている。

<(大手証券会社4社の事前予想に関して)今回の最優秀賞は、みずほ証券。「エムスリー採用と東京ドーム除外」をメインシナリオで的中した。最も当初はZOZOの採用を掲げていたため、「確定版で変更して良かったね」といったところ。(略)そのZOZOを採用候補に挙げてしまったのが大和証券。SMBC日興証券はカカクコムや任天堂も候補とした。野村證券は逆に、エムスリーを“本線”としながら除外候補が日本化薬とカスパーだった>

“お行儀のよくない”企業は採用が難しいのかもしれない。「もし、交際している女優と破局などということで株価が下がったりしたら、日経平均に傷がつく」(大手証券のアナリスト)

 昨年は除外候補の絶対本命といわれていた宝ホールディングスがしぶとく残留した。今年は日本化薬が踏みとどまった。クロウト好みの銘柄で、往年の“仕手株”といわれた日本化薬を買い推奨するアナリストも出てきた。

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