■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
2021年10月22日公開のアメリカ映画『ロン 僕のポンコツ・ボット』と、2021年10月29日公開の日本映画『アイの歌声を聴かせて』、ともにAIをモチーフにした長編SFアニメーション映画ですが、この両者、見比べると実にユニークな共通項がいろいろあることが如実にわかり、興味深いものがあります。
今や私たちの生活になくてはならない技術として、今後の躍進に注目を集め続けるAI。
それは映画の世界でも、創造の翼を広げる上で大いに有効なものであると確信せずにはいられません。
Bボットと少年の交流
『ロン 僕のポンコツ・ボット』
まず『ロン 僕のポンコツ・ボット』は、ありとあらゆるデジタル機能を備えつつ、しかもスマホのような気軽さで持ち主の要求に応えてくれるという、夢のようなハイテク・デバイス「Bボット」が実用化されて久しい近未来社会のお話。
このBボット、見た目はシンプルなマシュマロ型で、持ち主のニーズに合わせて色など自在に変えられますし、乗り物にもなります。
子どもたちはみんなBボットを通じて、仲間と繋がったりもしています。
ところが、本作の主人公バーニー(日本語版の声:小薬英斗)はちょっと風変わりな家庭環境ということもあってか、未だにBボットを持っていません。
そんな彼のもとにも、ついにBボットが!
しかし、それはオンライン接続もできないポンコツボットのロン(日本語版の声:関智一)だったのです。
それでもバーニーはロンを大事に扱いますが、次第にあることに気づかされていきます。
本来Bボットは人間の言うことに従うツールに過ぎなかったのですが、ロンはポンコツなりに他のBボットとは異なって自我を覚え、バーニーと心を通わせていくようになるのです。
Bボットを開発したバブル社は、そんなロンの存在を知って不良品とみなし、廃棄処分にしようとするのですが……。
本作はウォルト・ディズニー・ジャパンの配給ですが、実質は現在ディズニー傘下となった20世紀スタジオのレーベル作品で、さらに申すとロンドンを拠点とするアニメーション制作会社ロックスミス・アニメーションの記念すべき長編映画デビュー作でもあります。
それゆえに従来のディズニー&ピクサー作品と比べると、ヒューマニスティックではあれ、悪ガキ的なドタバタ描写が意外に多く、ついには子ども受けしそうな下ネタまであったりして、何も知らずにディズニー映画と勘違いして接すると仰天するところもあるでしょうが、最後まで見終えると、あたかも『E.T.』のAI版とでもいった麗しき友情の映画として大いに機能しています。
どちらかというとお行儀のよさで安心して見ていられるディズニー&ピクサーですが、新たにユニークないたずらっ子が転校してきたかのような、そんな初々しい躍動感までもたらしてくれる作品です。
美少女ポンコツAIの大騒動
『アイの歌声を聴かせて』
転校ということでは、続く『アイの歌声を聴かせて』は、クラスでひとりぼっちの高校生少女サトミ(声:福原遥)のクラスンひとりの美少女シオン(声:土屋太鳳)が転校してきたことから始まります。
このシオン、サトミの姿を見つけるや、いきなり歌を歌い出して周囲を唖然とさせる!?
そう、実は彼女、星間エレクトロニクス社に所属するサトミの母・美津子(声:大原さやか)が推進する「シオンプロジェクト」で試験中のAIだったのです。
が、これがもうどうにも、見た目は美少女でも中身はポンコツ!?
しかし、そんなシオンに振り回されていくうちに、サトミはもともと幼馴染だった機械マニアのトウマ(声:工藤阿須加)をはじめ次第に仲間が増えていき、シオンとも心通わせていくのですが、やがて美津子を疎ましく思う支社長の西城(声:津田健次郎)の横やりが入り……。
こちらは現在アニメーション映画に力を入れている松竹の配給で、アニメーション制作は「ワンパンマン」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズなどで知られるJ.C.スタッフ。
そして監督は2008年にAIをモチーフにした先駆的傑作「イヴの時間」を発表し、その後もハイテクやファンタジー世界の中で生きる人々の群像を描き続ける俊英・吉浦康裕で、今回は久々にAIとがっぷり対峙しつつ、彼ならではの青春群像劇とSFエンタメとの融合が好もしく成されたオリジナリティあふれる長編映画の秀作となりました。
ロンとシオンが訴える
AIと人間の来たるべき未来
答えとしては単純明快なのですが、『ロン 僕のポンコツ・ボット』『アイの歌声を聴かせて』も、ポンコツAIと人間の友情を描いているところが共通しています。もちろん『ロン』は3DCGによるファミリー映画として、『アイ』はセルルックの青春映画として、それぞれターゲットとなる観客層に相違こそあれ、訴えようとしていることはこれからのAIと人との前向きな関係性に他なりません。
『ロン』のBボットが子供でもお絵描きできるようなシンプルなデザインで、『アイ』のシオンが見た目は正統派美少女というあたりもアメリカと日本とのアニメーションに対する認識の違いを改めて確認させてくれたりもしますが、それでも友情や仲間との連帯、絆などを麗しく訴えていることに変わりはありません。
特に日本におけるロボットと人間の友情といったモチーフは、それこそ「鉄腕アトム」など手塚治虫が現役バリバリだった20世紀半ばの時代からおなじみのものでもあったわけですが、当時はあくまでも「来たるべき未来」としてのSFとして捉えられていたものが、今や夢でも何でもなく現実のものになってきていることにオールド世代は感無量でもあります。
さすがにシオンのような人間型AIとの友情を育むのはもう少し先のこととしても、ロンのような相棒とともに日々を過ごすのは時間の問題ではないかと思われます。
また個人的に興味深かったのが、ロンにしてもシオンにしてもポンコツであるということで、これには完全無欠なものよりも、少し足りてない不完全なものこそを好む“映画”ならではの情緒みたいなものも多分に関係しているのと同時に、全ての人間が完全ではないという厳粛たる事実に基づきながら、人はどこまで他者を許容できるかということを問うているのかもしれません。
『ロン』は子ども主体のファミリー映画で、『アイ』は思春期の10代から20代を主体とする青春映画になっていることも、両者がこれからの若い世代に差別や偏見を乗り越える意識を啓蒙させてくれているようにも思えてなりませんでした。
最後に作品そのものとは全く関係のない余談ですが、ロンの日本語版の声を演じる関智一と、シオンの声を演じる土屋太鳳は、かつて『力俥-RIKISHA-鎌倉純愛編』(13)という実写短編映画で共演しています。
これは関智一が日本の名勝・観光地の人力俥夫に扮し、さまざまなお客を乗せて繰り広げられる人情ドラマ・シリーズで、その鎌倉編にブレイク直前の土屋太鳳がお客に扮して出演していたのでした(ベレー帽姿が実に可愛らしいです)。
今やベテラン声優として大活躍中の関智一と、実は結構アニメーションに合った声質で今回は歌まで披露してくれた土屋太鳳、ふたりの共演もしくは今回の作品に関してのコラボ・トークみたいなものも聞いてみたいという欲求にふと駆られてしまった次第です。
(文:増當竜也)