■物珍しい「ネタ列車」の貴重な情報はどうなるのか●機関車が電車を運ぶ甲種輸送列車

書店にはたくさんの鉄道雑誌が売られています。一部の雑誌には、甲種輸送列車の運転情報が掲載されていて好評だったのですが、残念ながら掲載が終了することが明らかになりました。

甲種輸送列車とは、鉄道車両を貨物として輸送する貨物列車です。有名なのは、メーカーで製造した新車を、発注した鉄道会社へ発送する列車です。

川崎重工業(現・川崎車両)で製造したJR東日本E001形「TRAIN SUITE 四季島」を運ぶ甲種輸送列車

現在、鉄道車両を製造している主なメーカーとJRの発送駅は、東芝(武蔵野線・東府中駅)、総合車両製作所横浜事業所(横須賀線・逗子駅)、総合車両製作所新津事業所(信越本線・新津駅)、新潟トランシス(白新線・黒山駅)、日本車輌製造豊川事業所(飯田線・豊川駅)、近畿車輛(学研都市線・徳庵駅)、川崎車両神戸本社(山陽本線・兵庫駅)、日立製作所笠戸事業所(山陽本線・下松駅)です。

近畿車輛で製造された東武70000型を運ぶ甲種輸送列車

このうち4ヵ所が東海・西日本エリアにあり、関東の私鉄車両も数多く製造しています。ここ数年は、関東の私鉄で新型車両の導入が相次いでいて、東海道・山陽本線では意外に多くの甲種輸送列車が運転されています。

甲種輸送中のE6系は仮台車を装着しています

甲種輸送列車は、線路幅1067mmのJR在来線を走っているので、線路幅が違う車両を輸送するときは仮台車を装着します。

車体サイズが在来線規格のミニ新幹線を甲種輸送することもありますが、その場合も仮台車を装着します。

川崎重工業で製造した秋田新幹線E6系の甲種輸送列車は兵庫駅から秋田駅まで運行しました

かつては、車体が大きなフル規格新幹線車両の甲種輸送列車を運転したこともありました。しかし、地上設備面での制約が厳しくなるので、現在は運行していません。

甲種輸送のほかに、貨車に鉄道車両を載せて運ぶ乙種輸送もありましたが、こちらも現在は運行していません。

●いろいろな甲種輸送列車

甲種輸送列車が運ぶ鉄道車両は新車だけではありません。なんと! 現役の車両を定期的に運ぶ甲種輸送列車もあります。

その代表例が、西武鉄道と伊豆箱根鉄道です。

西武多摩川線用の車両を運ぶ甲種輸送列車

西武鉄道多摩川線は、他の西武線と繋がっていない孤立路線です。しかし、西武鉄道の工場は池袋線の武蔵ヶ丘にあります。そのため、多摩川線と接続しているJR中央線・武蔵境駅から池袋線と接続しているJR武蔵野線・秋津駅に、多摩川線の車両を運ぶ甲種輸送列車を運転しています。

武蔵境駅から秋津駅へ直接行くことができないので、甲種輸送列車は八王子駅まで走って進行方向を変えています。また、秋津駅発の列車は一旦、逆方向の新座貨物ターミナルに行ってから折り返しています。

伊豆箱根鉄道大雄山線用車両の甲種輸送列車。控え車としてコンテナ車を連結しています

伊豆箱根鉄道は、小田原駅を起点とする大雄山線と、三島駅を起点とする駿豆線の2路線がありますが、工場は駿豆線の大場駅にあります。そのため、大雄山線の車両を工場へ入出場させるための甲種輸送列車を、小田原~三島間で運転しています。

小田原駅のJRと伊豆箱根鉄道の連絡線には架線がないので、小田原駅で車両の受け渡しをする列車には連絡線の区間をカバーするための控え車としてコンテナ車を連結しているのが特徴です。

小田原駅の配線の関係で、大雄山線に戻る車両の甲種輸送列車は一旦、相模貨物駅まで行って折り返します。

そのほか、秩父鉄道の羽生~寄居間で、東武鉄道東上線の車両を運ぶ甲種輸送列車を運転しています。

特製ヘッドマーク付きのEF65形が12系・14系客車を多度津駅から熊谷貨物ターミナルまで牽引

引退した車両を他社に譲渡する際に、甲種輸送列車で運ぶケースもあります。

最近では、東京メトロ日比谷線03系を長野電鉄に譲渡するための甲種輸送列車を、越谷貨物ターミナルから北長野駅に、北陸鉄道に譲渡するための甲種輸送列車を松任駅に運転したほか、西武鉄道10000系NRAを富山地方鉄道に譲渡するための甲種輸送列車を、秋津駅から魚津駅まで運行しました。

熊谷貨物ターミナルから羽生駅までは秩父鉄道の電気機関車がヘッドマーク付きで客車を輸送

2016年にはJR四国の12系・14系客車を東武鉄道に譲渡するための甲種輸送列車を、多度津駅から羽生駅まで運転。機関車にはブルートレイン「瀬戸」をイメージした、特製ヘッドマークを掲出して話題となりました。

JR東日本から長野電鉄に253系を譲渡する際に、一旦東急車両製造(現・総合車両製作所横浜事業所)に運んで改造しました

長野電鉄に譲渡された小田急電鉄10000形や、JR東日本253系のように、一旦車両メーカーに輸送して改造後、改めて譲渡先に甲種輸送することもありました。

伊豆急行の「THE ROYAL EXPRESS」と東急電鉄の電源車をJR北海道に貸し出すための甲種輸送列車

変わったところでは、他社に貸し出す車両の甲種輸送列車もあります。

最近では、2020~2022年に伊豆急行の豪華観光車両「THE ROYAL EXPRESS」と東急電鉄の電源車を、JR北海道に貸し出すために運転しています。

青梅線での工事のため、JR東日本のクレーン車を川崎貨物駅から拝島駅まで輸送しました

鉄道車両だけじゃなく、マルチプルタイタンパやクレーン車のような大型保線機械を甲種輸送することもあります。

大型保線機械などの甲種輸送列車を見られるチャンスは少ないので、特に人気が高いようです。

●甲種輸送に似ているけど甲種輸送じゃない列車秋田総合車両センターで改造したJR東日本E257系を大宮総合車両センターに運ぶ配給列車。JR東日本のEF81形が牽引しています

鉄道車両を機関車で運んでいるのに、甲種輸送列車と呼ばないケースもあります。そのひとつが配給列車です。

配給列車とは、工場や車両基地間で部品や資材などを輸送する列車で、自社の車両も部品と同じような扱いとしている例です。現在はJR北海道、JR東日本、JR西日本JR九州などで見られ、それぞれの旅客会社の機関車が牽引しています。

JR貨物苗穂車両所を出場したHD300形を札幌機関区に回送する列車。列車番号的には試運転列車となっています

JR貨物が車両や部品を輸送する場合は、貨物列車に連結するケースと回送列車を仕立てるケースがあります。回送列車の場合、列車番号は単機回送列車や試運転列車の番号を使っているようです。

変わったところでは、稲沢・名古屋~名古屋港間でJR東海のレール輸送用気動車キヤ97形を、JR貨物の機関車が牽引する列車があります。

JR貨物DD200形がJR東海のレール輸送気動車キヤ97形を牽引する貨物列車

JR東海のレール輸送車がレールを積み込む名古屋資材センターがある名古屋港駅は、JR貨物が管轄する名古屋港線にあり、JR東海の車両が自力で行くことができません。

そのため、JR貨物の機関車がキヤ97形を牽引して、通常の貨物列車として運行しています。同様の貨物列車は、仙台臨海鉄道でもJR東日本のレール輸送車を牽引して走っています。

●甲種輸送列車の魅力

甲種輸送列車の魅力は、機関車が普段と違う車両を牽引し、列車によっては普段、貨物列車が走らない路線を走るという非日常感にもあるのではないでしょうか。

普段貨物列車が走らない横浜線を走る甲種輸送列車

甲種輸送列車のような、物珍しい「ネタ列車」は鉄道ファンには特に人気が高く、運転するときは大勢の人たちが沿線に集まってきます。鉄道雑誌が甲種輸送列車の情報提供を終了しますが、彼らの情報収集能力は高く、今後もSNSには甲種輸送列車の目撃情報が上がってくることでしょう。

ですからSNSをこまめにチェックしていれば、意外と簡単に甲種輸送列車を見ることができるかもしれません。

(ぬまっち)