「人生100年時代」は、もはや理想論ではなく現実になりつつあります。『東大名誉教授が教える 死なない生き方』(北村俊雄/日本経済新聞出版)では、細胞生物学や免疫学の研究に携わり、iPS細胞研究にも関わった東大名誉教授が、最新の生命科学やアンチエイジング研究をもとに、「健康寿命100歳」を目指すための生活習慣を解説。
今回は「億万長者の実験的アンチエイジング」について。
○億万長者の実験的アンチエイジング
アンチエイジングが注目を集める現代社会で、ブライアン・ジョンソンという億万長者が話題となっている。企業向けの決済代行システムの開発者であり起業家でもあるジョンソンは、自分の会社を売却して得た1000億円を超える資産と自分の時間の全てを、自らの老化を抑制することに投入している。
その目標を達成するために、30人の医師を雇い毎日30種類以上のサプリメントを服用する彼の生活は禁欲的である。午前4時半から7時までは運動し、サプリメント以外には、専門家によって厳密に一日1970キロカロリーに調整された3食を規則正しく決められた時間に食べる。3回目の食事は午前11時までに済ませて、その後は食事をしない。そして世界中で発表される抗老化関連の論文を全て読み、重要と考える睡眠の質を保つために厳密な管理をする。
これらの禁欲的な努力の結果、2023年当時45歳だったジョンソンの老化スピードは10歳の男子より遅くなっていたという。また、彼の心臓は37歳と同等の若さであったと主張している。ジョンソンはさまざまな検査を毎日行い、その結果をSNSや動画配信、ニューズレターなどを通じて数百万人のフォロワーやチャンネル登録者に逐一報告している。興味がある方はネットで検索してみるといいだろう。
全身の若返りや不老不死は達成不可能に思える目標だが、科学者がその目標達成をめざすことは科学の進歩につながる。
究極の抗老化をめざすジョンソンの壮大な試みは、正常の対象実験がない。そのため、彼が普通よりずっと長生きをしたとしても、それがこの禁欲的な生活によるのか、もともと長命だったのかも分からない。たとえ、この禁欲的生活に効果があったとしても、サプリメント、食事、生活習慣のうち何がどの程度効果的だったかも不明である。
マウスやサルの実験では、カロリー制限が寿命を延長することが証明されている。ただし、マウスでカロリー制限が寿命を延ばすという結果については、反する結果も一部報告されている。寿命が延長するとする研究でも、対照群のマウスの4割に糖尿病が発症(カロリー制限群は10%)していた実験も含まれており、真実は不明である。
ヒトでもカロリー制限は寿命延長に役立つだろうか?ジョンソンの試みは科学的な実験とは言えない。ただ、一つ言えることは彼が究極のアンチエイジングを達成するためのたゆみない努力を続けること自体が、彼の肉体的および精神的な元気を支えるだろうということである。この壮大な実験の結果を見守りたい。
○『東大名誉教授が教える 死なない生き方』(北村俊雄/日本経済新聞出版)
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