元宝塚歌劇団花組トップスターで、2024年の退団後はさまざまな作品で持ち前の華と存在感を発揮し、輝きを増し続ける柚香光。この春、初めてのストレートプレイ作品となる舞台『ハムレット』で、主人公の母・ガートルードに挑戦する。

豪華キャストとの共演を「背筋がピンと伸びる思いがある」と楽しみにする柚香に、本作の魅力や宝塚退団から2年が経った現在の心境を聞いた。

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◆初めてのストレートプレイで「謎の多い王妃」難役挑戦

 シェイクスピアの4大悲劇の1つ『ハムレット』を世界的な演出家、デヴィッド・ルヴォーの演出のもと、ハムレットに“歌舞伎界のプリンス”市川染五郎、オフィーリアに初舞台となる當真あみとフレッシュな顔合わせで送る今回の公演。柚香は、デンマーク王妃でハムレットの母でありながら、夫亡き後、ハムレットにとって父の敵であるクローディアス(石黒賢)に嫁ぐという難役・ガートルードを演じる。

――台本を読まれて、どんな感想をお持ちになりましたか?

柚香:詩的な言葉も会話も、すべての言葉が美しくて、底が見えないくらい深く本当に難しいと感じました。これを自分の言葉として発するためにガートルードという人物を追い求めていかなきゃいけないですし、他の登場人物の言葉をガートルードとして聞くためには、いろんな役柄との関係性やバックグラウンド、あらゆるものを丁寧に積み重ねていかないとちゃんと聞けないなと、そういう意識を持って追い求めていかないと大変だぞと改めて実感しました。

シェイクスピアの作品は見たことも読んだこともありますが、いざ自分が演じる役として向き合うとなると、台本でも映像でも「今の言葉、もう1回」と何度もなって、なかなか前に進まない感じで。偉大ですごい作品に臨ませていただくんだなと感じています。

――初めてのストレートプレイ挑戦となりますが、これまでの作品とはどんな違いがありそうでしょうか?

柚香:ストレートプレイは、言葉、息づかい、間、ちょっとした体の動き、そうしたものによってお客様にすべてをお届けする。これまで、歌って踊ってっていう華やかさというものがお客様にお楽しみいただける醍醐味の舞台が多かったので、そこがまず大きく違います。

今回ストレートプレイを経験させていただくことによって、言葉の力を学び向上していきたいという思いがありますし、ストレートプレイでのお芝居がこれまでやってきたミュージカルやお仕事にも必ず活きてきますので、自分としてももう1回一から学び直すつもりで臨みたいと思っています。

――演じられるガートルードはなかなかのキャラクターだと思いますが、柚香さんはどんな女性だと捉えていますか?

柚香:本当に謎が多くて、悪女として演じることもできるお役ですし、ただ自分の欲望に素直で本当に何も知らない女性という風にもできますし、いかようにでも作り上げることができる女性だと思います。いろんな考察や説があるような人物ですので興味深いですし、自分が今回演じるのはどういうガートルードになっていくのだろうと、自分自身も楽しみにしているところがあります。


演出のルヴォーさんとディスカッションしながら役を構築していくので、何かオーダーや提案があった時には柔軟にその場で対応できるように、自分の中に当時の時代背景や価値観、女性の地位であったりを幅広く材料として準備しておきたいです。

――ガートルードに共感する部分はありますか?

柚香:セリフの数々が、ガートルードが何を思ってそれを言ったのか、いかようにでも取れるので、共感までにはまだ至っていないです。私がどんなガートルード像を作り上げるのかが決まった時に共感するところはたぶん出てくると思うんですけど、今はまだこういう解釈もあるし、この人とこの人の関係って本当は一体どうだったんだろう?というのを巡らせているところですね。

◆宝塚トップスターと歌舞伎界のエースから生まれる化学反応が楽しみ

――演出のルヴォーさんと初めてお会いになった時の印象はいかがでしたか?

柚香:「どういう風に思う?」と思っていることを聞き出しそこから導いてくださる包容力を感じて、本当に大きな方だなと思いました。でも、私は一体この方に何を見抜かれて、何を引き出されるんだろうという緊張感もやっぱりあって。ドキドキしながらも穏やかにお話させていただきました。

その時に「ただ聞いているだけでいいんだよ」とおっしゃったんです。ガートルードは全編を通してそんなにセリフ量は多くなくて、ほかの方のセリフを聞いていることが多いんですね。「何かをしようと思うんじゃなくて、本当にそこに立って聞いてるだけでいいんだ」とおっしゃったんですけど、「本当にその通りだな」と思うと同時に「聞くって難しいな」と、その言葉の深さにドキドキしました。柚香として聞くのではなくガートルードとして聞くというのは、本当に役を理解していないとできないことなので、「聞くだけでいいんだよ」という言葉は強く印象に残りました。

――ハムレット役を務められる市川染五郎さんとはどんな化学反応が起きそうでしょうか。

柚香:舞台を拝見すると、染五郎さんの存在感や醸し出す雰囲気がずっと年上の方に感じるぐらいの安心感があって、舞台ではこんなに大きく見えるんだというのがすごく印象的だったのですが、実際にお会いしてもその印象のままでした。
目に色気があって、涼やかで、でもとても純粋な目をされていて…。ご一緒できることがうれしいです。

染五郎さんの母親役ということで、ちょっと母親には若いんですけど、宝塚歌劇で女性だけの中で男役としてやってきた自分と、歌舞伎の世界で次世代のエースの染五郎さんがどういう親子関係をできるのか自分としてもすごく楽しみですし、有名な寝室のシーンの生々しいぶつかり合いもあるので、見どころになるんじゃないかなと思います。

――ガートルードが嫁ぐクローディアスは石黒賢さんが演じられます。

柚香:ずっと映像で拝見していたので、「わぁ!石黒賢さんだ!」と思いました(笑)。石黒さんの力強くてエネルギーに満ちたクローディアスの横にガートルードとして立たせていただくことで、皆様の想像力を刺激するような2人の関係性を作り上げられたらいいなと思っています。

素晴らしいキャストの皆さんとご一緒できることが本当に楽しみですし、背筋がピンと伸びる思いがあります。それぞれの方が芝居に対して真剣でいらっしゃるのを感じます。私も誠実に真っ直ぐ向き合うぞ!っていう思いが熱く盛り上がっています。

◆退団後幅広い役どころに挑戦「自分の新たな一面に気付くのが面白い」

――柚香さんは、退団されてから哀しい鬼に始まり、女子高生があり、先日は黄泉の帝王&思い悩む皇太子と、幅が広い役どころに挑戦されている印象があります。さまざまな役を演じる面白さはどんなところにありますか?

柚香:「名作と言われる作品には特に、普遍的なテーマというのが必ずある」ということを教わったことがあるんです。どんな国、どんな宗教、どんな年齢の人にも共通するものが根底にあったりするんですね。
一見全然違った生い立ちの人でも結局は同じところに結びついたりする。その中で、「自分もそうだな」とか、「私もそれで失敗したんだ」というのもあったりしますし、「やっぱりこれを大事にしたいよね」と思うことや、「こういう心を失っちゃいけない」という教訓もある。教えられることがすごくたくさんあるんです。自分のアプローチの仕方が全然違っても、繋がっているところが見つかったりすると、「お!」っていう発見の喜びがあります。

あとは、いろんな役を演じることによって、自分の新たな一面に気付くのも面白いですし、お客様に見ていただいて「こんな一面もあるんだ!」と楽しんでいただけるのもうれしいですね。

――本当にふり幅のある役どころを演じられていますが、今後チャレンジしてみたい作品や役はありますか?

柚香:いろいろ挑戦したい役はあるのですが、内緒です(笑)。

――実はハムレット役も柚香さんに似合うんだろうなーと思っていました。

柚香:今(取材当時『エリザベート30thガラ・コンサート』に出演中)ルドルフをやっていて、『うたかたの恋』という作品でも同じルドルフを演じたのですが、その作品で彼は「生きるべきか、死ぬべきか」という言葉をハムレットに共鳴して言うんです。自分でもハムレットに共感する部分はあって、彼の迷ってる姿であったり、優柔不断さであったり、試行錯誤してどうしたらいいかわからなくなって模索し続ける姿には、自分でも理解できるところはあります。

――ガートルードを演じるにあたっても、ハムレットの気持ちを理解するというのは何かプラスになるかもしれないですよね。

柚香:親子なのでやっぱり似ているところや反面教師にしているところもあったりするのかもしれないし、しないのかもしれない…いろいろあると思うんですけど、ガートルード目線ではハムレットのことを全て理解しきれなかったとしても、役者としてはハムレットが抱えているものや見ているものを追い求めるというのは非常に大事なことだと思っています。

――宝塚退団から2年が経ちますが、どんな変化がありましたか?

柚香:自分が舞台にどう向き合っていきたいのか、自分がどうなっていきたいのかという課題も見つかりますし、もっと考えたい、もっと自分のことを知らなきゃいけないということをすごく思う日々ですね。


基本的に柚香は柚香で、あまり中身は変わっていないと思います。ただ演じる役の幅が広くなったので、変わらないところも変わったところもファンの方に楽しんでいただけているといいなと思っています。

――先日の“ガラコン”では古巣の宝塚の皆さんと久々にご一緒されましたが、変わらない“やんちゃな”柚香さんが顔を覗かせたり?

柚香:「懐かしい~、この感じ! 光だぁー!」と上級生の方何人かに言われました(笑)。変わってない部分が出ていたみたいです。

――そういえば、昨年に続き、今年も退団記念日の5月26日は舞台上で迎えられるんですね。

柚香:あっ、本当ですね! すごくうれしいです!

(取材・文:田中ハルマ 写真:小川遼)

 舞台『ハムレット』は、東京・日生劇場にて5月9日~30日、大阪・SkyシアターMBSにて6月5日~14日、愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホールにて6月20日・21日上演。

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