北朝鮮当局が、新興富裕層「トンジュ」と私的経済の取り込みに踏み切った。デイリーNKの咸鏡北道の消息筋によると、当局は先月31日、トンジュなどを来る10月10日の党創建記念日までに国家体制へ完全に組み込むよう求める強力な指示を出したという。

数少ない経済の活力源にメスを入れる今回の措置は、体制の先行きに影を落としている。

トンジュとは、「金主」を意味する言葉で、1990年代の経済崩壊後に台頭した新興の資産層を指す。国家配給が止まる中、彼らは主に中国との密輸や非公式貿易で資金を蓄え、生活物資を流通させることで利益を上げてきた。

その後、各地に広がった市場「チャンマダン」で商売を拡大し、卸売や流通、外貨の両替、貸金業などにも進出。特にドルや人民元を扱う非公式の両替や高利貸しで資金を増やし、やがて住宅建設などにも投資するようになった。こうしてトンジュは、事実上の「資本家」ともいえる存在に成長した。

当局も長年、こうした動きを黙認してきた。財政難の中で、トンジュの資金が建設や流通を支え、経済を下支えしてきたためだ。しかし近年、政策は大きく転換している。

金正恩政権は、市場で扱える品目や営業時間の制限を進めるなど、統制を強化。背景には、市場を通じて韓国ドラマなど外部情報が広がることや、住民の自立性が高まることへの警戒があるとみられる。

今回の指示は、その流れを一段と進め、私的経済そのものを国家の管理下に置こうとする動きといえる。

消息筋は「個人が運営していた商店や流通網を国営に組み込む動きが強まっている」とし、「トンジュを強制的に国家の枠内に入れることに住民は衝撃を受けている」と話す。

すでに当局は、密輸の取り締まりを強化し、国営工場の製品を国営商店に優先供給することで市場の締め付けを進めている。トンジュの活動基盤は徐々に狭められてきた。

ただ、市場経済の抑え込みは、経済のさらなる停滞を招く可能性がある。住民の間では「商売の自由が奪われる」との不安が広がっており、強権的な統制が逆に体制の足元を揺るがしかねないとの見方も出ている。

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