いま、『ビッグコミックスピリッツ』で連載中のマンガ『高校球児ザワさん』を知ってますか。

「都澤理紗はどこにでもいるような女子高生である。
(中略)そんな彼女の『特別なこと』をひとつ挙げるとすれば、野球部唯一の女子部員であること」
そんなあらすじから想像するのは、「試合出場を認められない女子部員の苦労・努力」だったり、「実は女子であることを隠し……」といったマンガ的展開だったり。
ところが、読んでみると、これが全然違う。

毎回わずかなページ数の中で、セリフもごくわずか。それでいて、「意外と脇の処理が甘い」とか「練習後、無造作にタオルで顔を拭く&斜めがけカバンの胸の食い込み」とか「制服の下にアンダーシャツを着て、更衣室に行かずに着替える」とか、ディテールがこれでもかというほどリアルに描き込まれている。
そこには、自分が可愛いことにまだ気づいていない、「オンナ」になる前の、限りなく少年に近い女の子、「原石」が描かれているのだ。
熱い練習風景もなければ、手に汗握る試合展開も皆無。ただ淡々と「日常素描」があるだけ。
しかも、驚くことに、作者はまだ大学を卒業して数年という若き女性・三島衛里子さん!

なぜここまでフェチマンガを? 三島さんを直撃したところ、開口一番、語られた「きっかけ」は、意外なものだった。
「もともとのキャラクターはマンガを描き始めた頃からずっと頭の中で考えていたもの。投稿の頃は別の競技をやっている設定でしたが、私がたまたま野球にハマり始めて。気付いたらザワも野球をやっていました」

さらに、「そもそも野球部って、嫌いだったんですよ」という衝撃の発言! いったいなぜ?
「野球部って、『自分たちが注目されて当然』とか思ってるとこ、あるじゃないですか。高校野球も、みんな騒いでるけど、自分はどうでも良いと思ってました」
確かに、部費の配分も、野球部だけがたくさんもらったり、他の運動部からすると「不公平感」はあったけど……。


野球に興味を持ち始めたきっかけは?
「母校が甲子園に出たのでノリで観に行ったら、球場の雰囲気に惹かれて。なぜか男の野球選手でもドキッとする瞬間や要素が多くて、そういえば、野球やってる女の子ってたまにいるよなと思い出して。これが女だったらもっとドキッとするのかなと。それから『グランドに女の子がいる風景』を想像するようになりました」
ただし、「野球に女の人がいる風景」を描きながらも、そこに「頑張ってる感」が全くないのは、この作品の大きな特徴だ。
「『私はこんなに頑張ってる!』というドラマに興味が湧かないんです。普段スポーツを観ていて、選手の脚や腹筋がマッチョだったりすると、もうそこから勝手に妄想が始まって、目の前の試合が頭に入ってこない。どんな人なんだろう、とか考えてしまって」

常に物事を「線」ではなく、「点でしか考えられない」と言う三島さん。
ことごとくフェチすぎる描写力は、要注目だ。
(田幸和歌子)
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