焼き物の町として知られる愛知県常滑市。常滑焼というと、急須や茶碗、土管といった日常生活でなじみのある陶器というイメージがあるが、なんと焼き物で和楽器を作る職人がいるという話を耳にした。
やさしい笑顔で迎えてくれたのは、陶芸家・山光さん(本名・山田光男さん)、67歳。山光さんのギャラリー「窯や」は、登り窯やレンガの煙突、黒い板壁の窯業施設が立ち並ぶ「やきもの散歩道」の一画にある。100年以上も前から実際に土管を焼いていたというレンガ造りの大きな窯の中に入ると、茶碗や置物と並んで、奥の方に置いてある琴と三味線が目に入ってきた。形や大きさは本物そっくり。だが良く見ると、弦以外はすべて焼き物でできている。三味線の皮の部分も、琴の音程を調節する琴柱(ことじ)も、すべて焼き物だ。
三味線を手に取ってみると、陶製ならではのずっしりとした重みを感じた。山光さんに聞くと、本物の楽器に比べて、三味線は約3倍、琴は約5倍の重さがあるそうだ。これでは持つのも大変では? と思うが、観賞用ではなく、あくまでも演奏することを目的に造っているため、手で持って吹く笛などは約2倍の重さに抑えているという。「重かったら吹けないし、吹けなければ意味がない」と語る山光さんのこだわりだ。
気になるのは、その音色。山光さんに笙(しょう:雅楽などで使う管楽器のひとつ。写真参照)と尺八を吹いていただいた。笙の「ふぁーん」という優雅な音とともに、一瞬にして雅楽の世界に引き込まれた。尺八も本物同様、息の音と混じり合うような独特の音色。私も、琴と三味線の弦をはじいてみたところ、音がまっすぐ耳に届くような感覚があった。山光さんによると、木製との音の違いは、陶器が音を吸収しないため、高周波のやや硬い音が出ること、また、音が遠くまで響くことにあるという。悠々とした音色に、私もすっかり魅了されてしまった。
山光さんがこれまでに作った和楽器は、このほかに、横笛、鼓(つづみ)、篳篥(ひちりき)の計7種類。鼓の、通常は皮でできている手で打つ部分も、笙の、本来は細い竹を並べてつくる部分も、もちろんすべて陶製だという。笙の筒の大きさは直径1cm、厚さはわずか1.5mmと、実に精巧なつくり。思わず持つ手が震えてしまうほど、職人の技がキラリと光る逸品だ。
山光さんが和楽器を作り始めたのは27年前。「世の中にない、人が作ったことのないものを作ろう」との思いから着想したのが、音の出るものだったという。前例がないだけあって、完成までの道のりは長く、琴の製作時には半年間、ほかの焼き物は作らずに没頭。約50面の試作の末、ようやく4面、納得いくものができたという。尺八に至っては、5本の完成品を作るのに約300本の試作を繰り返したという、大変な苦労の腸物なのだ。
これらの和楽器は現在、常滑市にある山光さんのギャラリーで見ることができる。また、製作には時間がかかるが、注文に応じて作ってくれるというので、興味のある方はぜひ一度、足を運んでみてはいかがだろう。
山光さんには一つ、大きな構想があるそうだ。それは、常滑焼を代表する土管を使って、巨大な笙のモニュメントを造り、町おこしにつなげること。笙はそれぞれの竹筒についている穴をふさいだり開けたりして演奏する楽器だが、モニュメントに向けて、送風機で風を送り、大勢で鍋のふたを持って土管の穴をふさぎながら音を奏でるという構想。想像しただけでもとっても楽しそう!
「造るのも鳴らすのも、一人ではできないこと。多くの人が関わることで、町おこしにつながると思う」
一年に一回、人が寄って、みんなで演奏会を開きたいという夢を語ってくれた山光さん。
(ミドリ)
陶器でできた三味線や尺八なんて、いったいどんな音色なのだろう。興味津津の私は、さっそくギャラリーを訪ねることにした。
やさしい笑顔で迎えてくれたのは、陶芸家・山光さん(本名・山田光男さん)、67歳。山光さんのギャラリー「窯や」は、登り窯やレンガの煙突、黒い板壁の窯業施設が立ち並ぶ「やきもの散歩道」の一画にある。100年以上も前から実際に土管を焼いていたというレンガ造りの大きな窯の中に入ると、茶碗や置物と並んで、奥の方に置いてある琴と三味線が目に入ってきた。形や大きさは本物そっくり。だが良く見ると、弦以外はすべて焼き物でできている。三味線の皮の部分も、琴の音程を調節する琴柱(ことじ)も、すべて焼き物だ。
三味線を手に取ってみると、陶製ならではのずっしりとした重みを感じた。山光さんに聞くと、本物の楽器に比べて、三味線は約3倍、琴は約5倍の重さがあるそうだ。これでは持つのも大変では? と思うが、観賞用ではなく、あくまでも演奏することを目的に造っているため、手で持って吹く笛などは約2倍の重さに抑えているという。「重かったら吹けないし、吹けなければ意味がない」と語る山光さんのこだわりだ。
気になるのは、その音色。山光さんに笙(しょう:雅楽などで使う管楽器のひとつ。写真参照)と尺八を吹いていただいた。笙の「ふぁーん」という優雅な音とともに、一瞬にして雅楽の世界に引き込まれた。尺八も本物同様、息の音と混じり合うような独特の音色。私も、琴と三味線の弦をはじいてみたところ、音がまっすぐ耳に届くような感覚があった。山光さんによると、木製との音の違いは、陶器が音を吸収しないため、高周波のやや硬い音が出ること、また、音が遠くまで響くことにあるという。悠々とした音色に、私もすっかり魅了されてしまった。
山光さんがこれまでに作った和楽器は、このほかに、横笛、鼓(つづみ)、篳篥(ひちりき)の計7種類。鼓の、通常は皮でできている手で打つ部分も、笙の、本来は細い竹を並べてつくる部分も、もちろんすべて陶製だという。笙の筒の大きさは直径1cm、厚さはわずか1.5mmと、実に精巧なつくり。思わず持つ手が震えてしまうほど、職人の技がキラリと光る逸品だ。
山光さんが和楽器を作り始めたのは27年前。「世の中にない、人が作ったことのないものを作ろう」との思いから着想したのが、音の出るものだったという。前例がないだけあって、完成までの道のりは長く、琴の製作時には半年間、ほかの焼き物は作らずに没頭。約50面の試作の末、ようやく4面、納得いくものができたという。尺八に至っては、5本の完成品を作るのに約300本の試作を繰り返したという、大変な苦労の腸物なのだ。
これらの和楽器は現在、常滑市にある山光さんのギャラリーで見ることができる。また、製作には時間がかかるが、注文に応じて作ってくれるというので、興味のある方はぜひ一度、足を運んでみてはいかがだろう。
山光さんには一つ、大きな構想があるそうだ。それは、常滑焼を代表する土管を使って、巨大な笙のモニュメントを造り、町おこしにつなげること。笙はそれぞれの竹筒についている穴をふさいだり開けたりして演奏する楽器だが、モニュメントに向けて、送風機で風を送り、大勢で鍋のふたを持って土管の穴をふさぎながら音を奏でるという構想。想像しただけでもとっても楽しそう!
「造るのも鳴らすのも、一人ではできないこと。多くの人が関わることで、町おこしにつながると思う」
一年に一回、人が寄って、みんなで演奏会を開きたいという夢を語ってくれた山光さん。
いつか、陶器の楽器が常滑市の名物の一つになる日が来るかもしれませんね。
(ミドリ)
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