このニオイのことを、筆者も、妻も、子供も、我が家は皆「お日さまのニオイ」と呼ぶ。家族揃って大好きな、お日さまのニオイ。いつまででも嗅いでいられる、お日さまの……。うん? ちょっと待てよ。お日さまの……? ニオイ……?
お日さまとは、当然ながら太陽のことである。はるかカナタに存在する太陽に、ニオイなどあるのだろうか? よしんばあったとしても、そのニオイが地球に住む人間のもとまでは届かないと思うが。
ためしに、部屋干ししたシーツや毛布のニオイを嗅いでみる。が、お日さまのニオイは一切感じられない。なら、乾燥機で温めた布団からはどうだろうか。これもやはり、お日さまのニオイはしなかった。
日光がほとんど出ていない曇りの日に、布団を外で干してみると……。こちらは、微かながらニオイが感じられた。サンサンとはいかないまでも、わずかでも太陽が顔を出していれば、お日さまのニオイが表れるようである。
お日さまのニオイについて調べているうち、ある説を目にした。お日さまのニオイは、布団や毛布に棲みついたダニの死がいとフンのニオイだというのだ。家族揃って嬉々として嗅いでいたニオイが、まさか……。喘息持ちの筆者などは、大敵であるはずのダニの死がいとフンに、自ら飛び込んでいっていたことになるじゃないか……。
「ファブリーズ ふわりおひさまの香り」を発売するP&Gに、この「おひさまの香り」とはどんな香りかを尋ねてみた。いわく、「太陽の降り注ぐ南国をイメージした、フルーティシトラスの香り」とのことだった。干した布団などから漂うお日さまのニオイというわけではないらしい。とはいえ、実際に購入して使ってみたところ、お日さまのニオイではないものの、これはこれで心癒されるニオイだった。
う~む。お日さまのニオイの正体とはなんなのか……。本当にダニの死がいやフンのニオイなのだとしたら、喘息にいいわけはないので、筆者としては永遠にお日さまのニオイとはオサラバということになってしまう。
と、お日さまのニオイの正体を追い求めるうち、図書館で有力な情報を得ることができた。2001年11月15日付けの日本経済新聞によると、「某大手化粧品メーカーが天日干しの洗濯物から漂う香りの成分を解明。紫外線によって洗濯物からアルデヒドやアルコール、脂肪酸といった揮発性の成分が発生すると判明した」のだそうだ。
同じ記事には、「この香りを嗅ぐことで、気分の良いとき特有の脳波が表れる」と書かれていた。なるほど。
と、お日さまのニオイについて調べていた筆者のもとに、まぶしい日差しを浴びながら外で遊んできた娘が駆けつけて言った。「お日さまのニオイ、する?」。天日干しとは異なるものの、やはり、やさしい香りがした。
(木村吉貴/studio woofoo)