レストランや居酒屋にいくと、まれに、厨房の部屋がガラスばりになっていたり、仕切りがなかったりして、調理の様子が見えるようになっているところがある。

お客さんに料理ができる過程を楽しんでもらうための演出の一つだと思うのだが、実際に見られる側である料理人さんとしては、どんな心境なのだろうか。
見られているために気合いが入りやすい一方で、ミスを恐れて大胆な調理ができなくなったりしないのだろうか。今回は、見られながら仕事をする料理人の、複雑な心境に迫ってみたい。

千葉にある、厨房がお客さんの席から見える場所にある炉端焼海鮮料理屋さんの料理人さんいわく、「調理そのものが、お客さまに対するパフォーマンスだと思って、日々仕事をしています」とのこと。身だしなみや立ち振る舞いに気を配り、厨房を常に清潔に保つ、という意識は人一倍強いようだ。

常にお客さんから見られているために、例えば後輩料理人に説教をしたりする場合にも、不都合があるのではないだろうか。これについては、「その場で注意しないと効果が少ないので、お客さまに見られる場であっても、注意はします。ただ、それがお客さまに伝わると店の雰囲気も悪くなってしまいますので、声のトーンを低めにして、顔には出さないように気をつけています」とのこと。お客さんから見えない「死角」もいくつかあるため、話が込み入っているときや疲れた時などは、そこに入ることもあるのだそうだ。

また、山口県にある、とある居酒屋さんの場合、外から厨房が見えるようになっている。この場合、「例えば、調理を見ている人がいたときに、『良かったら食べていきませんか?』と声をかけることができる」という、実利的なメリットもあるようである。

新しく入るスタッフの場合、厨房が丸見えであることに対して戸惑いを感じることもあるものと思われるが、「最初は戸惑う人も多いですが、1週間くらいでだいたい慣れるみたいです」とのこと。意外と適応は早いようである。


まれに、かなりじーっと厨房を覗き込む人もいるようであり、長い人だと5分以上見続ける人もいるのだとか。「窓に近い場所で仕事をしていて、お客さんがじっと見ているときに、刺身の盛りつけをすると、かなり緊張します」とのこと。おそらく、見ている側の緊張感もハンパないに違いない。

一方で、「炒め物」に対するこだわりも大きい。炒め物の醍醐味といえば、なんといっても、材料を華麗に宙に浮かせるあのフライパンさばきと、ことあるごとにブワッと出てくる炎である。

調理上、必要なためにやっているわけだが、見た目のインパクトが大きいために、お客さんの注目度も高いようだ。ただ、「気合いを入れすぎてフライパンから中身がこぼれないように気を遣うし、炎については、むしろ調理する方がびっくりする場合もある」とのことであり、注目される分、緊張感もひとしおのようである。

そんな感じで、やはりお客さんに見られている厨房では、仕事ぶりも変わってくるみたいなのだが、「お客さんに見られていようがいまいが、自分の仕事ぶりは全て、料理に現れると思ってます」という、とある料理人の意見が格好良すぎて惚れた。
(エクソシスト太郎)
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