富士山が世界遺産に登録され、いまだ日本中が興奮冷めやらぬといった感もあるが、日本には世界遺産候補がまだまだある。

そのひとつが、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」。
長崎県内の12資産に熊本県の「天草の崎津集落」(※崎津の「崎」は正しくはたつさき)を加えた13資産で構成されており、2015年の登録が有力だといわれている。

唯一、熊本県側からのエントリーとなっているのが「天草の崎津集落」だが、ここは古くから海を媒体として、長崎との交流が盛んだったエリア。もともと天草といえば、天草・島原の乱を率いた天草四朗に代表されるようにキリシタン文化が根付く土地だ。

のどかで美しい漁村には当時の信仰を今に伝える資産が点在しており、なかでも地区のシンボル的存在となっているのが、「崎津天主堂」。羊角湾を臨む海沿いにひっそりとたたずんでいる姿が印象的だ。

「一般的に教会というと小高い丘とかが多いのですが、珍しいでしょう」
そういって案内してくれたのは、現地ボランティアガイドの森田哲雄さん。そのユニークな立地ゆえ、「海の天主堂」と呼ばれることもあるそうだ。

もともと1569年にルイス・デ・アルメイダ神父によって建てられたのが始まり。明治以来3度建てなおされており、現在の教会は1934年(昭和9年)に建築されたもの。鉄筋コンクリート造りと木造の部分からなる珍しい造りに加え、堂内は畳敷きの和洋折衷スタイルで、初めて見ると、かなりインパクトがある。

さらに畳の上にはパイプ椅子が並べてあった。聞けば、
「昔は畳の上でお祈りをしていましたが、現在は信者も高齢化しており、畳に座るのが大変な方もいますから、パイプ椅子を並べています」
とのこと。
現在でもキリシタン信者の祈りの家として使用されており、一般の人も自由に入ることができるが、内部は撮影禁止なので、ぜひ自分の目で確かめてほしい。

ちなみに崎津地区は、2011年に国の重要文化的景観にも選定されている。船着き場や物干し場として利用されていた海に突き出た構造物「カケ」や、道幅1mほどの「トウヤ」と呼ばれる海へ続く路地など、この地域特有の景観も多く、そぞろ歩きも楽しい。

訪れた日は平日ということもあり、観光客は少なかったが、世界遺産に登録されれば、観光客が増えることは必至。ほのぼのした漁村のムードをたっぷり感じるなら、今が行き時といえそうだ。
(古屋江美子)
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