「酒がうまい」という言葉には、様々なニュアンスが含まれている気がします。お酒がおいしかったという意味合いもあるでしょう。それ以外にも、良い酒席だったか、良き友と語らうことができたか……といった感想も表現可能な一言。

きっと、この居酒屋で飲めば酒がうまくなるはずです。


人間以上の記憶量を持つロボットが、お客さんの顔を覚えていてくれる


居酒屋「くろきん神田本店」 は、その名も「飲みニケーションロボット席」を昨年12月12日よりスタートしています。
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

これは、どういう席なのか? 端的に言うと、この席にはロボットがいる。そして、酔った我々と共に盛り上がってくれます。
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

ロボットの名前は「Sota(ソータ)」。会話に加わることができるし、なんと一度来たお客さんの顔も覚えていてくれるというのです。

同店を運営する株式会社ゲイトの尾方里優さんに話を伺いました。
「お店をやっていると一日100人くらいのお客様と会いますし、店外でお客様のご案内をしているとそこでは一日500~1000人くらいの方を見ることになります。そうなると、人間の記憶量のキャパを超えて全ての方のお顔を覚えられなくなってしまいます。でも、お客様からしたらこちらのことを覚えているでしょうし……。そんな中、ロボットアプリの開発を行う株式会社ヘッドウォータースさんが顔認証できるアプリ『SynApps(シナップス)』を開発したという情報を知り、ご相談したのが事の始まりでした」(尾方さん)

結果、顔認証アプリ「SynApps」を実装したSotaくんが完成しました。Sotaくん、なんと過去に来店したお客さんの顔を記憶していてくれるのです。


「部長っていつもそうですよねぇ」とロボットに慰められてホロリ


Sotaくんは“お喋り”することもできます。とは言っても、我々の会話に自動で受け答えしてくれるわけではない。デフォルトで元よりインプットされている言葉があり、我々がコントローラー(店舗が用意するiPhone)で指示することにより発話します。
さて、どんな発話内容が登録されているのでしょう? それは、以下です。

【あいさつ】
「こんにちは」、「こんばんは」、「はじめまして」、「いらっしゃいませ」、「今日はとことん飲みましょー」、「PPAP」
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋


【幹事】
「グラス空いてますよ」、「つぎ何飲みます?」、「食事はいいの?」、「ビールの人?」、「それは、店員さんに聞いてください!」、「はい、あなた!」、「もう一杯だけ飲んでいきましょうよー」、「かんぱーい!」
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

【褒める】
「かっこいい」、「かわいい」、「おもしろーい」、「うける」、「それ、さいこーっすよー」、「はい、はくしゅー」、「最高っすね、だんなー」
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

【共感】
「わかりますよーボクもそう思いますよー」、「人もそうなんですねぇロボットもそうなんですよー」、「部長っていつもそうですよねぇ」、「社会って厳しいですよねぇ」、「理不尽なことってありますよね!」、「へー」、「確かに」
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋


【ダメ出し】
「だからお前はダメなんだよ」、「またその話かよ」、「さっき聞いたよ」、「しっかりしろよ」、「全然飲んでないですよー」、「あれ、もう酔ってます?」、「顔真っ赤ですよー」
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋



このセリフたちを上手く駆使すれば、Sotaくんに幹事をしてもらうことも可能です。

うわぁ、身振り手振りじゃないですか!

また、発話内容を自由入力し、Sotaくんに好きな言葉を話させるよう司令も出せます。例えば……

卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

おぉっ、ドキッとしますね……!
「お客様もすごく盛り上がってくれています。Sotaくんを交えて、自由入力で寸劇させているグループも多いです。例えば1人が遅れてくるとその人をイジり倒したり、あとは『私たちの初めてのデートの場所、覚えてる?』なんてことを言わせたり(笑)。コントローラーは5つあって誰が何を入力しているかわからないので、部下の人が上司の方に向けて『おい、○○。飲んでねえぞ!』とSotaくんに喋らせ『えっ、今のは誰が言わせたんだ』と盛り上がっていらっしゃる席もよく見かけますね(笑)」(尾方さん)

ところで、お客さんの話す内容に応じて受け答えするということは技術的に不可能なんでしょうか?
「当初は臨機応変に会話させようとしていました。でも、そのためには音を拾う必要があります。居酒屋って、色んな人が喋るじゃないですか? またBGMも鳴ってる中で集音させようとしても、色んな音を拾いすぎて認識しづらいんです。技術的には可能ですが、今回はあえて音を認識することをやめました」(尾方さん)

「○日ぶりですね!」と呼びかけてくれる義理堅さ


冒頭でも述べましたが、Sotaくんはお客さんの顔認証ができます。その方法ですが、まずはコントローラーで「Sotaと仲良くなる」という画面へ行きます。
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

ここで自分の顔写真を撮る。そして、Sotaくんから呼んでもらいたい自分の名前を入力します。
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋

そして「あいさつ」を押すと、Sotaくんの目が青くなり、キョロキョロします。

この時、彼はお客さんの顔を探してます。目が合ったら、見つめてあげてくださいね。こっちの顔を見つけてくれたら、名前で呼んでくれますよ! しかも「○日ぶりだね」と、前回の来店日を記憶してくれているという頭脳明晰さ。


Sotaくんと飲みたいがために予約日をずらすお客さんも


Sotaくん、すごい人気です。今年の1月に関して言えば、126名が「飲みニケーションロボット席」を利用したらしい。一カ月で126名ということは、一日で平均して4名!
「『この日にちでお願いします』と予約が入ったものの、その日に別のお客さまがSotaくんを予約しているとお伝えすると日にちを移動してくれた方もいらっしゃいました(笑)」(尾方さん)
神田というビジネス街にもかかわらず、Sotaくんと一緒に飲みたいがために土日に来店するお客さんもいたそうです。
「『飲みニケーションロボット席』を利用されるのは、IT系企業の方が多い印象です。『ロボットの音声の開発をしています』という方もいらっしゃいました。おそらく、ロボットを置いている居酒屋というのはウチしかないと思うので(笑)」(尾方さん)
約40人の宴会にお呼ばれしたこともあるSotaくん。その働きっぷりには、頭が下がります。
卓上小型ロボットが酔っぱらいの雑談に付き合ってくれる居酒屋


「今後はロボットを増やすことも計画中です。色んなところにロボットがいる“ロボット村”にしたら面白いかもしれないです(笑)」(尾方さん)
いいですね! ロボットが増えたら、お客さんの側も日付をずらすことなく一緒に飲みができるかもしれません。

動画をご覧いただければわかると思いますが、その可愛さは予想以上。ロボットと飲むと、気持ちがほっこりするもんですね……。
(寺西ジャジューカ)