前回、最終回予想をした。
予想した流れは、だいたいこんな感じだった。
鳴海校長(櫻井翔)は、校長を辞めて会社にもどる決断をする。
学校が忙しくてすれ違いになっていた婚約者の松原聡子に、「(校長を辞めるから)やりなおそう」と伝える。
理屈で考えれば、そういう決断をすべきだ、という流れになっている。
だが、最後に「やはり学校を辞めない」という決断をしてほしい。するはずだ。
そのためのキーは、実は、抵抗勢力三人組ではないか。
校長に抵抗しながらも、少しずつ変わってきている三人の先生。
オープンキャンパスの授業ではペップトークを使って生き生きとした授業を展開した。
生徒からの質問に素で答えると、みんな興味津々で聞いてくれて「いまの、ありなの?」と考え込む河原崎先生(池田鉄洋)が、#9では描かれた。
抵抗勢力のままだが、少しずつ変わってきている。
鳴海校長が辞める決断をし、辞めることになるが、大逆転劇が起こる。
最後の最後に、抵抗勢力三人組が意外な行動と作戦で、それを阻止しようとする。
それは、失敗に終わるのだが(ドラマ的おやくそくだ)、その意気を感じて、他の人たちが立ち上がる。
「学校は辞めて、松原さんと一緒になるのが一番いい」と言っていた真柴先生も「辞めないでください!」と叫ぶ。
生徒たちがやってきて、「先生、辞めないで」の声。
ラスト、生徒300人が大集合して、鳴海校長に訴えかける。

うーむ。予想通り進んだが、ラストのラストだけ大きく外した。
ドラマだから最終回はさすがに盛り上げるよだろうなーと思ったのだが、『先に生まれただけの僕』は徹底的にドラマ的な盛り上げ方をやらないドラマだった。
抵抗勢力の先生三人組が、校長先生のところにやってきて
「京明館高校を辞めるな」
「ぼくたちはお願いしてるんですよ」
「やめないでください」
と直訴するシーンはあった。
だけど、それは、もうすでに鳴海校長が「京明館高校を辞める」という決断を翻して、校長を続けると決断した後だ。
だから、「やめないですよ、ぼくは」と鳴海校長が答えて、三人が「へ?」ってリアクションで、エピローグへ。
先生たちや、学生が、集まってきて、みんなで校長先生に訴えかけて心を動かすという感動的なシーンは、なかった。
さすが『先に生まれただけの僕』だ。
『先に生まれただけの僕』は、ずっとそういった「熱い」「感動的な」シーンをやらなかった。
最後までやらなかった。
ドラマは、鳴海が京明館高校にやってきて、先生たちが変わり、生徒たちが変わっていく様子を大きな流れで描いた。
そして各話では、学校で起こった問題を、情熱とか熱血を使って解決せず、鳴海校長のビジネスライクな思考と、学生を子供だとあなどらず同じ立ち位置で語る姿勢で解決していった。
#1の奨学金問題は、本人と二人で話して、解決した(#1のエンディングでは解決しなかったようにひっくり返しておいて、#2ではやはり鳴海校長の言葉が響いて解決に向かった)。
#2のいじめ問題。鳴海校長と真柴先生がいじめていた二人を呼び出して、話すことで、解決した。
#3は、デジタル万引きと、勉強は役に立つのか問題。これは、全校生徒を集めて、壇上から鳴海校長が話すことで、解決した。
#4は、三年生が見捨てられたと感じる問題。三年生を体育館に集めて、鳴海校長が「何もしないやつにはチャンスはやってこない」と10分超えの演説で解決。
#5だけは、例外だった。オープンキャンパス編で、このパターンではなかった。オープンキャンパスが本当に成功するのか?という問題を、ドキュメンタリーかと思わせるような作りで見せた。巨大な書道と弓道のパフォーマンスで学生が一致団結する姿は感動的だった。
#6は、学校説明会。「いじわるな質問にどう答えるか」がクライマックスで、これも鳴海校長のスピーチで解決。
#7は、大学に進学せず結婚したいと言い出す学生があらわれる。保護者と学生と相手の男性を集めて、そこで鳴海校長と真柴先生が語ることで解決する。
#8は、棋士になるという夢のため学校をやめると言い出した学生が登場。これも、保護者と学生を集め、そこで鳴海校長と真柴先生が語ることで解決する(骨格だけ抜き出すと#7の繰り返しだ)。
#9は、バスケットボール部の遠征費用のことで保護者からのクレーム。これも、鳴海校長が保護者と話して、その後の問題もバスケ部員とコーチを前に語ることで解決する。
#5以外は、一貫して、鳴海校長が、降り掛かった問題をあれこれひとりで考えて、最後にスピーチすることで解決する。
誰かと協力したり、走ったり、ぶつかったり、そういったドラマ的な見せ場はないのだ。
不思議なドラマだ。
いや、学校の現場のリアリティとしては、こちらのほうが現実に近いのだろう。
会議とスピーチで、どうにか解決していくしかない。
その解決もすっきりとしたものではなく、ひとまず納得してもらったといったものでしかないだろう。
そうやって教育の現場は進んでいく。
『先に生まれただけの僕』は新しい学校ドラマのリアリティを目指した意欲作だった。
ただ正直なところ、もっとはつらつと活躍する櫻井翔の姿を見たかったという欲張りな感想も拭いきれなかった。
このドラマ、櫻井翔の見せ場が、ほとんど、立って話すか、座って話すか、しかないのだ。
櫻井翔が、走ったり、ジャンプしたり、笑ったり、泣いたり、叫んだり、学生とぶつかったり、そういった学園ドラマもいつか見たい。
『先に生まれただけの僕』は、そういった熱いドラマを避けて、いかに正しい答えを鳴海校長が語り、正しい道を見つけるかを描いた。
最終回、ラスト。
テスト開始の前に鳴海校長は校内放送で、受験生に語りかける。
「いま、みなさんの目の前にある試験問題は京明館高校からみなさんへのメッセージでもあります。奇をてらった難しい問題はありません。中学校の授業をきちんと聞いていれば解ける問題ばかりです。ここから先はぼくたちと一緒に勉強していこう。そんな気持ちを込めて試験問題を作りました。今日は、悔いのないよう全力を出し切ってください」
ああ、自分が学生のとき、テスト前にこう語られたら、どれだけ救われただろう。
『先に生まれただけの僕』は、観ている間、何度も何度も、ああ、こんな校長先生がいたら良かったのに、こんな学校だったら良かったのに、とおもわせるドラマだった。(米光一成)
公式サイト「先に生まれただけの僕」
公式Twitter「先に生まれただけの僕」
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