
福島県会津地方の民芸品に「おきあがりこぼし」というものがある。張り子の丸みを帯びた人形の底に重りが仕掛けてあり、倒しても起き上がる仕組みの玩具だ。
絵付けには松本零士さん、里中満智子さん、ちばてつやさん、モンキー・パンチさん、さいとう・たかをさんなど、日本を代表する作家をはじめ漫画家100人以上が参加した。なぜこのようなプロジェクトを行うことになったのか。それは2011年3月11日に起きた東日本大震災とフランスの在留邦人からはじまった、復興支援活動に端を発している。

フランスの在留邦人から広がった活動
2013年、ファッションデザイナーの高田賢三さんが呼びかけて、フランスの在留邦人が中心となり「おきあがりこぼしプロジェクト」がはじまった。これはおきあがりこぼしを、高田さんはじめジャン・ポール・ゴルチェさん、ポール・ボキューズさん、アラン・ドロンさん、ジャン・レノさんなどフランスの著名人たちに絵付けしてもらい、復興支援の一助としようというものだ。
絵付けされた中で、上述したフランスの著名人の作品に加えて、現地在住の漫画家によりデザインされたおきあがりこぼしが、フランスで高評価を得た。そこで、この活動を高田さんと共に進めた運営責任者の渡邊実さんは「復興支援の活動の一環として、おきあがりこぼしの絵付けを日本の漫画家にしてもらうと良い活動になるのではないか」と考え、日本漫画家協会へ打診。賛同した日本漫画家協会理事長ちばてつやさんの呼びかけで、各漫画家により100体以上が描かれ、今回展示される漫画家によるおきあがりこぼし(まんがこぼし)になった。
フランス、イタリア、スペイン、ウクライナ、広島などの各地で巡回展示されたそれが今回、明治大学で展示される。海外の日本人から始まった運動が東京で初の展示を迎える形である。
漫画家の社会貢献がテーマ
明治大学における「おきあがりこぼしプロジェクト」展で、テーマとなっているのが「漫画家は災害に対してどう向き向き合うか」ということだ。その一つの形として、今回の「まんがこぼし」はある。

「漫画家の多くはエンターテインメントを提供するのが職業。しかし東日本大震災のような大災害が起きたとき、苦しんでいる人がいるのに自分たちは漫画なんか描いていていいのか、と彼らは悩む。それでも呆然と立ち尽くすのではなく、東日本大震災後の日本の漫画家たちは『自分たちができるのはエンターテインメントなのだからそれをちゃんとやろう』という姿を見せた」と同展を監修する小田切博さんは述べる。
今回の展示では、この「漫画家の社会貢献」以外に「復興支援」「クールジャパン・イメージの有効活用」という3つを「まんがこぼし」活動を紹介する柱として展開している。
「漫画は元来、社会批評としての性格を持つ。大衆性と分かりやすさで教育・啓蒙分野にも使われている。日本漫画家協会も、自治体や企業との共同企画または自主的に、展示・講演などを通じた社会貢献を行ってきた。しかし漫画家の社会貢献は、短期的なイベントとして消費されてしまうため記録として残りにくいのが現実だ。今回の『まんがこぼし』は、絵付けされたおきあがりこぼしという具体的なものがある分、活動をイメージしやすい」と小田切さんは今回の展示の特色を語る。
加えて「海外のひとびとが考える日本文化の典型的なイメージのひとつになった漫画を通じ、震災や原発事故によりマイナスとなった日本の印象を再生させようというこのプロジェクトのあり方は、現代における漫画および漫画家と社会の関わり方を象徴している」とも小田切さんは答える。
パリから始まった日本に向けた支援活動。それに賛同した漫画家たちの思いをご覧あれ。
(加藤亨延)