今月11日からスタートした日本テレビの水曜ドラマ「正義のセ」(夜10時~)。原作は、テレビで活躍するとともにエッセイや週刊誌の連載対談などでも知られる阿川佐和子(昨年はTBSの日曜劇場「陸王」に俳優として出演した)の同名小説シリーズだ。

吉高由里子「正義のセ」新米検事が朝ドラヒロインっぽい、広瀬アリスが妹役、見どころ考察してみた
今回のドラマの原作となる阿川佐和子の『正義のセ』シリーズ第1巻「ユウズウキカンチンで何が悪い!」(角川文庫)。なお、ドラマでは当初、支部長役を大杉漣が演じる予定だったが、急逝したため、寺脇康文が代役に抜擢された

朝ドラ経験者が目立つ出演陣


ヒロインの竹村凛々子(吉高由里子)は2年目の検事。この春から横浜地検の港南支部に配属された。それまでの1年間は大阪に赴任していたので、航空会社勤務の彼氏・中牟田優希(大野拓朗)とは長距離恋愛を続けてきた。先週放送の第1話の冒頭では、その彼と久々に横浜でデートするため、うきうきしながら待ち合わせ場所に向かっていたところ、ひったくりに遭い、約束はふいになる。転任先での最初の勤務の前日だった。

このとき、デートに向かう凛々子のファッションに説明のテロップが入っていたのが、一昨年に同じ水曜ドラマの枠で放送された「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」を彷彿とさせた。「校閲ガール」とは同じく働く女性を主人公にしている点でも共通する。
ただし、「校閲ガール」が校閲という一般にはなじみの薄い仕事をとりあげたのが新鮮だったのに対し、「正義のセ」のヒロインは検事とドラマではすでにおなじみの職業だ(しかも「HERO」という大ヒット作もある)。そこをどう料理してくれるのかは、今回のドラマのみどころのひとつといえる。

それにしても、本作のキャストにはなぜか朝ドラに出ていた俳優が多い。主人公・凛々子役の吉高由里子からして「花子とアン」(14年)のヒロインだし、事務官・相原役の安田顕は「瞳」(08年)、同じく事務官・榎戸役の夙川アトムおよび凛々子の父役の生瀬勝久は「べっぴんさん」(16年)、母役の宮崎美子は「ごちそうさん」(13年)、支部長・梅宮役の寺脇康文は「おひさま」(11年)、同僚の検事・徳永役の塚地武雅は「まれ」(15年)と、やはりここ10年以内に朝ドラ出演経験がある。さらに凛々子の彼氏と妹役をそれぞれ務める大野拓朗と広瀬アリスは、先月まで放送されていた「わろてんか」にいずれも芸人役で共演していたのが記憶に新しい(偶然にも、同作での広瀬の役名と今回の吉高の役名はどっちもリリコだ)。

「正義のセ」にかぎらず、4月期のドラマのキャストには朝ドラ出身者が多いとは、当エキレビ!でもおなじみのライターの木俣冬さんも指摘している(「dmenu映画」2018年4月10日)。
ただ、そのなかでも吉高演じる凛々子のキャラクターはひときわ朝ドラのヒロイン像と重なる。初回から、周囲の人たちを振り回しながら、おのれの信じる道を突き進むその姿は、「花子とアン」の村岡花子が戻ってきたかのようだった。
吉高由里子「正義のセ」新米検事が朝ドラヒロインっぽい、広瀬アリスが妹役、見どころ考察してみた
イラスト/まつもとりえこ

一話完結型ドラマ最初の事件


原作は、凛々子の少女時代、さらに検事となってからの研修期間と、彼女の足跡が時間の流れに沿って描かれ、まさにそのまま朝ドラになりそうな形なのだが、これに対しドラマ版は、先述のとおり彼女が検事となって2年目の春から始まり、一話完結のスタイルがとられている。

第1話、転任早々の凛々子が担当したのはある傷害事件。事件の被害者である建設会社勤務の向井(浅利陽介)は、上司の恩田(石黒賢)と居酒屋で飲んでいたところ叱責され、店を飛び出す。だが、追ってきた恩田に路地裏で暴行を受けたあげく、階段から転げ落ち、全治2ヵ月の重傷を負った。昨今、各方面で問題となっているパワハラがらみの事件だ。


向井が被害届を出したことから、凛々子と相原が動き出すも、取調べに対し被疑者の恩田はあくまでシラを切る。一方、入院中の向井の病室へ凛々子たちが訪れたとき、べつの上司たちが彼に被害届を取り下げるよう説得している最中だった。かたわらでは向井の身重の妻・美織(森矢カンナ=元・森カンナ)が不安そうに見つめている。

ここで、向井が被害届を出したのが事件から1週間後であったこと、また事件が起こったとき一緒にいた田中(六角慎司)が、恩田と同じく暴行を否定する証言をしていることなど不自然な点がいくつか浮上する。凛々子は、恩田がウソを言っていることは間違いないと思いいたるも、物証も目撃者もなく、彼を起訴するには高い壁が立ちはだかった。

翌日、凛々子が再び病院に行くと、美織から、向井が被害届を取り下げるつもりだと知らされる。
前日に恩田から不起訴になる可能性が高いと伝えられたためだ。夫の事情を何も知らなかったと自分を責める美織に、凛々子はあらためて心を揺さぶられる。

職場に戻った彼女は、先輩の検事たちにきょう一日だけ自分に全面的に協力してくれるよう頼みこむ。相原には「いいかげんにしてください! 先輩検事に仕事を押しつけるなんて図々しいにもほどがありますよ」と叱られるが、それまで凛々子をバカにしていたはずの大塚(三浦翔平)が意外にも一日だけ付き合ってやると申し出る。一体どういう風の吹き回しかと思いきや、同僚の徳永にはこっそり「ああいうバカは早いうちに痛い目にあわないとわかんないでしょ」とあいかわらず嫌味っぽい。

ともあれ、支部ぐるみのサポート体制を得ながら、凛々子は相原とともに街を駆け回る。
やがて現場付近にタクシーが停まっているのを見て、事件当日のドライブレコーダーが証拠になるのではないかと気づく。タクシー会社をまわって入手したドライブレコーダーから、凛々子たちはやっと、恩田が向井を路地裏へと連れて行く映像を見つけ出した。

もっとも、これだけでは証拠としてはまだ不十分。そこへ大塚が凛々子に差し出したのが、恩田の銀行の入出金記録だった。ここから恩田が会社に対し詐欺行為を行なっていたことが判明。向井が恩田にパワハラを受けるようになったのは、この事実を知ってからであり、田中が恩田と同じ証言をしたのも、彼にも詐欺で得た不正なカネが振り込まれていたためだった。
こうして凛々子の転任して最初の事件は、先輩たちのサポートにより無事に解決し、恩田を起訴するにいたる。

広瀬アリスが「妹役」に挑戦


第1話では、凛々子が職場の先輩ばかりではなく、家族からも支えられていることがうかがえた。

凛々子の実家は東京・下町の豆腐屋。転任初日から取調べを終えた彼女が、遅くに帰宅して食事をとっていると、妹・温子(はるこ)に「お姉ちゃんから取調べを受ける人って怖いよね」と軽口を叩かれる。このとき温子が、凛々子の(というか吉高の)舌足らずなしゃべり方をモノマネをしていたのが結構似ていて、笑ってしまった。

思えば、温子役の広瀬アリスは、実生活では広瀬すず(前クールの水曜ドラマ「anone」の主演)の姉であり、仕事でも朝ドラ「わろてんか」で姉御肌の芸人を演じるなど、これまで姉のイメージがどうしてもつきまとった。それが今回は妹役というのが面白い。広瀬にとっても本作は、このあたりでちょっとイメージチェンジという意味で一つのエポックになるかもしれない。ちなみに原作では、温子は凛々子より6歳下で、背が約10センチ高いという設定だが、これは吉高由里子と広瀬アリスにも当てはまる。

このほか第1話では、生瀬勝久演じる父・浩市が、仕事で行き詰まる凛々子に、幼少期に彼女が正義の味方になりたいと言っていたことを引き合いに「検事という仕事は向いてるんじゃないか。しつこく、あきらめないところとか」と励ます場面も印象に残った。家族との関係も丁寧に描くあたり、この作品はお仕事ドラマというだけでなく、ホームドラマも志向しているようだ。

さて、初回で凛々子は、デートの約束をしながら行き違いとなった優希と、その後もお互いに忙しくて会う時間がつくれなかったが、今夜放送の第2話ではようやくデートできる模様。ただし、仕事では初めて殺人事件を担当することになるのだが……どうなる、凛々子!?
(近藤正高)

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