8月8日に放送された『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第12話。アクティブ過ぎる榊マリコ(沢口靖子)にしばらく見慣れていたので、どっしり腰を据えた今回のエピソードには余計惹きつけられた。
日野和正所長(斉藤暁)が引きずり回された11話とのギャップたるや……。

第12話あらすじ


神社の境内で、宝石店の警備スタッフ・春田光彦(モト冬樹)が脇腹を刺されて倒れているところを発見された。マリコらが臨場したところ、現場には花びらや赤い小さな実のようなものが散乱しており、どうやら春田が犯人に襲われた際、持っていた花束を振り回したようだった。
花束に付着していた血液から、傷害や恐喝などで4度の逮捕歴がある男・諸星大地(石垣佑磨)のDNAが検出される。しかし、諸星は春田など知らないとシラを切るばかりで、2人の接点がまるで見当たらない。実は、春田は5年前まで病院の臨床検査技師長をしており、諸星は春田の研究のために血液を6年前から提供していた。諸星の血液には特殊な抗体があり、その血液から多くの新生児の命を救うことができる「グリブリン製剤」が作り出せるのだ。
諸星は6年前に起きたキャバクラオーナー殺人事件の重要参考人である。当時、春田は諸星が出したゴミ袋の中から殺人に使われた刃物を発見し、それを材料に諸星を脅して血液の提供を強制していた。事件当日はイライラしていた諸星に花束で殴りつけられ、別れた後に戻ってきた諸星が自分を刺したのではないかと春田は証言した。
6年前に使われた凶器の刃物をマリコが鑑定すると、諸星の他に正体不明のもう1人の指紋を検出。それは諸星が入っていた半グレグループのリーダー・小杉富生(木内義一)のもので、6年前の事件は小杉が諸星に指示をして起きた殺人だった。6年前の殺人について春田が知っていると知った小杉が春田を襲ったというのが今回の事件の真相である。

チンピラだった諸星は自分の血によって助かり喜ぶ家族を目の当たりにするうちに変わり始め、そんな自分に苛立ってもいた。諸星が訪れ、花を買ったフラワーショップには「グリブリン製剤」被験者である子どもがいた。店主の香坂めぐみ(大村彩子)は血液提供者が諸星だと知らず、サンクスレターを送っていたのだ。マリコは諸星が血液提供者だとめぐみに伝えられず、何も知らないめぐみは「他人の命を奪う人もいれば、誰かの命を救ってくれる人もいる」と思いを口にした。
「科捜研の女」2代目「宇宙刑事ギャバン」が体現した善と悪のあわい。犯人はヒーローになった
イラスト/サイレントT

宇宙刑事ギャバンが表現した紙一重


とにかく、今回はキャスティングが効いていた。諸星役の石垣佑磨は宇宙刑事ギャバン(2代目)を演じていた俳優である。4度の逮捕歴があるギャバン。「腎臓を売れ、この野郎!」と過激な言葉を吐きながらサラ金の取り立てをするわ、モト冬樹に食って掛かるわ。
「血の気が多いな。ちょっと減らしたほうが体にいいと思うんだがな」(春田)
うまいことを言うモト冬樹。

一方で、諸星は全く異なる一面も持っている。諸星は自分の血に救われた子どもがいるフラワーショップを訪れていた。諸星の人間性を信じられないマリコに対し、日野は言った。

「ただ、(子どもに)会いたかっただけかもしれないよ」(日野所長)

諸星が訪れると、ヒーローごっこで遊ぶ子どもたちは諸星に銃を向け、悪役扱いした。
「おのれ、悪の手先! くらえ! 正義の……」
「あいつ、絶対悪の手先だよ」
この子どもたちが、またやんちゃなのだ。土門薫(内藤剛志)も蒲原勇樹(石井一彰)も彼らには悪役扱いされてしまう。子どもたちの態度は、善と悪は紙一重と暗喩している気がしてならない。何かをきっかけに人は変わることができると。

マリコと土門がフラワーショップを訪れたとき、子どもたちはマリコをプリンセスとし、悪役の土門は退治された。
「おのれ、悪の手先! プリンセスを放せ!」
「プリンセス! 今助けるぞ!」
沢口靖子は映画『竹取物語』でかぐや姫を演じていたから、確かにプリンセスである。間違ってない。

ヒーローになる自分に苛立つ殺人犯


マリコと土門の前ではおくびにも出さなかったが、諸星は6年も病院の研究に自らの血を提供し、人の命を救い続けていた。人を救うヒーローと殺人犯は同一人物。「ああいう連中は反省なんかしやしない」と言われた諸星。4度逮捕されても変わらなかった。
彼を変えたのは人を罰する力を持つ警察ではなく、無力な赤ちゃんだった。人を傷つけ血を流してきた諸星は、一方で自らの血も流していた。

しかし、自分が変わることを彼は受け入れられずに苛立つ。他の誰にもできない善行なのに苦痛と葛藤を覚えていた。事実、正しさに目覚めつつある諸星が目障りになる小暮のような存在もいる。
「何も変わってねえよ、俺は! ああーっ、クソッ!」(諸星)

エンディングでマリコは諸星が血液提供者だとめぐみに伝えなかった。伝えられたのは逮捕の事実だけ。
「えっ……。あの人、殺人犯だったんですか?」
諸星の血で救われた子どもにもその事実は伝えられた。
「あいつ、悪の手先だったの? 今度来たら僕がやっつけてやるー!」

血液のことを伝えてしまったら、救われた家族が複雑な思いに苛まれる。フラワーショップの兄弟は自分たちをヒーロー2号&3号と名乗っていた。
「1号はこいつを助けてくれた後、別の子どもを助けに行ったんだって!」
諸星はヒーローのような奇跡を起こしたが、彼の血液提供は自らが犯した罪がきっかけ。
殺人を材料に脅され行ったのが、人の命を救う善行だったというのは皮肉だ。

ただ、諸星は変わりつつある。「赤い宝石」と呼ばれた彼の血は、子どもたちだけでなく諸星本人にも救いの手を差し伸べていると信じたい。
(寺西ジャジューカ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Blue Rain」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中
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