上妻圭右(間宮祥太郎)の実家のそば屋「きそば上妻」はかつて、売れない芸人たちが集う店だった。
しかし「ねずみ花火」という芸人が「あの店はまずい!」といじるネタをテレビで披露したことによって客が激減。
売上げをカバーするため、圭右の母親がパートに出ていたものの、過労がたたって倒れ、そのまま亡くなってしまった。
おかげで、それまで芸人好きだった圭右の父親・潔(寺島進)も芸人を憎むように。
その原因となった「ねずみ花火」の根津孝介(田中幸太朗)と、圭右の姉・しのぶ(徳永えり)が付き合っていることが発覚する。

再び空虚なダイジェスト状態に
おかみさんが死んだ遠因が自分たちのネタにあったと知った根津は毒舌ネタができなくなり、解散状態となってしまった「ねずみ花火」。
長年、妻の死を芸人のせいにして憎み続けてきた潔。
それぞれが過去の呪縛から解き放たれて、新たな一歩を踏み出す、原作ではグッと感動させるいいエピソードだったのだが、またこのドラマ版の悪いクセが出てしまった。
長い原作をムリヤリ1話に詰め込むため、ダイジェスト状態に。第1話の悪夢再び!
本作を見ていると「長編漫画を約10話のドラマにするにはどうしたらいいのか」という問題を改めて考えさせられる。
本来、原作に感動エピソードが多数あったとしても、思い切ってバッサリと削り、新たにドラマサイズのストーリーを構成し直す必要があるはずだ。……まあ、それに失敗すると盛大に炎上するわけだが。
しかし本作では「このエピソードをカットしたら原作ファンに叩かれるんじゃ……」とおびえているかのように、原作のいいエピソードをとにかく詰め込んでいる感がある。
もともとがいいエピソードなので、それを詰め込めば当然「いい話!」と感動はできるのだが、時間内に収めるために細かい伏線などを省きまくった結果、いい話っぽいけど、妙に空虚なエピソードが完成してしまう。
今回でいうと、「ねずみ花火」の根津は、罪悪感から毒舌漫才が出来なくなってしまい引退状態となっていたが、相方の花田稔(駒木根隆介)はピンのラップネタで相変わらず毒舌ネタをやっている。まったく反省していないのかと思いきや、「自分はもともと悪人なんだ」と思い込むことで罪悪感に押しつぶされそうなのを必死で耐えていた。だからこそ意固地に毒舌ネタに固執していたのだ。
……このあたりがザクッと省かれており、唐突に花田からの謝罪の手紙が発見されて「花田も反省してたんだー!」みたいな。じゃあどういう気持ちで毒舌ネタをやってたんだよ状態だ。
最近話題の「ドラゴンクエスト YOUR STORY」の監督・山崎貴は「STAND BY ME ドラえもん」で、原作の泣けるエピソードをパッチワークのようにつぎはぎして一本の映画にするという手法をとっていた。
アレも、原作の名作エピソードを詰め込みまくっているので、そりゃあ泣けるは泣けるんだけど、細かいニュアンスが(でもそこが重要なのだ)スッポリと抜け落ちており、見終わった後、何とも空虚な気持ちにさせられた。
本作からは、あの「STAND BY ME ドラえもん」とよく似た雰囲気を感じる。
主人公たちのエピソードをもっと見せて!
もうひとつの問題は、主人公であるはずの圭右と、その相方・辻本潤(渡辺大知)が傍観者になってしまっていること。
第2話では「デジタルきんぎょ」、今回は「ねずみ花火」という先輩芸人がメインのエピソードだった。
確かに原作は、主人公たち以外の芸人にもスポットを当てながら展開していくのが魅力ではあるのだが、それが出来るのは長期連載だからこそ。
ドラマ版では、今のところ4話中、2話が主人公以外のコンビがメインとなるエピソードだ。
さらに予告を見ると、第5話も再び「デジタルきんぎょ」編。これまた感動エピソードなんだけど……圭右と辻本のコンビの話を見せてよ!
劇団ひとりの連ドラ初演出ということで、舞台シーンなどへのこだわりはビンビン伝わってくるのだが、それだけにストーリー全体の構成が上手くいっていない感じが残念だ。
おそらく一番描きたいと思っているであろう、圭右たちの養成所時代。漫才コンテストへの再挑戦……このあたりのエピソードに向けて、なんとか立て直してもらいたいところだが。
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・Tver
「べしゃり暮らし」(テレビ朝日)
原作:森田まさのり「べしゃり暮らし」(集英社)
脚本:徳永富彦
演出:劇団ひとり
音楽:高見優、信澤宣明
撮影:小林元
オープニングテーマ:Creepy Nuts「板の上の魔物」
主題歌:B'z「きみとなら」
漫才監修:ヤマザキモータース、小林知之(火災報知器)
漫才協力:太田プロダクション
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:浜田壮瑛(テレビ朝日)、土田真通(東映)、高木敬太(東映)