倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第22週。

日本の戦況が泥沼にハマッていく中、根来家にも様々な事件が降りかかってくる盛りだくさんすぎる展開。


激痛のなかで僕は非国民になった


まずは、自殺した兄・三平(風間晋之介)の子どもを身ごもっているしの(清野菜名)と結婚した根来公平(風間俊介)が父親へと変化していく過程が描かれた。

実際に自らが妊娠・出産をする女性と比べて、男は父親としての自覚が芽生えるのが遅いと言われる(小泉進次郎もそんなこと言ってたな)。特に公平は父親になったとはいえ、実際には三平の子どもだし、しのを抱くどころかキスすらしていないのだ。

そんな公平が、すんなりと子どもを「自分の子」として受け入れることができたのは、出産に立ち会ったからだという。

「この子の生命の誕生の厳粛な瞬間に立ち会っており、しのと一緒に本気でいきんで、実際に多少漏らしてしまったのだから」

ウンコを漏らすことで父親の自覚を得た男・公平!

おかげで人から「ご主人そっくり!」なんて言われても気にせずスルーできるようになっていた。

父親としての自覚をより強固なものにするためにも、子どもの名前をつけさせてあげればよかったのに……とも思うが、結局、しののゴリ押しで剛と書いて「たける」だけど、普段は「ごう」と呼ぶというややこしい名前に。まあ、公平の考えていた「サスケ」(猿っぽい顔だから猿飛……)という名前も大概だけど。

そんな公平の元に、徴兵検査の報せが届く。

結婚を決める際にも少し語っていたが、しのと剛のそばにいるため公平は、山奥に逃げ込んだ鉄兵、自殺した三平とは違う徴兵逃れの秘策を実行に移す。

「オレはやる。オレは絶対、やってやる!」

その秘策とは、片脚をわざとトラックに轢かせて障害を負うというもの。……確かに自殺するよりはマシだけど、とんでもないことを考える。

事故~手術のシーンは、とにかく痛そうの一言! 軍歌や昭和歌謡がメチャクチャに流れる中、手術を受けて泣き叫ぶ公平と、トラックに轢かれる様子がカットバック。


異様な演出だったが、それがかえって公平の異常な精神状態を表しているようで、見ていて固まった。

「激痛のなかで僕は非国民になった」というセリフも重い。

そこまでして、しのと剛を守ると決心した公平。入院中、3人はすっかり本当の親子のようになっていた。
「やすらぎの刻~道」徴兵を逃れるため、わざとトラックに轢かれる公平!痛い!第22週
イラストと文/北村ヂン

勝手にタブーを作るな!


戦時中を舞台にしている「道」パートは、時代に翻弄される一家と、消えていく故郷を描きつつ、当然、戦争の理不尽さや悲惨さも訴えているわけだが、予算の問題なのか当時の記録映像や、微妙なCGのB-29が登場するくらいで、具体的な戦争の描写というのはほとんどない。

それでも、映像で伝える以上に戦争の悲惨さが伝わってくるのだ。

今回でいうと、トラックに轢かれて入院した公平と同室にいた傷痍軍人・才賀(木村龍)が語る「戦場は人をおかしくしちまうんだ」話がやたらと生々しかった。

敵兵と間違って現地の住民を撃ち殺してしまった話、腹が減って戦友の死体を食べた話、神風特攻隊の話……どれも笑いながら話す才賀も、だいぶおかしくなっているようだが。

それにしても、先週の胎盤食に引き続き、まさかの人肉食トークとは! お昼時だというのに……。そうじゃなくても人肉食なんてタブー中のタブーだ! ……と、どうしても思ってしまうが、こうして平気で放送できている。

おそらく若手脚本家が同様の話を書いてきたとしたら、どこかでストップがかかりボツになるのだろうが、そんなのは単なる自主規制。今回の放送を受けて、スポンサーがブチ切れたという話も、苦情が殺到したという話も聞かない。

必要なエピソードであるとともに、「勝手にタブーを作るな」という倉本聰の叫びも聞こえてきそうだ。


……それにしても、「それ(人肉)がなんともうめえんだとよ!」なんて、味覚まで強調しなくてもよかったとは思うが。

公一兄ちゃんの恋はいつもつらい


週の後半は、公一兄ちゃん(佐藤祐基)のロマンスが描かれた。
そのお相手は、東京から疎開してきた未亡人・松岡夫人(横山めぐみ)。横山めぐみがまた、戦時中だっていうのにやたらと色っぽいのだ。

倉本聰作品でいえば「北の国から」での純くんの恋人・れいちゃん役。そして昼ドラ的には「真珠夫人」の瑠璃子役としてお馴染み。さすが東京から来た女! といったフェロモンむんむんな雰囲気で、そりゃあ公一兄ちゃんも虜になってしまうってもんだ。

しかし、昔の恋人を村の権力者の息子に横取りされた挙句、恋人は肺病になり、ひどい扱いを受けた末に死んでしまった……という悲しい思い出を持つ公一兄ちゃん、今回の恋も一筋縄ではいかない。

松岡夫人の息子・清が山道に迷って日本軍の秘密施設に迷い込んでしまったり、松岡家にクリスチャンだとバレて取り調べを受けたり、清が疎開してきた子どもたちにいじめられたり……。

そのたびに出向いて問題解決に尽力する公一兄ちゃん、男気ある!

そんな公一兄ちゃんや、満州に渡ったニキビや青っ洟、ハゲたちも、切羽詰まった日本軍が導入した「根こそぎ徴兵」で兵隊に取られてしまうようだ。

「道」パート戦中編もそろそろ佳境だろうか? そして、どのタイミングで風間俊介から橋爪功にバトンタッチするのか!? ……もう一段階くらい間に挟まないと、明らかに違和感あると思うけど。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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