「♪火を吹いて 闇を裂き」

「ソロキャンプ」を楽しむ若い男女の姿を描くドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」(テレビ東京・金曜深夜0時52分~)。趣味を通して人間を描くドラマではなく、人間を通して趣味の楽しさを描く「趣味ドラマ」だ。


先週放送された第3話の冒頭、三浦貴大が缶詰料理をしながら口ずさんでいるのは、沢田研二のヒット曲「TOKIO」。大都会の喧騒から離れて一人でキャンプしているのに、わざわざこんな曲を歌っているのがおかしい。先週のシュガー・ベイブ「いつも通り」といい、このドラマには毎週「都会」をテーマにした曲が登場するのだろうか?

狩猟女子と食べるイノシシ料理


「誰かに気をつかうことも、合わせる必要もない。したいことをするだけ、何もしなくてもいい。一人だけのこの時間が尊い」

いつものようにソロキャンプを楽しんでいる健人(三浦貴大)。EDMを大音量で流して騒ぐ若いキャンパーたちからそそくさと離れ、静かな場所でビール&缶詰&読書。そりゃ最高に決まってる。缶詰料理をつまみながら、とろんとまどろんでしまうのも無理はない。きっと、普段は都会でストレスフルな生活を送っているのだろう。

いつも一人で山に向かう健人だが、毎回誰かと出会う。前回は風変わりな燻製おじさん(渋川清彦)と出会っていたが、今回は森で地べたに倒れ込んでいる井上あかり(北香那)を見つけて声をかける。

群馬なまりでヤンキー風の彼女はいわゆる「狩猟女子」だった。「森のくまさん」の時代の女の子は熊と出会ったら逃げるしかなかったが、現代の女子は猟銃をぶっ放すのだ。


あかりが撃ったイノシシの肉を分厚く切って、大量のニンニクと一緒にたき火で焼いて食う。うーん、ワイルド。

ニンニク農家で8人兄弟のあかりはいつも「酸欠」だから、たまに一人で山に入るのだという。酸欠なのは、東京で暮らす健人も同じ。火を吹くスーパーシティなんだから、そりゃ酸欠にもなるだろう。
「ひとりキャンプで食って寝る」狩猟女子と缶詰男子が森で出会った。うまいニンニクを存分に食う3話
イラスト/まつもとりえこ

焼き鳥缶のペペロンチーノをずぞぞっと食べる


「兄ちゃん、今日一人で来てんだべ?」
「いつも一人です。二人のときもあったけど」
「ふーん。でも、一人だったら、ニンニク臭くても遠慮なしだべ?」

「スメハラ(スメルハラスメント)」という言葉があるように、人が密集している都会で遠慮なしにニンニクを食べることは、もはやマナー違反を通り越して迷惑行為、犯罪に近い。うまいニンニクを思う存分食べられるのも、ソロキャンプのいいところだ。

それにしても健人という男、若い女子と二人で暗闇の中で肉を頬張っているのに、いい雰囲気になるとか、下心的なものもまったく感じさせない。満腹になって、缶詰料理の材料が余るのを心配しているだけである。

彼のような男だからこそ、ソロキャンプ先でいろいろな出会いがあるとも言えるし、彼女に「缶詰のような人ね」と言われて去られてしまうのだろうな、とも思う。
狩猟女子と缶詰男子。なんだかものすごく今っぽい組み合わせだ。

翌朝、さわやかにあかりと別れた健人は、彼女にもらったニンニクと焼き鳥缶でペペロンチーノを作り、ずぞぞっと頬張る。う、うまそう。パスタを前もって水に漬けておくのがポイント。こうすれば茹で時間も短くて済み、パスタもモチモチになる。

帰り道、車を運転している最中、山からパーンという猟銃の音が聞こえてきて、ふふっと微笑みを漏らす。どこかで元気にやってるな、とわかる。山では……いや、今はこれぐらいの距離感がちょうどいいのかもしれない。

今夜は夏帆が山でキノコを採って食らう。
(大山くまお)

作品情報
ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon」
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
※動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中
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