「カメラを止めるな!」でおなじみ濱津隆之の地上波連ドラ初主演作、ドラマ25「絶メシロード」(テレビ東京、深夜0時52分~)が最高すぎたのでご紹介したい。
濱津隆之「絶メシロード」はグルメドラマ×趣味ドラマ×人情ドラマで最高すぎる、絶対観て
イラスト/サイレントT(ワレワレハヒーローズ)

この枠は「サ道」「ひとりキャンプで食って寝る」という「趣味ドラマ」の快作を連続で送り出してきたが、今回もまた素晴らしい。


タイトルの「絶メシ」とは「絶滅してしまうかもしれない絶品メシ」という意味。主人の高齢化や後継者不足で閉店の危機にある個人経営の飲食店で提供される、安くてうまくて地元の人たちに愛されているごはんのこと。こういう店は実は都内にも多かったりする。群馬県高崎市の町おこしとして博報堂ケトルが仕掛けた「絶メシリスト」が原案という形でクレジットされている。

一人で自由を満喫する「車中泊」の世界


物語は、真面目で優しくて冴えなくて家族(妻と娘)からも放っておかれがちでストレス過多のどこにでもいる普通のサラリーマン・須田民生(濱津隆之)が、「絶メシ」を求めて「週末一泊二日の小さな大冒険」に出かけるというもの。

ここでカギになるのが「車中泊」だ。筆者は車を持っていないのでよく知らなかったのだが、実は車中泊はすでに趣味として確立しつつある。なんと車中泊専門誌というものも刊行されているのだ(「カーネル」というタイトルがイカす)。2話には車中泊のベテラン・鏑木(山本耕史)という男も登場する。最近の山本耕史は無双状態だと思う。

車中泊はキャンプブームとともに広がっていった経緯がある。「ゆるキャン△」にも車中泊が登場したし、マンガ「山と食欲と私」にも車中泊しながら全国をまわって登山を楽しむ女性が登場していた。何かの“手段”だった車中泊が徐々に“目的”に変わっていったのは最近のことらしい。


なんといっても車中泊の魅力は自由さだ。自分一人で、自分の好きなタイミングで、自由にどこへでも行ける。ホテルに泊まるわけでもないのでお金もあまりかからない。「絶メシロード」の主人公・須田は愛車のホンダFREED+に乗ってどこへでも行き、小さな自由を満喫する。フラットシートに横たわったときの幸せそうな顔といったらない。いそいそと車中泊のための道具を買い集めている姿も本当にうれしそう。

つまり、本作は「絶メシ」を紹介するグルメドラマであり、一人で自由を満喫する「車中泊」をフィーチャーした趣味ドラマでもあるというわけだ。

個人経営の店ならではの実話エピソード


会社にも家庭にも居場所がない須田は一人になりたくて車中泊の旅に出る。ただし、この旅には3つのルールがある。

その1:仕事が終わった金曜の夜に出発して、アイドルの追っかけで家を空けている妻と娘が帰ってくる土曜日の夕方までに戻ること。
その2:誰も誘わない・誰も巻き込まない。
その3;高速代、ガソリン代、食費も含めて、予算はお小遣いの範囲で収める。

このルール設定に須田のいい人ぶりが表れている。
妻と娘に心配をかけない。家計を圧迫しない。誰にも迷惑をかけない。これぞ今どきの理想の中年男じゃないだろうか。タイトルは出せないが、かつて週末に不倫旅に出かける小金持ち中年男のための情報誌が出版されていたことがある。しかし、モラル的にも経済的にも、もはやそんな時代は過ぎ去ったのだ。

車中泊を楽しむ須田だが、実は旅先でもあまりうまくいかない。富士山の絶景も見られないし、お目当ての店にもたどりつかない。

なんとなく行き着いたのが、山梨県富士吉田市にある吉田うどん(正しくは「吉田のうどん」)の隠れた名店「たかちゃんうどん」だった。妙齢の女主人・礼子(安藤玉恵)が一人で切り盛りしている小さな店なのだが、うどんは絶品。礼子が店を継いだのには、ある理由があった……というのが先週放送された第1話。

エンドクレジットに「この物語はお店の取材をもとに構成されています」と出るように、お店のじんわりくるエピソードは実話に基づくもの。
地元で愛される個人経営のお店ならではのちょっとしたドラマを丁寧に拾ってつくりあげている。「絶メシロード」は「グルメドラマ」であり「趣味ドラマ」であり「人情ドラマ」でもある。

わかる人にはわかると思うが、スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の世界に近い。

脚本チームがすごい


このドラマは脚本陣がすごい。1話を担当した森ハヤシは、今年1月に再放送されて話題を呼んだ「チャンネルはそのまま!」の脚本家(全話担当)。同作は2019年日本民間放送連盟賞のテレビドラマ番組最優秀賞とテレビ部門グランプリを受賞している。

2話の脚本を担当する村上大樹は劇団「拙者ムニエル」主宰。舞台「私のホストちゃん」シリーズの脚本・演出のほか、堀内健の舞台「堀内夜あけの会」の共同脚本・演出、ラジオ「あ、安部礼司」の脚本などを務めてきた。

もう一人クレジットされているのが家城啓之。ラジオDJとしても活躍中のマンボウやしろその人(元カリカ家城)。数々の舞台の演出と厚生を務め、最近は山里亮太の舞台「山里亮太1204」も手掛けている。毎日ラジオに出ているのに、よくそんなに仕事できるな……と思ってしまう。


博報堂ケトルの仕掛けにテレビ東京が乗って才人たちがコラボレーションしてつくりあげている「絶メシロード」。放送される時間帯がまたいい。車を持っている人なら、(お酒さえ飲んでいなければ)ドラマを見てからそのまま出かけることができるのだから。今夜放送の2話は千葉県木更津市の絶品ポークソテーが登場する。
(大山くまお)

ドラマ25「絶メシロード」
出演:濱津隆之、酒井若菜、西村瑠香(青春高校3年C組)、長村航希、野間口徹、山本耕史
原案:「絶メシリスト」(博報堂ケトル)
脚本:森ハヤシ、村上大樹、家城啓之
演出:菅井祐介、古川豪、小沼雄一、原廣利
音楽:河野丈洋
主題歌:スカート「標識の影・鉄塔の影」
プロデューサー:寺原洋平、畑中翔太、田川友紀
制作:テレビ東京、テレコムスタッフ
製作著作:「絶メシロード」製作委員会
配信:ひかりTV、Paravi
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