『半沢直樹』「さあさあさあ」歌舞伎愛溢れる香川照之、派手な顔芸に顔見えずとも対抗できる柄本明 7話
イラスト/ゆいざえもん

東京中央銀行も半沢もピンチに 『半沢直樹』7話

日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第7話(8月30日放送)は、白井国土交通大臣(江口のりこ) VS 半沢直樹(堺雅人)。広い目で銀行のためを思って債権放棄を拒否するべく奮闘する半沢。なにかと金儲け主義と否定されがちなバンカーの本質と誇りを表明する場面は痛快で、視聴率は24.7%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。


堺雅人が三井住友銀行のCMに出ているから銀行のクリーンさを強調することは必定。帝国航空編を経て、そのうち航空会社のCMにも出るんじゃないかと思ってしまう。なにしろ「帝国航空とスカイホープの未来は私が守ります」だもの。

白井が手を回し、メインバンクの開発投資銀行が帝国航空への融資の打ち切りを決め、資金面に心配があっては新路線の認可はできないと言う。だが、森山(賀来賢人)が確認すると、開投銀の谷川(西田尚美)は新路線が認可されず収益が見こめないため融資できないと、双方の話は食い違っていた。

さらに、白井はテレビに出て、東京中央銀行だけが私利私欲のために債権放棄を渋っていると語る。
東京中央銀行も半沢直樹もピンチ。情報を政府に流しているのは紀本(段田安則)大和田(香川照之)か。

「私が必死に恩返しをしようとしているのに、君は頭取に屈辱の倍返しをしようとしてるんだぞ」と怒る大和田に半沢は食い下がる。

もはやギャグと言われる中にある『半沢直樹』の真骨頂は

7話の見どころはこの犬猿の仲の半沢と大和田が一致団結(?)して、何者かの指示で動いていた曾根崎(佃典彦)に口を割らせる場面。「義理立てをとるか」「一千万か」「さあさあさあ」と半沢と大和田が歌舞伎で相手につめよるときのセリフで曾根崎に詰め寄る。歌舞伎を意識していると香川自身がTwitterで明かしている。歌舞伎愛。


大和田の軸は私利私欲なので、自分の利害が半沢と一致さえすれば行動を共にしても全然平気。「コウモリ」とか「風見鶏」という言葉があるが、その調子の良さが小憎らしい。演じる香川照之は大河ドラマ『龍馬伝』といい、映画『カイジ』といい、『半沢直樹』といい、主人公とうまいことコンビネーションをとって盛り上げることに長けている。自分も目立つが、決して一人勝ちしないで、主人公にもガソリンを与えて燃やすありがたい存在。

半沢が、大和田に「お願いしますと言え」と迫られて、「お願いします」と頭を下げるのではなく、上げながら「お願いします」と言うときのものすごい形相はすばらしかった。“逆・お願いします” これは半沢の新たな技だと思う。
こういうのができるのは、やっぱり堺雅人が小劇場で身体表現を追求してきたからだと思うのだ。決して顔芸のみではない。彼は全身で表現しているのである。とはいえ、これでお願いを聞いてしまう大和田ってどうかしているけれど。

こういうところで『半沢直樹』はもはやギャグと言われるわけである。大人が顔をしかめる子供じみた悪口――たとえば、7話だと曾根崎のことは「へなちょこ」呼ばわり――してわいわい大騒ぎ。
でもそんなふざけた中に、「私にも現場の誇りがあります。その誇りをおろそかにする人間が舵取りをする国は不幸だと私は思いますがね」ときりっと語る場面もあって、そこが『半沢直樹』の真骨頂である。

香川が耳まで動かして熱演する大和田があまりにもインパクトが強いので、帝国航空編の登場人物・紀本、白井、乃原(筒井道隆)、谷川などがやや弱く見えるのだが、曾根崎演じる佃は半沢と大和田に凄まれると「一千万です」とあっさり転ぶみごとな小市民っぷり。タイミングも表情も絶妙である。

紀本の段田安則は悪い面を戯画化しないで、皮膚の内側に収め、一見、知的な紳士だが、腹に一物もった人、現実にいそうという感じを細密画のように出している。

白井役の江口は「い・ま・じゃ・な・い」にはじまって「わ・か・り・ま・す・よ・ね」、「銀・行・員」「国・交・大・臣」といちいち滝川クリステルふうな言い方でキャラを立てる。
また、合同報告会で半沢に破れたときは、整えた髪の毛をぐしゃぐしゃに振り乱し、片方の目だけ出して無念を表現した。

白井が目指していたのは、日本初の女性総理大臣になること。だが、タスクフォースに失敗した彼女の後ろ盾である蓑部幹事長(柄本明)は「君は票を集める広告塔だ。何もせず、お飾り人形として私の言う通りに従っていればいいんだ」と辞めることすら許されない。

盆栽の松をバチッバチッと剪定している蓑部の怖さ。松で顔がまったく見えない時すらあるが、それが逆に怖い。
派手な顔芸に対抗できる名優・柄本明。

『半沢直樹』「さあさあさあ」歌舞伎愛溢れる香川照之、派手な顔芸に顔見えずとも対抗できる柄本明 7話
第8話は9月6日放送。画像は番組サイトより

今後の『半沢直樹』に女性の反撃はあるか

『半沢直樹』は半沢の妻・花(上戸彩)をはじめとして、女性が男性の影に隠れていると指摘されているが、白井は「お飾り」とはっきり言われ、このドラマの女性観を全身で引き受けてしまった。唯一、谷川が、政府の天下りにしめられる開投銀の体制に苦しみながらも半沢の言葉に背中を押され毅然と決断する頼もしい姿を見せた。でも「政府に逆らうことなど許されないんです」と苦悩を語るとき、ヒステリックな言い方になってしまうのが残念といえば残念である。

花は白井のファンで、花が訝しんでいた小料理屋の女将(井川遥)とは偶然知り合い仲良くなってしまう。その女性は元バンカーで頭取(北大路欣也)の元部下だった。このまま物語に都合よい便利キャラとしてい続けるのか。それとも――。

さあさあさあさあ、今後、女性の反撃はあるのだろうか。
(木俣冬)

※次回8話のレビューを更新しましたら、ツイッターでお知らせします。お見逃しのないようぜひフォローしてくださいね

【関連記事】堺雅人(半沢)と対立する筒井道隆(乃原) 似ているようでまるで違う俳優としての道のり
【関連記事】黒崎を演じる片岡愛之助が『半沢直樹』にもたらしたエンタメ性

番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/