恋愛道の矜持を見た『東京タラレバ娘2020』ドンデン返し要員に松下洸平をキャスティングの妙
“東京タラレバ娘”が帰って来た! 画像は番組サイトより

33歳になった倫子・香・小雪を描く『東京タラレバ娘2020』

“東京タラレバ娘”が帰って来た! 2017年、日本テレビ系の水曜ドラマ枠で放送された人気ドラマは、月刊『Kiss』で連載されていた東村アキコの漫画が原作。『Kiss』は『ホタルノヒカリ』や『逃げるは恥だが役に立つ』などヒット作の宝庫である。

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『東京タラレバ娘』は2020年の東京オリンピックまでに独女を卒業したいアラサー独身女(タラレバ娘)の物語だから、2020年に帰ってきたのはぴったり。
しかも、原作では33歳設定だったが、ドラマでは30歳設定に下がり、それでは登場人物の感じる切実さが全然違ってくると放送当時物議を醸したものだが、今回は3年経過で33歳の姿が描かれるのだ。

すべてが好機……と言いたいところだが、オリンピックが延期になってしまった。逆に、締切が延びたことでタラレバ娘にとってはラッキーな状態ともいえそうだ。

さて、33歳になった3人はどうなっているかというと……。

脚本家の倫子(吉高由里子)…仕事も恋もうまくいっていない。
ネイリストの香(榮倉奈々)…1年前に結婚。
 
実家の居酒屋を手伝う小雪(大島優子)…独立してカフェをオープン予定。

3年前、30歳だった3人は、居酒屋で集っては、「あの時、あーだったら」「もっと、こーしてれば」と「タラ」「レバ」を過去に囚われ前進しなかったが、いまや、倫子をのぞいて、香と小雪は人生が充実、前進している。

前作で倫子は、誠実で仕事のパートナーとしても申し分ないテレビ局プロデューサー早坂(鈴木亮平)と別れ、倫子たちの「タラ」「レバ」を指摘するなど、毒舌だけれど影があってほっておけない金髪モデルのKEY(坂口健太郎)といい感じになったものの、KEYは海外で売れっ子になってしまった。

このまま独女街道を突っ走ることにはなるかと思ったら……仕事の資料を借りに行く図書館で知り合った図書館職員の朝倉(松下洸平)と結婚することになる。

良かった! と思ったら……結婚式でまさかの映画『卒業』体験。朝倉の元カノが出現して、朝倉は彼女と式場を後にする。
ここで良かったのは、吉高由里子のウェディングドレス姿。美しいデコルテが強調されていて輝いていた。

倫子の不運を機に、きわめて順調そうな香と小雪にまで飛び火が。一緒につるんでいると感染する危険があるから、どんなに友情が厚くても、ほどよいディスタンスを心がける必要であるという教訓を得ることができる。

妥協しない“恋”が大事なことに気づく3人

仕事もさほど順調ではなく、結婚も恥をかくような形で破断になって、すっかり落ち込んだ倫子を居酒屋で慰める香と小雪。遅くまで飲んで帰った香は、人のよさそうな高校教師の夫・平沢ゆう(渡辺大和)が急性胃炎で苦しんでいることに気づかず、姑との関係が悪くなってしまう。
小雪は小雪で、オープン前の書類に不備が見つかって、父・安男(金田明夫)に苦言を呈される。

うまくいかない時に現れるのは、元カレ。倫子の前にはKEYが再び現れ、姑とのトラブルから夫ともギクシャクした香は元カレのバンドマン・涼(平岡祐太)のことを思い出し、仕事はうまくいっても恋してない寂しさを感じた小雪はワンナイトラブ明けの朝、かつての不倫相手・妻子持ちのサラリーマン丸井(田中圭)と偶然出会う。つまり、3人とも再び、「タラ」「レバ」を考えはじめてしまうのだ。

とりわけKEYと丸井の魅力には抗えないものがある。涼も悪くはないのだが、このドラマではコメディリリーフ的な扱いなので、ここでは涙を飲んで分けておく。


KEYの問答無用なクールビューティーぷり、丸井のどこまでもスイートな癒やしっぷり。生きることに疲れたときにふらふらと依存してしまいそうになる。あのとき、この人と続いてい“れば”、もし、いま、また関係が復活し“たら”……。でもこの誘惑に負けてはいけない。女は忍耐が大事。そういう話かと思ったら……そうでもなかった。


倫子はKEYとうまくいきそうな可能性を残し、小雪は、ワンナイトではなくちゃんと恋をしたいと気づく。やっぱり、“恋”が大事なのである。それも、妥協しない恋が。

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33歳になって、オリンピックも近づいて、いろいろ限界が見えてくると、二股かけられていてもいいとか不倫でもいいとかワンナイトでもいいとか思ってしまいそうだけれど、そこを選ばない。タラレバ娘の3人は、すでにそれでは何にもならないことを3年前に学んでいる。

3年前、30歳では切実さが足りないと言われていたドラマではあるが、33歳になっていよいよ焦りが大きくなったとき、ドラマ版の3人はあたふたしない視点をもっているのである。
一瞬迷いはするが、すぐに気を取り直せる。それも3人の友情で。そういうことって案外いいと思う。

時代的にも、二股恋愛とか不倫とかカロリーが必要なことは求められていないような雰囲気がある。香の夫のものわかりの良さ、おとなしさが、2020年の理想形を象徴しているようだ。朝倉もそうだと思ったら、まさかのドンデン返し要員であったことが皮肉。この役に、今、注目の松下洸平をキャスティングしているところが良かった。

その点では、倫子の元カレ・早坂が最も高物件な気がするが、そこはちょっと危険なニオイのするKEYを主人公の相手に残しておきたいところは、恋愛道の矜持を見た思いである。視聴率は、11.2%だった(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。
(木俣冬)

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