『危険なビーナス』半信半疑でバディを組んだ妻夫木聡×吉高由里子 吉高の全てがミスリードな気もする
イラスト/ゆいざえもん

『危険なビーナス』1話

10月11日より『危険なビーナス』(TBS系)が日曜劇場の枠(日曜よる9時〜)でスタートした。社会現象を起こした『半沢直樹』の後に続くドラマである。これはプレッシャーだろうな……。


【関連記事】恋愛道の矜持を見た吉高由里子『東京タラレバ娘2020』 ドンデン返し要員に松下洸平をキャスティングの妙

ただ、今作への期待値も高い。原作は東野圭吾の小説『危険なビーナス』(講談社文庫)で、脚本を務めるのは『グランメゾン東京』(TBS系)でヒットを飛ばした黒沢勉だ。そして、主演の妻夫木聡は『オレンジデイズ』以来、16年ぶりの日曜劇場主演である。そもそも、テレビドラマに出演する彼を見ること自体が久々な気がする。

小日向文世がただの叔父さんで終わるわけがない

第1話で提示されたのは、手島伯朗(妻夫木聡)の弟で、矢神楓(吉高由里子)の夫である矢神明人(染谷将太)が失踪したという事実。そして、明人が相続権を持つ30億円の遺産をめぐる矢神家の相続争いだ。このストーリーは『犬神家の一族』を意識している? だって、矢神家と犬神家は字面も酷似しているし。
何にせよ、テーマとしてはわかりやすく、焦点はすっきり絞られていると思う。

なのに、なかなか頭がこんがらがるドラマだった。その理由は、登場人物の多さだ。相関図が凄く複雑で理解しきれない。いっそ、ワイプに相関図を表示してほしいと思っていたら、実際に本編で相関図が紹介されたほど。なのに、矢神家長女の波恵(戸田恵子)は「父が〜」「兄が〜」と名前ではなく続柄で家族を呼ぶので、観ている側は混乱する一方だった。
それもこれも、矢神家の主だった康之介(栗田芳宏)があちこちに子どもを作るからだよ……。

というわけで、1話は登場人物の紹介に重きが置かれていた印象。

●手島伯朗(妻夫木聡)
父の手島一清(R-指定)が亡くなった後、母の禎子(斉藤由貴)が矢神家長男の康治(栗原英雄)と再婚した。すると、矢神家は禎子と伯朗を「遺産目当て」と冷遇する。伯朗の現在の職業は獣医だ。この辺りから、彼を人間不信にさせた幼少期の境遇が窺えた。


なのに、美人にめっぽう弱く、婚活に余念がない、ちょいエロ男子の側面も持ち合わせており、この矛盾が面白い。ただ、うまくいかないのだ。女心がわからずに相手を苛立たせることを言ったり、女性の免疫はあまりなさそうな伯朗。いや、妻夫木聡のルックスで女性慣れしていないというのも無理があるし、彼が婚活に励んだらトントン拍子で進むに違いないが……。

また、医者の家系である矢神家に対し、スペックの低さからコンプレックスを抱いているところも凄い。世間一般では獣医だって相当な勝ち組なのに……。
つまり、矢神家の面々はそれほど秀才揃いなのだろう。

●矢神楓(吉高由里子)
伯朗の弟・明人の妻を名乗る彼女は、めちゃくちゃ怪しい。彼女が明人の妻だと証明するものは何もなく、さらに明人とはまだ入籍していないという。そういえば、伯朗への接近の仕方も強引だった。

しかも、矢神家に対し「明人は遺産全てを受け取ると言っている」と事実無根の伝言をカマしたり、わりと平気で嘘をつくところもある彼女。楓の嘘で呼び出された矢神牧雄(池内万作)が何者かによってエスカレーターから突き落とされたが、それだって楓の仕業という可能性がある。
つまり、彼女にまつわる全てが伏線に思えるし、全てがミスリードにも思えてくるのだ。何しろ、タイトルはそのものズバリ『危険なビーナス』だ。意味深だ。

でも、まだ明人と入籍していないのなら、明人の遺産の取り分に首を突っ込んでも楓に得はないはず。そう考えると、解せないことばかり……。楓が本当に明人の妻なのか否かによって、このドラマの行く末は全く変わってくる。


●矢神勇磨(ディーン・フジオカ)
ナイスキャスティング! レトロな洋館とセレブ感漂うディーンの相性は抜群である。また、伯朗をいびり倒す“嫌なヤツ”な人間性もいい感じだ。

ただ、養子という立場でなぜあんなに偉そうでいられるのかは不明だった。というか、すでに子どもがたくさんいる矢神家がなぜ養子までとったのかが謎である。

あと、ディーンをキャスティングしておいて、ただ性悪なだけの役で終わるとは思えない。のちに彼は、何か重大な働きをしてくれるキーマンになる気がする。

●兼岩憲三(小日向文世)
勇磨と同じ理由で、この男も気になる。小日向文世をキャスティングしておいて、ただの普通の叔父さんで終わるわけがない。いや、「小日向だから」という要素だけでなく、相関図で見ても彼は怪しい。1つ気になる場面があった。楓が憲三に尋ねたシーンだ。

 「そういえば、3日に明人君がこちらに電話を掛けたそうなんです。でも、そのときはお留守だったみたいですね」
憲三 「3日? だったら僕は出かけてないなあ。電話は気付かなかったけど、本当にくれたのかなあ?」

あとで伯朗は「あの日のアリバイを確認するためあんなこと聞いたんだろう、本当は電話なんか掛けてないのに」と楓を注意したが、もしかしたら実際に掛けていたのではないか? なんだかんだウソはついていなさそうな矢神家の面々と比べ、憲三は突っ込みどころがある。遺産をもらえるはずもなく、明人の失踪とは無関係そうな彼、果たしてただのいい人で終わるのか? あと、伯朗の母である禎子は本当にただの事故死だったのか? 謎は尽きない。

『危険なビーナス』半信半疑でバディを組んだ妻夫木聡×吉高由里子 吉高の全てがミスリードな気もする
第2話は10月18日放送。画像は番組サイトより

『テセウスの船』のどんでん返しがよぎった

 「最強タッグの誕生ですね」
伯朗 「あまり期待しないでくれよ。僕はそういう柄じゃない」

伯朗が楓の素性を信用しきっていないのに、半信半疑のままバディを組んだこの2人。ただ、窮地に陥った楓を伯朗は確かに救った。

「僕は楓さんが明人の妻だと信じます。彼女は僕の妹です。傷つける人間は絶対に許しません!」(伯朗)

弟の妻なのに、すでに伯朗が楓を好きになっていそうな描写は初回から垣間見えた。異性に不器用な男がこうなると猪突猛進だ。ちょっと頼りなく、だけどまっすぐな男の役柄は妻夫木の得意とするところでもある。

あと、今作は伯朗の父・一清役にR-指定を、矢神家の専属看護師役に「3時のヒロイン」の福田麻貴を起用するなど、奇をてらったキャスティングが目立つ。そして、TBSのドラマは原作があったとしても原作通りのストーリー、着地点に落ち着かないことがままある。『テセウスの船』(TBS系)は霜降り明星のせいやが黒幕役で、彼が最終回に全てをかっさらっていった展開が記憶に新しい。だから、原作既読派もドラマ版『危険なビーナス』は決して気が抜けない。
(寺西ジャジューカ)

※次回2話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。

【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan

番組情報

TBS 日曜劇場『危険なビーナス』
毎週日曜よる9:00〜9:54

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kikenna_venus/