『エール』第20週「栄冠は君に輝く」 96回〈10月26日(月) 放送 作:清水友佳子、吉田照幸、演出:倉崎憲〉

『エール』裕一と音、智彦と吟 画面の向こうの配置に見るそれぞれの夫婦の関係性
イラスト/おうか

新たな歌へ――

「長崎の鐘」で胸いっぱいになった週明けは、戦争から3年が経過。闇市に「東京ブキウギ」(笠置シズ子)がうっすらかかった。

【前話レビュー】裕一の絶望からの再生であり、日本の復興への祈りでもある「長崎の鐘」が鳴り響く

この時代、古山裕一のモデル古関裕而の曲だけでなく、たくさんの音楽が沈みがちな人々の心を上げてくれた。
戦時歌謡から戦後歌謡へ――。

1946年「リンゴの唄」(並木路子、霧島昇/作詞は「長崎の鐘」のサトウハチロー)、1947年「星の流れに」(菊地章子)、1948年「憧れのハワイ航路」(岡晴夫)……等々。美空ひばりは「リンゴの唄」をNHKの「のど自慢」で歌って注目される。

第20週は、またひとつ、新たな裕一(窪田正孝)のヒット曲が誕生する扉が開く。そして、音(二階堂ふみ)もついに愛する歌の世界に復帰のチャンスがやってくる。そんな希望いっぱいの週明け。サブタイトルはずばり、名曲「栄冠は君に輝く」。

智彦の悩み

戦時中、暗い顔をして忍耐一筋だった吟(松井玲奈)にも変化の兆しが……。

敗戦で軍人の価値がなくなった夫・智彦(奥野瑛太)はラーメン修業してラーメン屋になったものの、友人・松川(木原勝利)に誘われて貿易会社に入社。だがその友人に「同期がラーメン屋なんて恥ずかしい」と言われてふと自分の人生を考えてしまう。

なにかを求めるように闇市へ。ラーメン修業で出会った戦災孤児のケン(浅川大治)に会いに行くとぐったりしていた。どんなに元気に振る舞っていても食べ物も少ないし家もないし、病気になるのも無理はない。


ケンを病院につれていき、呼び出した吟に「友達だ」と紹介する。病院ではかすかに、ラジオから復員兵情報が流れている。「東京ブキウギ」といいラジオ放送といい、あくまでうっすらなのが上品でよい。

最初、ケンを見たとき、吟は一瞬、びっくりしたのではないだろうか。これが違うドラマだったら「隠し子です」みたいなことも考えられるパターン。たとえば大河ドラマ『麒麟がくる』で、突然、信長(染谷将太)が「わしの子じゃ」と正妻・帰蝶(川口春奈)に紹介するシーンがあった。だが、戦国時代ではないし、朝ドラだし、そんなことは起こらない。

そして、吟はケンを家に連れ帰り、食事をとらせ、あたたかい布団で休ませる。子供のいない智彦・吟夫妻はケンを養子にするなんてことも想像できる。

『エール』裕一と音、智彦と吟 画面の向こうの配置に見るそれぞれの夫婦の関係性
写真提供/NHK

吟と智彦の再生

智彦の家に馬の掛け軸がかかっているところに、智彦が軍で馬の仕事(陸軍馬政局)をしていたことと、吟の家も馬具を軍におろす仕事をしていたことを思い出させる。ついでに松木の会社にも大きな馬の像が置いてあった。馬政局の同期なのだろう。

お酒を酌み交わしながら語り合う吟と智彦。
「おまえも飲むか」と聞かれ、「あら、珍しい」と反応する吟の口調がお酒のCMのような色っぽさ。そしてその飲みっぷりで「いける口だったのか」と智彦を驚かせる。

貿易会社かラーメン屋か悩む智彦に、「あなたの誇りは軍人である誇りじゃない。人のために命を燃やせるのがあなたの誇り。そう信じて私はあなたについてきました」と励ます吟。

それまでずっと吟は智彦から何歩も下がって、自己主張しないで来た。が、ここでついに吟と智彦が対等になる。『エール』における吟と智彦の2ショットは、ちゃぶ台を真ん中にはさみ、左右に位置しているのが定番で、そのときのふたりのバランスが天秤のように智彦のほうが重く見えたのが、今回ついに、同じ重量に見える。

それと比べて、裕一と音の2ショットはバラエティーに富んでいて、しかも間になにかがなく、常にくっついている。ふたりの自由さと強い絆が感じられるのだ。

繰り返すモチーフ

こうして、智彦はラーメン屋に戻る。智彦、頭下げてばっかりで3連発。胸張って堂々としていた元軍人が妻、同期、ラーメン職人に頭を下げて、そしてまた立ち上がっていく。
新しく顔をあげた顔は生まれ変わったように清々しい。

師匠・天野(山中崇)は店舗を出すことになって、屋台を智彦に譲る。これは、鉄男(中村蒼)がおでん屋を譲られたのと同じパターンである。裕一が誰かを応援するために曲を作ることを自覚したのと、智彦が「人のために命を燃やす」ことを使命と認識し、苦悩から脱出することも同じである。それはけしてワンパターンなのではなく、歌の2番、3番に同じ歌詞が出てくるようなものと捉えるとわかりやすい。笑いの「天丼」(繰り返し)と同じく、大事なことは何度も繰り返すものなのだ。

晴れて智彦が任された屋台に裕一、音、華(古川琴音)が食べに来て、いろいろギスギスしていた吟と音の関係もすっかり家族ぐるみでいい感じに。裕一、華、音と智彦、ケン、吟と幸福の3対3。

禍福は糾える縄の如し。いろんなことがいろんな人が絡み合いながら、ときに喜び、ときに哀しみ、と様々な模様を作って伸びていく。

裕一は「今の僕がいるのも縁のおかげ」としみじみ思う。

インパールで一緒だった朝一新聞社の大倉(片桐仁)が訪ねて来て、裕一を新たな世界――「栄冠は君に輝く」へと導いていく。
そして、最近とんとご無沙汰だった久志(山崎育三郎)の顔も――。
(木俣冬)

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『エール』裕一と音、智彦と吟 画面の向こうの配置に見るそれぞれの夫婦の関係性
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和

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