みなさんは「ものすごい愛」さんという、ものすごい名前のエッセイストをご存知でしょうか。
「こんな最高の生活ってアリ!?」と叫んでしまうほど前向きで仲良しな夫婦の日常がTwitterで話題になり、複数のメディアでコラムや恋愛相談を執筆。
夫婦の話を中心に、ものすごい愛さんの友達や家族、それ以外のたくさんの大切な誰かとの、ゲラゲラ笑ってしまうほど面白いのにどこか心があたたかくなるエピソードが27本収録されています。
そして、ものすごい愛さんといえば……
Twitterなどで見せる、昨今の暗い状況を吹き飛ばすかのような気持ち良~いまっすぐな性格……!
ご自身のプロフィールにも「心身共にド健康で毎日明るく楽しく暮らしている」と書かれているほど、たいへん健やかでおおらかな方でおられます。
つつましく謙遜し、思ったことがあっても包み隠すのが美徳とされがちな世の中。しかしこの険しい時代を生き抜いていくには、このままだとちょっとだけ息苦しくないですか? もしかして今の私たちが求めているのは、ものすごい愛さんの健やかさなのでは……!?
というわけで今回はものすごい愛さんに、この険しい時代を生きやすくなるヒントをもらいに行きました!
夫に「そりゃあ健やかに育つよ!」と納得された家庭環境
ーーもともと、ものすごい愛さんは自分の気持ちにまっすぐでおおらかな方だなぁという印象を強く持っていました。そんな性格になったきっかけはあったのでしょうか?
本当はこんなふうになる予定じゃなかったんですけどね(笑)。本にも書いたのですが、母親がなかなかパンチが効いてまして。『クソ健やかババア』なんですけど。
ーー『クソ健やかババア』……?
もともと私は「儚げで守ってあげたくなるような女性」に憧れてた時期もあったんです。でも母親が「言いたいことは言わなきゃわかんないでしょ!」「一人きりで悩んでて何かいいことあるの? 時間の無駄じゃない?!」というスタンスの人で。
母親にそう言われてから「たしかに相手に言われないと自分も手を差し伸べてあげられないな」とか「たしかに悩んでるだけじゃ解決しなかったな」という実体験を経て、「そっちの考え方のほうがいいかも」と腑に落ちていったんです。そんな体験の連続で、今の性格が作られていきましたね。
ーーなるほど、お母様からの熱烈な指導と、実体験の中で性格が形づくられたんですね。
あと私の実家って、窓が大きくて日当たりがよくて、日光がよく入る家なんですよ。
結婚前に夫がはじめて実家に来たとき、「そりゃあ健やかに育つよ!」と納得されました(笑)。
ーー日当たりか~! ポカポカした明るい部屋にいると、自然と明るい気持ちになりますよね。我が家はかなり日当たりが悪いので、まずは南向きの部屋に引っ越すところから始めたいと思います。
基本は「自分いいヤツだな」って思いながら生きてます。
ーー愛さん自身は、ご自分の性格についてどう感じていますか?
もちろん直したいなと思う細かいところはあるけど、基本は自分のことが大好きで。「自分いいヤツだな」って思いながら生きてます(笑)。
ただ最近「もっと言葉を選ばなきゃ」と思うことは増えました。例えば「結婚する・しない」みたいな、理想と現実のギャップに悩んでいる人と喋ったときに「だってあなたは結婚してるじゃん」と言われるとウッとなってしまいます。
ーーたしかに「結婚」は、人によってはセンシティブな話題ですよね。
昔の私はもっと他人の気持ちがわからなかったんですけどね……野生のゴリラだったんで。
一時期、プロフィール文を「ポジティブゴリラ」にしてたくらいで。
ーーポジティブさがゴリラ以上だったんですね。そんな中、愛さんは「結婚」や「夫婦」をテーマに文章を書かれていますが、難しさはありますか。
そうですね。「結局恵まれているだけでしょ」「結婚していても幸せじゃない人もいる」って意見が届いたりもします。今回の書籍も、テーマが「夫婦」というだけで、前書きや後書きには「結婚だけが幸せのすべてじゃない」とメッセージは添えているのですが。
ただ人によってはそれすらも「結婚しているから言えるんだ!」となるので、そこまでいくともう仕方ないのかなと。そんな解釈を生むのは私の文章力が乏しいせいもあるかも、と反省しつつ、内心「うるせー!」と思うこともあります(笑)
自己肯定感なんか低くてもいい
ーー私は自己肯定感が低すぎてたまに友達全員が自分のことを嫌いなんじゃないかと思うほどなのですが、愛さんは「自己肯定感」を高く持つために、心の中に置いている事柄などはあるんでしょうか?
前提として、自己肯定感が低くても全然いいと思うんですよね。ポジティブが偉いわけじゃないし。自分の行動を反芻して次に活かすことができるのは素晴らしいし、そうなりたいなと憧れもあります。
ただ、人間には波があるじゃないですか。ちょっとうまくいかない時期があって落ち込んだり。自己肯定感が低い人って、その「落ちてる自分」を否定しがちなんじゃないかと思っていて。
私は「そりゃあ人間だからうまくいかないことがあるの、普通じゃん?」と、落ちてる自分を認めています。
落ち込みすぎて、大泣きしながら家中のカーテン引きちぎったりしたこともありますけど(笑)そのとき「ここまで大泣きできるって、健康だな!」とか「あんなに辛いことがあったんだから、そりゃあ人生生きてたらこういう風になることもあるよな!」と思えたり。
ーーパワフルな落ち込み方だ……。でもたしかに、「落ちてる自分」を「できてる他人」と比べて辛くなっているところがあるかもしれません。落ちてる自分の状態をそのまま受け止めるって、冷静にもなれるしとてもいいですね。
あとは、前にご縁があってくるりの岸田繁さんとお会いしたんです。本人は覚えてらっしゃらないかもしれませんが、そのとき「自分のなかに神様がいる人ですね」と言っていただいて、それがすっごく嬉しくて。
ーー「自分のなかに神様がいる人」、どんな意味なんでしょう?
ふたりともベロベロだったんで正式な意味はわからないままなんですけど(笑)
でもそれってきっと、他者から影響ばかり受けるとか、あの人がこう言ったからとかじゃなくて、「自分はどう思うか、何をおかしいと感じるか」という軸をハッキリと持つことなのかなと。たまにふと思い出す言葉ですね。今でも宝物になっています。
ーーなるほど。たしかに自分の中に基準や軸があると、人と比べていちいち落ち込まずに自分の状態が認められるようになるかも。
なんか、みんな自分に厳しいですよね。「キャリアアップ」とか「自己実現」とか……何かを成し遂げて世間的に評価されている人と比べて「自分なんて」って卑下する人が多い印象です。
絶対評価でいいのになって。命にかかわるとか誰かを傷つけること以外であれば、もっと自分を甘やかしていいと思います。
ものすごい愛さんにとって「表現する」ということ
ーー愛さんの中で、文章で「表現する」ことについてはどう捉えていますか?
私はもともと作家を目指していたわけではなくて、Twitter、ブログから書籍化に至っているので、「表現すること」への覚悟は正直足りていなかったなと思っています。
だから、本当に面白いんだろうか、誰が読むんだろうかといっつも思ってますよ。「これ誰が読むんですかね!?」って担当編集さんに聞いて「愛さんそれ何万回も言ってますけど大丈夫です!」って勇気づけてもらったり(笑)
あと「これは言っちゃいけない」とか「言うには自分の知識不足だ」とか色々考えすぎて、がんじがらめになって苦しい部分はどうしてもありますね。
ーーそうなんですね! 楽しい日常生活の話を書かれている印象なので、てっきり楽しく和やかに執筆されているのかと思っていました。そんな中で、書くことにどう向き合われているんでしょう?
私はポジティブな話をたくさん書いているんですが、最近の風潮として、夫婦や家族の話もネガティブなものが多く読まれているなと。そういう「最悪な状況をこう乗り越えた!」という体験談のほうが人の心に響くのかなとも感じていて、そういうものが書けない自分に焦ることもありました。
ただ、よく飲みに行くバー(※書籍収録のエピソード『酒場の保健室』にも出てくる素敵なバー)で出会った人に「あとから読み返したい本って、ハッピーな本だよ」と言われたことがあって。
「ネガティブな側面から深いところに迫る物語ももちろん素晴らしいし、それで救われる人もたくさんいるけど、そういう本って読むのに体力を使う。例えば10年後に考え方が変わった自分が『よし、読もう』ってなるのは、何も考えず『ハイ、楽しいです!』ってなれる本だから、このままでいいと思うよ」と言われて。
もちろんいい文章を書くために努力は続けなきゃいけないけど、今までやってたことがすべて間違っていたわけではないから。このやり方を軸に、自分をアップデートしていこう、とは思っています。
信用してる人が「大丈夫」って言ってくれたら大丈夫
ーーしかし昨今のSNSは炎上しやすいですよね・・・私自身もビクビクしながら文章を書いているところがあります。
私なんて、シャウエッセンの写真載せただけで炎上しましたよ!
ーーえっ!?
最初は「いいですよね、たまにはこういうのも!」「美味しいですよね」ってコメントが多かったんですけど、徐々に「仕事で疲れて帰ってきた旦那にこんなの出すのか」とか、「ろくに料理も作れないのか」「こんな嫁やだ」みたいなのが来て腹立ったんで、アンサーブログ書きました。
ーー武闘派のやり方……!
怒りのパワーがすごいのでめちゃくちゃ早く書けました(笑)。でもやり返すとまたやり返されて、みたいになっちゃうので気にしないのが一番ですよね。
私は自分の表現したものに対して、身近な信用している人の意見だけを聞くようにしてます。信用してる人に「いいよ」とか「ここはちょっとダメ」とか、ちゃんと忖度なしで言ってもらう。
インターネットの反応を受けて自分の表現を顧ることはある程度必要だとは思いますけど、「信用してる人が大丈夫って言ってくれたら大丈夫!」と思ってます。
ーーなるほど! どうしてもネットの反応に縛られがちだけど、自分のことを知る身近な人の感覚も、改めて大切にしていきたいですね。
いつでもポジティブなわけじゃないから
ーーご自身のお名前が「ものすごい愛」という大変インパクトのある名前で、さらに今回の書籍にも色んな種類の愛情が描かれていますが、愛さんにとって「愛すること、愛されること」ってどんなことだと思いますか?
「愛とは……」みたいな、たいそうなことは言えないんですが(笑)。人って、自分の中ではちゃんとしてるつもりでも、それが崩れる瞬間があるじゃないですか。
たとえば私は基本的にポジティブな人間だけど、いつでもポジティブなわけじゃない。
ーーたしかに愛さんには「THE ポジティブ」という印象を持ってしまいがちですが、そうと決めつけずにいろんな面を受け入れてくれる関係って深いですね。恋人や夫婦だけじゃなく、友達でもそういう接し方をしてくれる人は信頼できます。
本当に。自分の過去を思い返すと、よく私と友達でいてくれるなと思うときがあります。
ーーそんなに……?
過去の言動を思い出して「ウワァーッ!」ってフラッシュバックする瞬間、ありますよ(笑)
でも向こうからしたら別にたいしたことじゃない。そういう人だって認識したうえで付き合ってくれてるんだろうなと。なので友達には足を向けて寝られません(笑) 。
「波があるもんね、今そういう時期だね、そういうときあるよね」と声をかけてくれると、やっぱり愛情を感じますね。自分もそうありたいと思っています。
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ものすごい愛さんとお話しして感じたのは、自分がどうしたら心地よいかを知っている方だな、といういこと。
いい自分もダメな自分もそのまま受け止めて「今わたし、こういう状態だな」と認めることを、とても自然にされている方でした。
なかでも響いたのは「みんな自分に厳しすぎる。もっと自分を甘やかしていいよ」という言葉。
何かを目指していつも頑張っている私たち。たまには自分を褒めてあげようかな、と、お話したあと少しだけ自分に優しくなれました。
■しりひとみ
会社員ライター。学園イチのモテ男に「おもしれー女」と言われることを目標に、文章を書いております。
note:https://note.com/sirisiri
Twitter:@sirisiri_hit
書誌情報
『今日もふたり、スキップで』
ものすごい愛 著
1400円+税
大和書房