『おちょやん』第7週「好きになれてよかった」
第33回〈1月20日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

千代、一平と再会する
「ほな今日も行きまっせ ワンのツーのほいさっさ〜!」【前話レビュー】井川遥の再登場にファーストサマーウイカ、森準人などの新キャラでにぎやかに
32回の樋口監督(上杉祥三)のセリフをいただいた黒衣(桂吉弥)の掛け声で軽快にはじまる千代(杉咲花)の恋のターン。
「恋人になってくれはらへんやろか」
千代は、恋する者の演技を体験から学ぼうと、助監督の小暮(若葉竜也)に恋人役を頼む。が、間違えて「恋人になって」と言ってしまった。
その誤解はすぐに解け、“仮の恋人”として、活動写真を一緒に観ようと誘われた千代。
真理(吉川愛)を筆頭にカフェー・キネマのみんなは、千代の恋人大作戦に協力的。いろいろ着物や服を貸してくれる。階段を使っての千代のファッションショーは眼福だった。
選りすぐりのワンピースを着てモダンな髪型にしつらえた千代は緊張しながら撮影所へ――。きれいにウエーブされた髪型を確認しながら小暮を待っていると、一平(成田凌)がひょこっと現れる。
からかう一平の一枚上手感と、初心(うぶ)過ぎて真面目に受け答えする千代。クールにからかう一平と、わあわあ騒ぐ千代。息が合っている。
千代の小暮に対する態度と、一平に対する態度はまるで違う。子どもに返ったようだし、素直。その理由を千代はまだわからない。

一平も、クールに見せてそのからかいの裏側に、おそらく、千代が無事だった安堵、女優になってきれいに着飾って、恋人(役)になってと二枚目の助監督にお願いしていることへの軽い嫉妬みたいなものが渦巻いているに違いない。八重歯を見せる成田凌のキラースマイルはいろいろなことを想像させる装置である。
でも、小暮が好きになってしまう千代
一平とわいわい騒いでいると小暮がやって来る。それを知ってわざと一平は千代に小暮への気持ちを語らせる。ソフトなS行為。一平には「ひとつ屋根の下に暮らしていた」とマウント。小暮は淡々としているが、楽しい三角関係。
千代は小暮と活動写真に行くが、上映時間に間に合わず、食事だけして帰る。その間、徐々に、小暮が好きになってしまう千代。小暮は小暮で、現場が大変で疲れた気持ちを千代とおしゃべりすることで救ってもらっていたという。なんだかいい雰囲気。
ちゃらちゃらして素直じゃない一平と、真面目で親切な小暮。小暮を好きになればハッピーなのに、一平が気になってしまう。
なぜ、恋愛ものがひとの心を揺さぶるのか
仕事の奥深さを探求する物語もすばらしい。戦争とはなにか、人間の平和や幸福とはなにかというような歴史や社会について考える物語もすばらしい。ただ、これらは、生まれ育った環境によって、考え方や知識の分量が大きく違ってしまうので、理解や共感できる人が限られてしまう。そうならないように、できるだけたくさんの人に支持されるように書こうとすると、広く浅くなって、どっちつかずになってしまう。そんなとき、恋愛感情は家族愛と並び、最も誰もが味わったことのある感情なのだ。誰かを好きになる経験、それが実った喜び、破れたときの哀しみなどは、大なり小なり感じたことがあるので、わからないという感じはしない。
仕事で疲れた心を救ってもらうこと、救ってもらったと言われて自分の存在価値を実感する喜び、そういうことから人間の生きるという行為ははじまっていく。全編恋愛だと興味ない人もいると思うが、ほどよく描かれたこういう、小動物や猫を愛でるような柔らかであたたかな感情は求心力になる。
所長(六角精児)の下ネタも、現代だったらハラスメントだが、実のところ下ネタも人類共通の笑いポイントであるし、人間の根源的なものでもあるといえなくもない。やりすぎない程度にほどよく散りばめることが作家の才覚になる。
千代の心の闇
一平に、岡安のみんなはどうしている? と千代が聞くと、「あほやなあ。役者なんかになるもんやないのになあ」と言っていたと嘯く一平。そのときの笑いが小悪魔的。それが気になって悪夢を見てしまう千代。モノクロ映画のなかで、みんなが「あほやなあ」と笑う。最後に出てきたのは父のテルヲ(トータス松本)で……。元気で楽しくやっているようで、このまま女優になれるか心配だし、父の魔の手から逃げているという不安は残っているのだろう。
俳優はよく、セリフを忘れる夢を見るという。心配ごとが夢に出るもの。千代が初めての恋をしようとしたときに、一平が現れて「幻か」と思ったり、夢のなかで一緒に映画『金色夜叉』を観ていたりする描写も、千代の潜在意識の現れのように見える。父を睨んだあと、千代ちゃん千代ちゃんと声がしてにっこり笑うカットになってから目が覚める流れは、夢のとりとめなさがよく出ていた。
俺は舞台役者だという矜持のある一平と、活動写真は趣味ではなく夢だという矜持のある小暮の対比もおもしろい。舞台 VS 映画。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami