
※本文にはネタバレがあります
母娘関係の秘密に迫る『ウチカレ』第5話
『徹子の部屋』のパロディでスタートした『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)第5話。【前回レビュー】『ウチカレ』登場人物全員のなかにあるピュアな部分を担う岡田健史
空役の浜辺美波が徹子ふうないでたちとしゃべり方で、漱石役の川上洋平とトークを繰り広げるところから始まった。浜辺美波のコメディエンヌのポテンシャルと、川上洋平はミュージシャンであることを紹介しようという心遣いか。
そんなコミカルな始まりながら、水無瀬碧(菅野美穂)と空(浜辺美波)の母娘関係に秘密があることが匂わされ、ドラマは動く。
その間、碧の恋も空の恋にも進展が。碧は、担当編集・漱石(川上洋平)といい感じになって、空は憧れの渉先生(東啓介)とつけ鼻毛なしでデートをすることになる。
カップ麺ができるまでの2分47秒の間に心と唇を近づけた碧と漱石。でも漱石は編集担当なので敬語を使うと、碧が「距離とられた気がする」と拗ねる。女心の現れに、見ているほうはちょっとくすぐったくなってしまった。
その前に、初代担当の小西(有田哲平)が老舗和菓子を持ってやってくると、キス(未遂)のお詫びかと勘違いして、小西が状況をなんとなく把握して、思わせぶりな態度をとるところなども合わせて妙な生々しさがあって、老舗和菓子たつやのデザインが可愛いなあとそっちに気分を逸したくなってしまった。
『ウチカレ』はありえなそうな恋物語の数々ながら、なぜか、ひとつひとつ生々しいのである。俊一郎(中村雅俊)と漱石の恋人サリーこと伊藤沙織(福原遥)の関係も、ありえないようで、なんかドキドキする。
サリーがあんなに執着していた漱石からさくっと俊一郎に切り替えて、LINEであっさり別れを告げるところなども、妙に刺さってくる。決して、置きにいかず、その瞬間、本気で書いているのだろうなあと思う。
親子最強
空はサリーと恋バナをし、自分の知らない世界を知っていく。恋のこと、母との関係のこと。
空はなんだかんだで幸せと思う。母親がすこしへんなキャラではあるが、なんでも話せるし、経済的にも満たしてもらっている。
サリーが歌ったのは中島みゆきの「横恋慕」(82年)。夜更けに電話して、ほかの女性の横で寝ている男を起こしてもらって別れを告げるという、思わせぶりかつ自分本位なねちっこい歌である。
男女に別れはあるが、親子は別れられない。空は「親子最強だな」と噛みしめるのは、その後のふたりの関係に何かがあるからなのだ。
碧の書いた小説『アンビリカルコード』の意味が「へその緒」であることを、光(岡田健史)から教わる空。碧は、恋愛小説ではなく、母と娘の小説を書こうと思い立つ。
中島みゆきの「横恋慕」のように、電話したら、ほかの人が出るというのは、揉める恋愛場面の定番。空が渉先生とデートしているとき、光が電話してくる。
最初、空は普通に出るが、2回目は空が電話をする。3度目はまた光が電話をかけて渉先生が出る。空がレストランでディナーを食べようとしたときに腹痛を訴え、急遽、渉の治療院で手当を受けていたからだ。好きな男性から腹痛の手技を受けるなんてドキドキのシチュエーションである。
空に対して、なんでもないふうに振る舞う光は、空の恋の進展を知るたび、微妙な表情になっていく。明らかに、本命のようなタイプの岡田健史が、恋の2番手のようになって、もどかしい気持ちを味わっている。
彼がもやもやすればするほど、彼の魅力は高まっていく。これぞ2番手の法則。さすがラブストーリーの覇者、恋愛ものの機微をわかっていらっしゃる。碧がゴンチャン(沢村一樹)と話していた「鴨鍋を食べて心中」は渡辺淳一先生の大ヒット不倫もの『失楽園』である。
思い出に今を積み重ねながら生きていく人たち
ちょいちょい、なつかしものを入れてくる『ウチカレ』。第5話では、中島みゆきが歌われるのみならず、大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」(84年)がラジオでかかる。恋人に出ていかれて途方に暮れる歌は、サリーに出ていかれて途方に暮れる漱石の想いそのもの。
(C)日本テレビ
2話のジャニス・イアンや3話のボブ・ディランなど登場人物の思い出を描きつつ、思い出に埋没していくだけの物語ではなく、そこに今を積み重ねながら生きていく人たちが描かれている。毎回、良いときに主題歌が登場人物の思いを代弁するのではなくて、その人固有の思いと音楽の関わりがあることは豊かなことである。
空と碧の血液型問題(本を読まないと言うが、オタクの空だったらこの手のことは漫画などで知ってそう)とか漱石の交通事故で次回に引っぱる構成とか、寝るときもメイクばっちりの母娘とか、ツッコミどころも多いけれど、彼らから瞬間発される、生きる切なさはホンモノだなあと思う。昔の土地に、新しい建物が建って、風景が塗り替わりながらも、そこから思い出の曲が漏れ出してくるように。
空と光の「喜びの舞」も微笑ましかった。
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●第6話あらすじ
沙織(福原遥)から突然の別れを告げられ車を飛ばした漱石(川上洋平)は、熱にうなされる中、あわや事故の大ピンチに! 電話で異変に気付いた碧(菅野美穂)は病院へ駆けつける。碧は漱石に“母と娘”を描く新作小説『真夏の空は、夢』の成功を誓い、執筆に没頭する……。
そんな中、空(浜辺美波)は渉(東啓介)との順調な交際に浮かれる一方で、将来親離れすることにセンチメンタルな気持ちを抱いていた。
そして、光(岡田健史)は空への切ない想いを隠しながらも、碧と空の血液型が親子ではありえない組み合わせであることが気にかかり、さりげなくおだやで探りを入れる。しかし、何かを察した俊一郎(中村雅俊)と酒を交わすことに……。酒が入ったことで、それまで隠していた光の恋心が爆発する!
そんな中、空もまた、自分と碧の血液型に疑問を持ち始める。空の行動に気づいた碧は、本当は血が繋がっていないことが空に知られたら「みんな終わりだ」と、パニックに! そんな碧をゴンちゃん(沢村一樹)は優しく受け止めるが……。
その頃、病院で検査結果を知った空は、母と自分が“他人”であるという証拠を突きつけられていた……。ショックで家に帰れなくなる中、空が助けを求めたのは、いつもそばにいた光だった。水無瀬家の母娘の絆に入った傷は、やがて周囲を巻き込んでいく……!
番組情報
日本テレビ系『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜
出演:菅野美穂 浜辺美波
岡田健史 福原遥 東啓介
中村雅俊 沢村一樹
有田哲平 川上洋平
脚本:北川悦吏子
音楽:得田真裕
演出:南雲聖一 内田秀実
製作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami