『おかえりモネ』第16週「若き者たち」

第77回〈8月31日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第77回 百音はなぜ銭湯に住んでいるのか、久しぶりに語らう6人を見てわかった気がする
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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「りょーちん、このまま帰っちゃダメだよ」

百音(清原果耶)亮(永瀬廉)を汐見湯に連れて帰って来た。そこへ三生(前田航基)悠人(高田彪我)が高速バスで駆けつける。スマホ越しではなく久しぶりにリアルに出会えた亀島の同級生たちだったが、百音は菅波(坂口健太郎)との約束をすっかり忘れていたことを思い出す。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第77回掲載中)

バスを待つ喫茶店は海の底のよう

第76回でメニューを見ている百音が何を頼むか――で「つづく」になった。第77回で百音が注文したのは紅茶だった。亮はお腹がすいたと言いながらオムライスを追加で頼まない。慎ましいふたり。

亮が時間を潰していた深夜営業の喫茶店は古く、昭和の喫茶店という雰囲気。寝ると店員に起こされるが、寝なければいつまでもいることはできる。訳ありで喫茶店にずっといる客たちと連帯感が芽生えると言う亮。かすかな連帯感のみで互いの内面に踏み込まない人たちに囲まれていることが「楽でいい」と感じている。

地元にいると彼がどういう境遇なのか多くの人が知っているし、彼の心境を気にかけ、腫れ物を扱うようにされていることも負担であろう。それでも地元で生きることを決めたから、音を上げるのは「だせえ」と考え、このまま地元に戻ろうとする亮の強がりを百音は引き止める。

このまま諦めて帰ったら、気持ちが鬱屈していくばかりだと感じたのだろう。期待に応えるのは「だんだん苦しくなる」、そう実感している亮をなんとかしてあげたいと百音は思う。

ステンドグラスのような窓の光は朝なのかよくわからない。
まるで海の底にいるような、海の底はリアルに考えたら真っ暗だけれど、人魚姫とか浦島太郎とかの世界だとこんな感じのカラフルな作りもののような色味の印象である。この喫茶店にいる人たちは朝を待つ人たちで、まだ朝は来ていない。深い海の底にいるような時間を過ごしている。

いまの亮はそんな感じなのではないか。劇伴のピアノ曲はちょっと「月の光」を思わせるようなピアノ曲で、光がなかなか届かない海底感を募らせた。

『おかえりモネ』第77回 百音はなぜ銭湯に住んでいるのか、久しぶりに語らう6人を見てわかった気がする
写真提供/NHK

一方、気仙沼では朝の光が……

美波(坂井真紀)の死亡届を出すことを躊躇するあまり再び酒に溺れる新次(浅野忠信)に寄り添う耕治(内野聖陽)亜哉子(鈴木京香)。新次の気持ちはわかるが、亮のことも考えてやってほしいと耕治は言う。ホントそのとおり。新次が立ち直れないから亮に多大な負荷がかかっている。

親の責任を感じる3人。亜哉子は「親の私達が本気で明るい顔になってからじゃないとたぶんダメなのよ」と言う。亜哉子のいつも張り付いたような過剰な笑顔は彼女なりに頑張っていることがわかる。ありもので亜哉子は食事を作り、3人は美波の思い出話をしながら食べる。
亡くなった人との楽しかった思い出を語り合う姿はまるでお通夜の席のようにも見える。このとき仮設住宅には白い朝の光が差し込んでいる。

「そういうときにこっちのことを忘れてしまう人のほうが僕は信用できます」

百音と亮の関係に含みをもたせて菅波に伝えた未知(蒔田彩珠)。そのまま地元に帰ろうとしたところに百音が亮を連れて帰って来た。それでも帰ろうとすると、今度は三生と悠人がやって来て帰るに帰れない。

未知は恵まれている。不器用でつい癇癪を起こして引っ込みもつかなくなってしまいがちだが、周囲が彼女をそれ以上暴走して取り返しがつかなくなる前にやさしく引き止めてくれる。

百音は未知に、三生たちと一緒に帰り、仙台から気仙沼まで亮に付き添ってとミッションを与える。未知が孤独にならず、かつ亮が孤独にならない最良の方法である。言い方悪いが、百音は亮に友情は持っているが、それ以上コミットする気はないのであろう。未知の思いを優先しているのと、当人、目下大事なのは菅波なのである。

約束をすっかり忘れていたが慌てて電話すると、「そういうときにこっちのことを忘れてしまう人のほうが僕は信用できます」となんてできたお言葉。「こっちのことを忘れてしまう人」というニュアンスに若干嫌味もこもっているような気もしないでないのが菅波節。
でも百音は胸いっぱいの表情。

菅波は百音が気づかずスルーしていた仕事をフォローしていた。百音も本来休みのはずの日曜日の午前中から稼働させられていて大変である。



亮は昔、UFOに改造されていた!?

百音、亮、明日美、三生、悠人、未知が、お土産のずんだ餅を食べながら思い出話を語り合う。こういうとき、菜津(マイコ)が朝ごはんを振る舞ったりしないのがドライであるが、それはまあいい。小さなずんだ餅一個ずつのつつましさ。

子供のときUFOを見たとか見ないとか。亮は改造されたとか。この話は牧歌的なドラマで、急にUFO話になった『北の国から』のオマージュだろうか。原田美枝子演じる先生が生徒たちにUFOがいるという話をする、あの名(迷?)エピソードである。「改造」は石ノ森章太郎先生の『仮面ライダー』とのリンクであろうか。

『おかえりモネ』第77回 百音はなぜ銭湯に住んでいるのか、久しぶりに語らう6人を見てわかった気がする
写真提供/NHK

そんな愉快な話のあと、地元に残ることと残らないことに対する彼らの真剣な思いが語られる。

亀島の同級生たちがシェアハウスに集まって語らっている姿を見て、百音が東京で暮らす場が銭湯を改造したシェアハウスであることの意味がわかるような気がしてきた。
“水”である。銭湯には水があるし、お風呂関係の雑多な小道具や機械が百音の家の水産業の仕事場の風景にかすかに似ている。

築地に近くて海の匂いもするだろう。独特な湿気もあって、百音にはそれが落ち着くのではないだろうか。築地市場や寿司屋が舞台だと海とつながり過ぎていてベタだが、銭湯は哲学的な感じもする良い場所である。惜しむらくは近隣の人たちがもっと出入りしていると良かった。

第76回で水の音に龍己(藤竜也)と未知が反応していたことを指摘した。第77回では菅波が百音を誘いに来て、事情を聞いてしょんぼり帰るとき水の流れる音がしている。この水の気配によって、東京といえども生命の気配とともに人間が生きていることが感じられるのだ。
(木俣冬)

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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