『おかえりモネ』第21週「胸に秘めた思い」
第104回〈10月7日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:田中諭、舩田遼介〉

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けあらしを見た後、仕事場に入った百音(清原果耶)は菅波(坂口健太郎)と電話する。「痛みはきっと何年経っても消えなくて……」と言う百音に、「まずはここが痛いって言わせてあげるだけでいいいんじゃないですか」と菅沼。
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このふたりのやりとりを見ていると、未知(蒔田彩珠)が百音をうらやましがる気持ちもわからないではない。
菅波が医者という設定であることが効いている。医療ドラマの視聴率が概ねいいこともなんかわかる。医者は他者の痛みを聞いてどうしたらいいか考えてくれる人だから。他者には言えない痛みや弱さを医者になら聞いてもらえる。その安心感がドラマに安心を与えているのではないだろうか。「頑張れ」は使い方が難しい言葉だが、菅波が熟慮の末言った「頑張れ」は百音に響くのである。
その朝のラジオ放送の百音は「声を聞かせてください」と皆に呼びかける。この時の百音の声は菅波の力を借りて心が澄み安定し、他者への慈しみの情が深くなったように聞こえる。愛される者は愛が増幅して他者にも愛を注げる。

伝えたいことボックスを設置する百音の元にあかり(伊東蒼)がまた来た。彼女は亜哉子の生徒だった。
震災後、6年地元を離れて北海道に引っ越したあかり。戻るのがいやだったが両親は喜んでいると複雑な心持ちを語る。百音が「人の役に立ちたい」と言ったことに「きれいごと」と反論した理由はここにあったようだ。つまりまっすぐきっぱりと言い切れないことがあること。地元が嫌いじゃないけど戻ることに躊躇もある。きれいに割り切れないものを持て余すからあかりはどこか塞いだ顔になっていたのだろう。
でもやっと亜哉子の前で複雑な心境を語ることができて楽になった。あかりは百音の前だとぼそぼそしているが亜哉子の前だと比較的明瞭だ。
口角をしっかり上げて明るく笑うのは亜哉子だけ。ところがあかりと再会を喜ぶときはいつもどおり曇りない明るさで接していた亜哉子が、あかりが帰るとふいにしんみりして、これまで黙っていたことを百音に語りだす。亜哉子が堰を切ったように話しはじめたのは、百音の「声を聞かせてください」に反応したのだろうか。

震災が起こって学校で子どもたちと過ごしていたとき、家族のことがよぎって学校を離れそうになったとこれまで言えずに秘めていたことを告白し、涙する。基本的にはいつもの澄んだ声ながら、時々「必死だった」「置いていこうとしてた」などの言葉に強く力を込め濁りのある音にしながら滔々と語る亜哉子。その言葉の濁りが彼女の心の痛みのようである。
教師の仕事より妻や母の立場を選択したとしたら、それはかなり重い選択であったことだろう。亜哉子はあの日、どうしたのか。詳しくは105回を待ちたい。
かなりヘヴィなところで「つづく」になった。昨日も夜明けのまだ暗いところで「つづく」になった。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami