朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4週「1943-1945」
第19回〈11月25日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第20回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています
『マッチ売りの少女』みたいだった
10月、金太(甲本雅裕)がようやく立ち直りを見せ、安子(上白石萌音)に「たちばな」のおはぎの作り方を伝授する。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜19回掲載中)
子どもの頃、安子は菓子職人に憧れたものの、女性は工場に入れてもらうことができずに涙を飲んだ。それがいま、父におはぎの作り方を教えてもらえて「嬉しいなあ」としみじみする。
いいことなんてひとつもない戦争ではあるが、こうして男性社会の象徴である工場を破壊し、安子がおはぎ作りを学べる平たい世界ができたのである(もちろんその後、まだまだ格差は社会で続いていくのだが)。
「おいしゅうなれ。おいしゅうなれ。おいしゅうなれ」
杵太郎(大和田伸也)から教わった魔法の呪文を唱える金太を傍らで見つめ、小豆の声を聞き、「あ!」と適切なタイミングで気合を入れて鍋をあげる。『カムカム〜』は金太が安子におはぎ作りを教えるように、物語を作ることはこういうことだと教えてくれるようである。金太と少年のエピソードが寓話のようだった。
こんな時こそお菓子が必要だと菓子(おいもを使ったおはぎみたいなもの)を作って売り出しはじめた金太と安子。ここで、安子が雉真の仕事をしながら、そして小しずの地元で手伝う代わりに小豆を分けてもらっているというナレーションが入り、安子がいかに働いているかわかる。
食糧難で甘味を求める人々にお菓子は大好評。そこへ現れた少年が盗みを働く。金太は彼に菓子を一箱渡し、売ってくるように言う。「お前の才覚で売ってけえ」と少年を試す。
売上の一部が少年の儲けになるとはいえ、このご時世、子どもは菓子の売上をすべて持ち逃げしてしまうのではないか。誰もがそう思ったが……。
金太は少年に算太(濱田岳)の面影を見て賭けをした。少年が帰ってきたら算太が帰って来ると。つまり、算太を赦せなかった分、金太は少年を赦そうとしたのであろう。算太が借金していたことを怒り勘当して、出征時にも見送らなかったことを後悔していた金太。橘家の跡地に掘っ建て小屋を作った理由のひとつは算太がいつ帰ってきてもいいようにであったのだろう。
寒い晩、金太がひとり掘っ立て小屋にいると、「おっちゃん おはぎのおっちゃん」と戸を叩く音がした。扉を開けると、算太(濱田岳)が立っていた。なぜか算太は「わしの才覚でおはぎを売ってきた」と札束を見せる。落語のようにうまいしゃべりでお金持ちのご婦人からお金をせしめた経緯を金太に語って聞かせる。
算太がラジオをかけると、エンタツ・アチャコの「早慶戦」が流れてきた。
城田優のナレーションのやさしさと相まって、『マッチ売りの少女』のラストシーンのように第19回は閉じる。ナレーションの口ぶりだと、金太はひとり、小屋で夢を見ていたのだと感じられる。「おはぎのおっちゃん」という最初の子どもの声と、「わしの才覚でおはぎを売ってきた」という言葉、あの少年と算太が混ざっていることからそれは想像に難くない。
驚きと悲しさで胸を突かれるようだった。その人物の行く末を察しながら道筋を確認するように観るのではなく、ふいに思いがけないことが、まるで目の前でストンと落ちる球のように起こる。落語に詳しい藤本有紀だからこその構成の妙だ。物語は作りものなのだから、徹底的に作り込んで届ける。その矜持を感じた。
ドラマで人の死をあつかうこと
人が亡くなることは哀しい。だからこそ、物語の中で人が亡くなる時には、できるだけその人の死を良いものにしたいではないか。そうすることによって、しんどい話は身につまされて辛いから観たくないのではなく、観て、涙して、少しだけ浄化できるものであってほしい。そう、『カムカム』の涙は笑いやお菓子と少し似ている。もちろん哀しい話だから笑顔にはなれないけれど、触れた瞬間、思いがけない感情を呼び起こす。
『あさイチ』では鈴木アナがふいを付かれて涙が止まらなくなっていて、博多大吉が「いちかばちかニュースセンターに振ってみましょうかね」と動揺をしたところからゲストのIKKOが「まぼろし〜」と持ちネタで笑いに昇華した。なんてタイミングのいいゲスト。黒沢さんに継ぐヒット受け。
哀しくて泣いてしまっても、こうやって笑いに代えていく。この循環がじつに自然に行われている。こういうことができるのは、物語に一本筋が通っているからだ。良いドラマはその後の受けも面白くしてしまうのである。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami