朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第6週「1948」
第28回〈12月8日(水)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

※本文にネタバレを含みます
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安子、英語で人助けする
いまから80年前の1941年12月8日、太平洋戦争がはじまった。「このあとの『カムカムエヴリバディ』では、戦中戦後の不安や孤独、心細さがしっかり描かれています」と『おはよう日本 関東版』の高瀬アナが語っていた。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜28回掲載中)
『カムカム〜』では戦争が終わって3年経った。
安子(上白石萌音)は路上で花を売っている女性(川本美由紀)が進駐軍将校(村雨辰剛)に平謝りしているところを、英会話を使って助ける。安子の英語は外国人にちゃんと通じた。
花を売っていた女性は野山の花を摘んで売っていて、それを咎められたと思って必死に謝っていた。野の花を摘んで売って生計を立てて生き抜くしかない状況で、本来なら謝る必要はないと開き直っても良さそうだが、ついペコペコしてしまうのはアメリカと日本の力の差であろう。
このとき日本人は敗者なのでアメリカの脅威に縮こまるしかなかった。逆に、誤解で怖がらせたお詫びと大金をもらうと喜んでしまう。そこにはプライドはない。生きることで精一杯なのだ。
第28回では花売りの女性を筆頭に、アメリカに対する各々の激しい敗北感が描かれる。美都里(YOU)はるい(中野翠咲)がラジオの『カムカム英語』を聞こうとするのを止める。稔(松村北斗)を殺した国の言葉なんて聞きたくなかったのだ。
また、安子が再会したディッパーマウスブルースの定一(世良公則)は進駐軍相手に商売をしていることにコンプレックスを感じている。息子・健一(前野朋哉)は戦争に行ったまま帰ってきていない。あんなに外国の音楽が大好きだったのに、引き裂かれるような気持ちであろう。
ここでもうひとつ気になるのは、女中・雪衣(岡田結実)の言動である。留守番をさせられたるいがその理由がわからず不満を抱いていると、るいの前髪をあげて額の大きな傷を見ながら「安子さんは諦めたんだと思います」と言うのだ。女手ひとつでるいを育てることを諦めたのだと。小さな子にはとうていわかりそうにないことをわざわざ言う。しかもるいの傷を意識させるようにしながら。
そのときの雪衣はまるで魔女みたいに見えたが、そこには果てしない無力感がある。安子がるいを迎えに来て歌いながら去っていく姿を見送る表情がこれまでの嫉妬の顔ではないちょっと哀しげな微笑みだった。雪衣も何か「諦め」を抱えているのではないだろうか。
戦争に負けて、誰もが敗北して諦めている。
でも写真の稔は決して答えてくれない。この回の終わりは、『カムカム英語』の「あなたのいないクリスマス」を題材に英語のレッスンをする。「おまえがいなくちゃクリスマスもさっぱりだからな」「私達は思うこともできない。クリスマスを祝うなんて。あなたなしで。あなたのいないままで」。平川唯一(さだまさし)の声を、稔の写真を前にしたるいがぼんやり見ている姿は喪失感そのものだった。
安子の英語が通じたところでも英語のナレーションが入った。『カムカム』は童話のような雰囲気があるなと感じていたが、英語講座の、やさしい日本と英語のような雰囲気も狙いとしてはあるのかもしれない。
とはいえ、全体的には平易な描き方をしていてしんどい描写も加減しているようながら、現実の苦さがぴりりと隠し味的に入っている。野山の花を売る女性が進駐軍におびえていることだとか、アメリカへの敗北感を抱きながら、アメリカ文化を受け入れていく日本人の描写もそう。もともと音楽や英語やコーヒーには親しんでいたが、さらに苦くて甘いコーラなどの未知の食文化が浸透していく。定一は昼間からバーボンを飲んでいて、酒がないとやっていられないやるせなさを漂わせている。誰もが皆諦めの境地にいるようだ。
るいと美登里が似ている

るいの話し方と美登里の話し方が似ていた。顔も気のせいか似ている。稔にも似ているが美登里にも似ている。YOUが童顔だからだろうか。るいはまだ自分で物事を判断できないだろうから、母親がいない間に、祖母や女中に暗い話を聞かされて影響を受けてしまいそう。そう思うと子どもを育てることって大変だなと感じる。特に物心つくまでは。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami