朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第8週「1951-1962」
第36回〈12月20日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※本文にネタバレを含みます
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「わしと結婚してほしい」
勇「わしと結婚してほしい」安子「え!」
勇「進駐軍との試合に勝てたら、アメリカに勝てたら、そのときは兄さんにも認めてもらえる。これからはわしが守りてえ。おまえのことも、るいのことも」
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進駐軍との野球の試合に勝った勇(村上虹郎)は勇んで安子(上白石萌音)の腕を掴みプロポーズする。
数日過ぎても安子は返事ができずにいた。
美都里(YOU)のいない雉真家の食卓のレイアウトが変わり、美都里のいた席に勇が座っている。安子の隣は算太(濱田岳)。以前は隣同士だった安子と勇は向かい合って座り、ちょっと意識し合っている。どことなく気まずい雰囲気。
「しいたけも食べんといかんよ」と安子がるいに注意すると、るいは「嫌い」と言う。千吉(段田安則)が英語でなんていうのか聞くと、「I hate mushroom」と英語で答えるるい。カムカム英語が身についている。「I don't like〜」ではなく、すごく嫌いのようだ。
千吉はるいを賢いと褒め、目を細めている。安子と勇の微妙な空気には気づいていない。きっとこのとき千吉は、このまま勇と安子が結婚して、毎日こんなふうに楽しい食卓を囲み続けることを夢見ていたに違いない。千吉はたぶん勇とるいがいれば満足なのである。
きぬ、相変わらずの勘の良さを発揮
悩んだ安子はきぬ(小野花梨)に相談する。だいぶ大きくなったおなかをさすりながら助言するきぬ。そこにロバート(村雨辰剛)がやって来て、安子と彼の様子を見たきぬは「なるほど」とまた勘の良さを発揮する。きぬは勇の安子へのいじらしい想いを知っていながら勇に同情して加担することなく、今、目の前で起こっている安子の感情を正しく理解し、安子とロバートとの関係を応援しようとする。「自分がどげんしてえんかはっきりさせんといかんよ」と言うきぬ。シンプルに直感に従うことの良さを感じさせる場面である。
ツライぜ、勇。「好き嫌いせんで食べんといけんよ」としいたけのことを言っていた安子に、好き嫌いせんで勇と結婚してあげてと思ってしまった。
一方、算太(濱田岳)。

結婚を決めるときは仕事が軌道に乗っているときである人は少なくないと思う。お金がないから結婚できないと考える人も少なくないだろう。現代人が未婚なのは賃金が安く余分なお金を得られないからとも言われている。逆に、お金がないから支え合おうと結婚する人もいるけれど。男たるものこうあるべき、みたいな考えをもった人は妻子を食わせる責任を背負おうとするのである。
雪衣は算太の背広のズボンの裾の仕付けをしながら「貸付が通るといいですね」と言う。セリフと行動が韻を踏んでいる。安子が裾上げしないで雪衣がやっているのは、不満を漏らした雪衣が勇に叱られたからであろう。
その頃、安子は定一(世良公則)の店でロバートとお茶して、貯金をしている話をする。
「それで何をしたいんですか?」とロバートに訊かれ、英語を使って「いろんな国の人にたちばなのおはぎを食べてもらいたい」と素朴な夢を語る。「それでるいが笑ってくれたら私は幸せです」

安子のおはぎは思い出の味であり、悲しみの味であり、るいへの愛情の味であるとロバートは理解する。安子の健気な想いに心打たれたロバートは「あなたには感服です」「あなたはすばらしい女性です」と安子に花を贈る。いつもの亡き妻に供える花を買ったかに見えて、予想外の行動に、安子は驚く。
そのとき安子は「ロバート」とはじめて自然に呼び捨てになる。第35回、ロバートが花を買っているのを少し寂しそうな表情で見ていた安子。亡き妻に花を買う姿に哀愁を感じたのか、少し羨ましかったのか、気になる表情だったが、ここで花をもらって少し満たされた顔になる。

安子は稔といい、知的で優しい人が好みなのだろう。勇は優しいけれど不器用でうまく表現できない脳みそ筋肉系なのでタイプが違う。残念。
そんな勇がロバートと安子がふたりでいるところを目撃していた。
勇「誰? いまのひと誰なら?」
安子「違うんじゃ」
勇「違う」
花を隠して「違うんじゃ」とおどおどする安子。ロバートと言いそうになってローズウッドさんと言い直す。「そないなことじゃ」と誤魔化す安子に「そうか、わかった」と哀しげな勇。呆然と見送るしかない安子。悲しい場面だが、深刻ではなく、どことなく笑えるニュアンスになっていることが救いだった。
その晩、夕食に家に帰らず、ひとりやけ酒する勇。英語のラジオを「消せ!」と八つ当たり。英語――アメリカが嫌いになってしまうだろうなあ。罪深き、安子。
勇に引っ張られることなく、安子はマイペースで「この家を出てえと思いよります」と千吉に告げる。だが千吉も黙ってはいない。「るいとは暮らせんということじゃ」と言い、るいに完治が難しい怪我をさせた責任を問う。

「るいの治療費は蓄えてあります」と屈しない安子。だが千吉は何枚も上手。「おはぎの小商い」では無理だときっぱり言う。こういうときの理詰めの冷酷さはさすがの段田安則。それにしても安子、どれだけ貯金しているのだろう。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami