朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第11週「1962-1963」
第49回〈1月11日(火)放送 作:藤本有紀、演出:泉並敬眞〉

※本文にネタバレを含みます
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「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」のレコードを買う気になったるい(深津絵里)。レコード店に行って、たくさんあるレコードの中から「たしかこのへんじゃったなあ」と記憶をたどって購入。タイトルを心のなかでつぶやいたときの発音がなかなかで、さすが『カムカム英語』で勉強していただけはあった。
【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜49回掲載中)
プレイヤーも買おうと思ったら、ピンクのかわいいものは33600円で「高けえ」と怯む。そこへジョー(オダギリジョー)が通りかかり(このふたり、しょっちゅう偶然出会ってる)、レコードを「Night and Day」で聞くことを提案したようで、お店でレコードに聞き入る。
そのとき脳裏に浮かぶ映像は、母との記憶ではなく、ジョーのトランペット演奏姿であった。記憶が上書きされてしまって、ちょっと安子(上白石萌音)が不憫。とはいえ、若い娘がいつまでも過去に囚われ、青春を謳歌できないのは残念だから、ジョーに恋して楽しい時を過ごすのが一番である。
でも過去は決して消えはしない。「Night and Day」の帰り、子どもたちが野球をしていて、そのボールがるいのほうに飛んで来ると、るいはボールを投げ返し、その球威に子どもたちは「おおお!」と反応する。昔とった杵柄。子ども時代、勇(村上虹郎)とキャッチボールしていた記憶がるいの身体に残っている。英語の発音もしかり。
過去も引きずりつつ、ジョーという未来に出会っていいムードのるい。大阪流の軽妙な挨拶もできるようになって来た。
面白くない気分なのはベリー(市川実日子)。ジョーをどれだけ誘っても応えてくれず、むくれている。『ハワイの若大将』や『マタンゴ』などが上映されていた時代。でもジョーはそういうものに興味がない。ひとり残されたときの上から撮影されてポツンとしたベリーがかわいかった。
「私は興味ありません、欲しい思てません、そんな顔した女に限って、気いついたらなんもかんも手に入れてんねん」とベリーが愚痴っていると、そういう控えめな女・るいがやって来た。
「控えめの皮をかぶった強欲の塊」には負けないと闘志を燃やすベリー。だが、それは哀しいひとり相撲。るいはジョーの部屋にクリーニングを届けに行って、トランペットを吹いてみる?と誘われる。日だまりの部屋で、背後からジョーが「しっかり支えて唇に当てて」と指導。マウスピースに唇が触れた瞬間、<命短し恋せよ乙女♪>「ゴンドラの唄」が流れて……。

第47回の地蔵盆、48回のかき氷と風鈴、49回のこれとキュンシーンの連打である。
40代の俳優が十代の繊細な心を演じて、ここまで情緒を醸すのだからすごい。深津絵里とオダギリジョーはエイジレスな表現に挑んでいる。
昨今、ジェンダーレスに関する声は高まっているけれど、性差だけでなく、年齢差だって人それぞれ。現にこのふたりが透明感を失わない演技が、舞台ではなく映像でも可能であることを示している。
朝ドラで、かつてトレンディドラマや朝ドラなどのヒロインで大活躍した俳優がヒロインの母親役で登場する(例:松嶋菜々子、鈴木京香、鈴木保奈美、小泉今日子等)ことがよくあるが、母親役でなくてもヒロインだってまだできるのだということを深津絵里はみごとに立証したのである。とはいえ、大きく見積もっても、るい=二十代後半、ジョー=三十代前半くらいの、どちらも奥手なキャラ同士の恋愛という印象ではあるが……。
帰宅して、寝間着の浴衣に着替え、髪をタオルでふきながら、額の傷を鏡で見て、また心が立ち止まってしまう。幸福になりかかってもこの傷がある限り先に進めない。るいは最難関のハードルを乗り越えられるのか……。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami