今回のニュースのポイント
ソフトバンクとTOPPANホールディングスは、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)の機体に不可欠な、超軽量・高耐久の翼用膜材と独自の評価手法を共同開発しました。高度20kmの成層圏は、最大マイナス90度台の極低温や地上よりも強い短波長の紫外線、高濃度オゾンに加え、日照による約150度近い温度差が生じる極限環境です。
本文
通信インフラの競争軸が、いま劇的に変わり始めています。ソフトバンクとTOPPANホールディングス(以下、TOPPAN)が発表した成層圏通信(HAPS)向け翼用膜材の共同開発は、通信の進化が電波技術の高度化にとどまらず、機体設計や素材開発といった周辺領域へと決定的に広がっていることを示しています。AIや6Gが議論されるなか、その「土台」となるハードウェアの革新が、通信の主導権を左右する要因となりつつあります。
今回の発表の核心は、高度約20kmの成層圏という、地上とは比較にならないほど過酷な環境で長期間滞空するための「皮膚(膜材)」を開発したことにあります。成層圏は空気が薄く、気温はマイナス50度からマイナス90度台まで下がる一方、直射日光を受けると100度前後まで上昇するなど、約150度近い温度差が存在します。さらに、地上よりもはるかに強い短波長の紫外線や高濃度のオゾンが機体を容赦なく劣化させます。両社は、TOPPANが培ってきたフィルムの貼り合わせやコーティングなどの加工技術(コンバーティング技術)を駆使し、超軽量でありながらこれらすべての条件に耐えうる多層構造の膜材を作り上げました。さらに、この極限環境を地上で再現し、劣化メカニズムを事前に把握する独自の評価手法も同時に構築。2029年以降の商用サービス開始を見据え、長期滞空の妨げとなってきた機体の耐久性という課題に対し、素材技術から突破口を開いた格好です。
HAPSは、飛行機のように揚力で滞空する「HTA型」などの無人航空機を基地局として機能させるもので、衛星よりも低遅延、かつ地上基地局よりも圧倒的に広い半径約100kmのエリアをカバーできます。
ここに見えるのは、通信インフラの構造変化です。これまでの通信は「基地局」や「電波」という目に見えない技術が主役でした。しかし、HAPSや衛星通信が地上ネットワークを補完する形で組み込まれる次世代ネットワークにおいては、「通信=電波 × 機体 × 素材」という、より広範な産業の掛け合わせへと拡張しています。ソフトバンクがネットワーク運用と電波制御を担い、TOPPANが素材技術を提供する。この組み合わせは、もはや通信会社単独ではインフラを成立させられない「複合産業化」の進行を物語っています。
こうした産業構造の変化は、かつて装置と素材が一体となって進化してきた半導体産業の構図にも重なります。すでに国際標準化団体(3GPP)では、HAPSを含む非地上系ネットワーク(NTN)を5G/6Gの一部として規格化する動きが加速しており、地上・空・宇宙をシームレスにつなぐ規格づくりで主導権を握れるかどうかが、グローバルな競争の重要な争点になりつつあります。日本の強みである素材技術が、次世代通信の「標準」の中に組み込まれていく意味は極めて大きいと言えます。
今回の取り組みは、通信格差の縮小や災害対策といった社会的意義に加え、通信産業が素材産業を取り込み、インフラ全体を総合設計する方向へと進化していることを示しています。通信インフラの競争が「電波の技術」から「機体や素材を含めた総合設計」へと広がる中で、こうした複合領域での競争を制した企業が、未来のデジタル社会の主導権を握ることになるでしょう。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)











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