岨手由貴子監督と俳優の岸井ゆきの浅野忠信が17日、フランス・カンヌで開催された第79回カンヌ国際映画祭に参加し、映画『すべて真夜中の恋人たち』の公式上映およびフォトコール、囲み取材に出席した。

本作は、芥川賞作家・川上未映子による同名長編小説の初映像化。
人との関わりを避け、孤独に生きてきたフリーの校閲者・入江冬子が、ひょんなきっかけで年上の物理教師・三束と出会い、自身の感情や孤独と向き合っていく姿を描いた繊細なラブストーリーとなっている。主人公・冬子を岸井ゆきの、三束を浅野忠信が演じる。監督・脚本は『あのこは貴族』以来、約5年ぶりの長編作品となる岨手由貴子氏が務める。
○カンヌ国際映画祭でワールドプレミア

フォトコールでは、岸井がこの日のために誂えた黒のオーダーメイドスーツ、浅野がシックなスーツ姿で登場。岨手監督は背中に大胆なカットアウトを施したアルマーニのドレスをまとい、海外メディアの注目を集めた。

公式上映では、満席の観客が大きな拍手で3人を迎えた。上映中には笑いやため息が幾度も起こり、上映後には約4分間にわたるスタンディングオベーションが発生。「ブラボー!」の声が飛び交う中、涙ぐむ岸井に岨手監督が抱擁を交わす場面も見られた。

○岸井「ほっとしました」浅野「涙が止まらなかった」

上映後の囲み取材では、それぞれが手応えを語った。

岸井は「どんなふうに伝わるのかなと緊張していましたが、素直に映画を受け取ってくださっていて嬉しかったですし、とにかくほっとしました」と安堵の表情。

浅野は「自分の中でも捉えきれない役でしたが、観客の皆さんと一緒に観て、何かに辿り着けた気がしました」と語り、「オープニングから自然と涙が流れ、終わった後も感動していました」と作品への思いを明かした。

岨手監督も「三大映画祭に参加する人生になるとは思ってもみなかったので驚きましたが、ここで上映できて実感が湧きました」と喜びを語り、「観客と同じ目線で映画を観る新鮮な体験だった」と振り返った。

○海外ならではの反応にも手応え

岸井は「フランス料理店で料理名が読めないシーンで笑いが起きたのが印象的」と語り、現地ならではの反応を実感。岨手監督も「日本の試写では反応がなかった場面で笑いが起きて、安心しました」とし、観客との“対話”を感じたと述べた。

日本映画界の現状について問われると、岨手監督は「東京にいないと映画が撮れないというイメージを変えたい」とコメント。現在は金沢に拠点を置いていることを明かし、「さまざまな場所での経験を生かして豊かな映画を作りたい」と意欲を見せた。

さらに女性監督の活躍については「特別に意識はしていない」としつつも、「日本じゃなくても好きなところに住んで多様な経験をして、その経験を生かして豊かな映画を作っていけたら良いですよね。そんな一つのサンプルに、自分がなれていたらいいなと思っています」と語った。
○原作者からもエール

なお、原作者の川上未映子は海外滞在中のためカンヌには不参加だったが、岨手監督は「“楽しんでください”とメッセージをもらった」と明かし、チームの絆をうかがわせた。

「ある視点」部門の授賞式は現地時間5月22日に行われる予定。国際的な評価にも注目が集まる中、本作は2026年秋に全国公開される。

作品情報
『すべて真夜中の恋人たち』
2026年秋 全国ロードショー
(c)2026『すべて真夜中の恋人たち』製作委員会

【編集部MEMO】
2008年に「乳と卵」で芥川賞、2019年に「夏物語」で毎日出版文化賞を受賞した川上の初の恋愛小説で、2011年の刊行以降、国内累計40万部を突破。さらに全米批評家協会賞小説部門に日本人として初ノミネートされ、「TIME」誌の“2022年の必読書100冊”にも選出されるなど、海外でも高い評価を得ている。
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