【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#35


 アルバム『ビートルズ・フォー・セール』(1964年12月4日発売)⑥


  ◇  ◇  ◇


 今回は1964年10月18日に録音された2曲。日本が東京五輪で大騒ぎしている頃、ビートルズは、スタジオにこもって、こんな曲をレコーディングしていたのである。


 まずは、ポールが16歳のときに書いた曲。何度も書いてきたように、急いで作ったアルバム『ビートルズ・フォー・セール』なので、アマチュア時代の曲も使って、埋め合わせをしなければならなかったということだ。【オリジナル記事で試聴する


 聴いていて、歌い出しからすぐ(試聴リンク再生時間「0:05」)の歌詞「♪ユー・ルック」のところで、妙な響きになることが分かるだろう。


 昔作った曲だからか、コード進行がこなれていないのだ。


 細かく言えばイントロのキーは「C」、歌い出しから「♪アイヴ・ゴーン」(「0:09」)まではキーが「G」に変わり、次の「♪フォー・トゥモロウ~」からのキーはまた「C」。という感じで、何とも目まぐるしく安定しない(キーの解釈には幅があるので、これが唯一絶対の正解ではないので注意)。


 まぁ小理屈はさておき、つまりはまだまだ習作レベルの作品ということだ。「太陽を追っかけるぜ」という青春ドラマのような歌詞も何だか幼いし。


 なお編成はベースなし、ドラムスなし。リンゴは膝を叩いている。アルバム『ビートルズ・フォー・セール』内の最短の曲。唯一の1分台。


■『みんないい娘』


 アルバムラストで、やっとジョージのリードボーカル曲が登場。待たせ過ぎた周囲の気遣いか、満を持して歌うのはモテモテ男の歌である。


 原題「エヴリバディズ・トライング・トゥ・ビー・マイ・ベイビー」の直訳は「みんな僕の彼女になろうとしている」なのに邦題が「みんないい娘」。ちょっと意味が違うな。


 満を持して持して持して参ったからか、ジョージの歌もギターも絶好調だ。


 特にカントリー風の長めのギターソロ(「1:09」から)がいい。その後のビートルズの「ロック化」「アート化」によって、カントリー風味は後退していくが、この時期のジョージによる軽快なギタープレーは地味ながら特筆すべきと思う。


 だが、この曲の魅力は、何といってもエンディングのダメ押し(「2:17」から)。例えば、吉本新喜劇で、出演者がギャグを披露して、舞台裏に帰るときにひっくり返ったりする、ダメ押しの小ボケを想起させるものだ。


 ということはこの曲のエンディングのギターを弾いているのは「島木ジョージ」か。言うたった……。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。

早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた最新刊「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)が絶賛発売中。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が発売。ラジオDJとしても活躍。


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